あうとわ~ど・ばうんど

David S. Ware - Surrendered

先夜名前を出したついでに、これも購入している。

Surrendered

Surrendered

David S. Ware(ts) Matthew Shipp(p) William Parker(b) Guillermo E. Brown(ds)


デヴィッド・S・ウェアがメジャーレーベルのコロンビアに残した2枚のうち、あとの方のアルバム(最初の作品「Go See the World」だけ持っていた)。前作の吹き込みから2年がたち、カルテットのメンバーも、ドラムがスージー・イバーラからギレルモ・ブラウンへと交代している。もしかして前作が売れなかったのだろうか、よりスピリチュアルというのかゴスペル的というのかそういった曲想が多くなり、ウェア以外のメンバー(というか、主にマシュー・シップ)もいわゆるジャズ寄りのプレイへとシフトしている。が、悪くはない。収録曲の多くは日本人がやると演歌になってしまう(アケタさんのあの曲とかあの曲とかを思いださせる)聴き手の情緒に直截に訴えかけるようなものが多くて、前作よりもこちらの方がウェア入門編として良いのかもしれない。


参考動画(1曲を除いて全部あった)
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Sirone Bang Ensemble - Configuration

引き続き購入した中古盤を聴き進める。

Configuration

Configuration

Billy Bang(vln) Charles Gayle(as, ts) Sirone(b) Tyshawn Sorey(ds)


田中啓文さんは本盤を「隠れた名盤」と評したが、なるほどそうかもしれない。シローネとビリー・バングを双頭リーダーとしつつ、チャールズ・ゲイルをフィーチャーしたカルテット、なのだが、ドラムが何と今を時めくタイショーン・ソーリー! 2004年の録音当時は24歳、既に前年「Blood Sutra by Vijay Iyer」に参加していたとはいえ、おそらくまだまだ無名の若手であったにちがいなく、田中さんも「ドラムもよくて」ぐらいしか記述がない。しかし、このへんの人脈とも交流があった(というか、ゲイルと共演していた)とは驚いたなあ。アルバムは、シローネとバングのコンポジションの演奏であって、ゲイルもアルトとテナーを使い分け、概ね曲の枠内で(時に食い破りつつ)自由なソロを取る。激しいブロウをしなくても、吹き伸ばしの微妙な揺らぎだけで万感無量交々胸に迫る素晴らしい音であり、デヴィッド・S・ウェア亡き現在、こんな音を出す人は他にいない。

Ken Vandermark's Sound In Action Trio - Design In Time

今日さっそく買い足したので、滞りなく聴き進めていかなければ。というわけで、これはヴァンダーマーク関連で買い漏らしていたアルバム。

Design in Time

Design in Time

Ken Vandermark(ts, cl) Robert Barry(ds right) Tim Mulvenna(ds left)


ヴァンダーマークとドラム2人という変則トリオだが、輻輳リズムの上をヴァンダーマークがブロウする、というような感じではなくて、クレジットを確認してようやく、ああそういえばベースがいなかったな、とまるでコードレスサックストリオを聴いていたような感覚に陥る不思議なサウンドである。オーネット3曲、サン・ラ、アイラー、ドン・チェリー、モンクのオリジナル各1曲に、ヴァンダーマーク作4曲の計11曲で、ヴァンダーマークのオリジナルも、前述の誰かの曲であるように錯覚してしまう印象的なテーマを持つコンポジションとなっている。99年の演奏だが、ヴァンダーマークの演奏はフリーであるよりも、明確に曲の内側に留まろうとしているようであり、もし今こういう編成だったら絶対違うふうに吹きまくるはずだと思うと、ヴァンダーマークの今も変わらない芯の部分と今は捨てた(わけでもないだろうけど)ものとを対照しながら興味深く聴いた。(ところで、このグループの次作「Gate」は持っているはずなのだが、なぜか見当たらない。困るなあ)


そういえば年末、10日前に発送されたヴァンダーマークの新作箱がまだ届かない。早く来い来い。

Prima Materia with Rashied Ali - Bells

続けて、これも機会があったら聴きたいと思っていたアルバム。

Bells

Bells

Rashied Ali(ds) Louie Belogenis(ts) Allan Chase(as) Joe Gallant(b) Greg Murphy(p)


ラシッド・アリとルイ・ベロジナスが属していたグループによる、アルバート・アイラー「Bells」のカバー。1時間以上ぶっ通し、ではあるが、幾つかのパートに分かれてそれなりにバラエティーに富んではいるので、聴き疲れることはない。ただしやっぱりだれる瞬間はあって、まあそうだよね、という印象ながら、ベロジナスの吹きっぷりはしっかり堪能できました。(しかし、かつての黒人フリージャズの系譜を継ぐ中堅・若手には、けっこう白人が多い気がするなあ)

Chris Lightcap Quartet / Lay-Up

アンドリュー・ヒルばかり聴いていてもいいのだが、せっかくまとめ買いしたCDがあるのだから、聴いていこう。

Lay-Up by Chris Lightcap Quartet (2004-11-16)

Lay-Up by Chris Lightcap Quartet (2004-11-16)

Tony Malaby(ts) Bill McHenry(ts) Gerald Cleaver(ds) Chris Lightcap(b)


クリス・ライトキャップ、2000年の初リーダー作。実はライトキャップと共演者の名前だけを見て、現在の彼のグループ Bigmouth の源流となった作品「Bigmouth」なのだろうと思い込み、帰宅して確認してみたら、それに先立つ初リーダー作だったわけなのだが、両作ともメンバーは同じなので、これが水源のアルバムなのだと言って差し支えあるまい。聴きはじめてしばらくは、しまった、これは失敗したかとも思ったが、やがてマラビーが辛抱たまらんっという具合に爆発してくれた。ふぅよかったよかった。

Greg Osby - The Invisible Hand

昨日の今日ですが、本年もよろしくお願いします。


さて。ツイッターで年末に呟いたけれど、札幌市内某店の中古ジャズコーナーが今すごいことになっていて、とりあえず10枚ほど購入した。その中の一枚。実はこのアルバム、長いこと探していたのだった。めでたしめでたし。年末と年始をまたいでずっと聴いていた。

Invisible Hand

Invisible Hand

Greg Osby(as, cl) Gary Thomas(fl, afl, ts) Andrew Hill(p) Jim Hall(g) Scott Colley(b) Terri Lyne Carrington(ds)


アンドリュー・ヒルは80年代にブルーノートに復帰を果たしたが、かつてのような大量録音を行うこともなく、2作品のみで再び専属を離れたのにはどんな裏事情があったのか知らない。しかし2度目の復帰を果たす2006年までの間、80年代に彼のグループのフロントラインを務めたグレッグ・オズビーが2000年のアルバムに彼を招請したのは心温まるエピソードだと思う。それが縁となって最後の復帰につながったのではないか、と勝手に想像している。

裏ジャケにオズビー、ホール、ヒルの3人が写っていることからしても、3人の交歓がアルバムの中心だろう(ゲイリー・トーマスはアンサンブルのみ)。全10曲中、3人のオリジナルのほか、ジターバグ・ワルツ、インディアナ、ネイチャー・ボーイなども演奏されている。オズビーも昔はスティーヴ・コールマンと並ぶ M-Base の雄であったはずだが、曲折的ラインは控えめになり、まろやかな音色はこの当時ヒルのグループにいたマーティー・アーリックとも共通する。しかし、ヒルが数音発しただけで、オズビーの美味しいアルトも、ホールの滋味深いギタープレイすら、後景に退く感がある。やっぱりヒルは偉大なスタイリストだ、と思う。

2016年ベスト

恒例(と言ったって誰も待ってない)企画をば。今年も大豊作の年となった。ジャズを聴きはじめてもうすぐ30年になるが、今ほど面白い年代はないんではないか、という充実ぶりである。しかも、その気になれば世界のどんな片隅の音源も入手できるし。というわけで、昨年8年ぶりに撤廃した各部門の枠を今年も拡大し、ミュージシャンやレーベルのダブりもなるべく許容した。輸入新譜と邦人新譜が各10枚、発掘・復刻版が海外と国内の各3枚、そして新設のダウンロードアルバム部門も海外と国内の各3タイトル、ついでに各部門に「おまけ」を1タイトル付けた(理由はそれぞれ参照)。なお選考基準は、今年よく聴いたもの、インパクトの大きかったもの、新奇なもの、お付き合い、思い入れ、バランス、等を考慮した結果である(まあ、こういうのは選者の美意識なりスタンスなりが反映されるものにすぎないのであって、どうしたって中立的・客観的たりえないのである)。


海外新譜

Dan Weiss - Sixteen : Drummers Suite
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Vijay Iyer / Wadada Leo Smith - A Cosmic Rhythm with Each Stroke
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Weasel Walter Large Ensemble - Igneity: After The Fall Of Civilization
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Leila Bordreuil / Michael Foster - The Caustic Ballads
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Anthony Braxton - 3 Compositions (EEMHM) 2011
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Bi-Ki? // Quleque Chose au Milieu
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PBB's Bread & Fox - Big Hell On Air
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John Butcher, Thomas Lehn, Matthew Shipp - Tangle
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Luc Houtkamp & Hannes Buder - The Malta Sessions
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John Zorn - The Classic Guide To Strategy Volume 4
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正直に告白すれば、ウィーゼル・ウォルターとアンソニー・ブラクストンとジョン・ブッチャー~マシュー・シップとジョン・ゾーン以外は何でもいいのであるけれど、前述の通りなるべく新奇なものを紹介したかったので、こういうラインアップになった。なおこの部門のベスト1はジョン・ブッチャーとマシュー・シップ(とトーマス・レーン)の「Tangle」である。ちなみにこの部門の「おまけ」はヴォーカルアルバムを紹介しておきたい。

John Zorn - Madrigals
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邦人新譜

明田川荘之~楠本卓司~本田珠也 / アフリカン・ドリーム
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Ryoko Ono & Rogier Smal - Wood Moon
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近藤直司 - 永田利樹 - 瀬尾高志 / Petite Fleur
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秋山徹次 / 大城真 / すずえり / ロジャー・ターナー Live at Ftarri
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加藤崇之 / PEPETAN
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HMT
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坂田明 × 岡野太 / duo improvisation
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カフカ鼾 / nemutte
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後藤篤 カルテット - Free Size
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梅津和時 × グラント・カルヴィン・ウェストン / Face Off
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輸入盤には大編成も3枚あったが、国内盤はいずれも4人以内の少数精鋭ばかりという結果になった。この部門のベストは、坂田さんと梅津さんのいずれもドラムとのデュオアルバムが同率1位であろうか。この部門の「おまけ」はこれです(もともと、このCD-Rを入れたいがために「おまけ」を企図した)。

吉田野乃子デモCD-R
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DL新譜

Mary Halvorson & Noel Akchote
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Peter Evans - Lifeblood
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Roger Turner / Yukihiro Isso - TAKANEHISHIGU
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SXQ Live at Cafe Footprints
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中島さち子 - Time, Space, Existence
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Yanagawa Ono SAX DUO
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メアリーとアクショテのデュオも特筆すべき素晴らしさ(ライブ盤もある。11月13日参照)だが、この部門の1位はピーター・エヴァンスの大傑作ソロである。おまけは、発売数日で消えてしまった Chris Pitsiokos の幻のアルバムを(のちに同じメンバーで仕切り直しとなっている。8月29日参照)。

Chris Pitsiokos - Before the Heat Death
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再発・復刻版

William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975 - 1989
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David S. Ware & Matthew Shipp DUO / Live in Sant'Anna Arresi, 2004
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Buell Neidlinger - Gayle Force
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富樫雅彦菊地雅章 / コンチェルト
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森山威男 ミーツ 市川修
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SEIKATSU KOJYO IINKAI / 生活向上委員会ニューヨーク支部
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「生活向上委員会ニューヨーク支部」の再発にも驚いたが、最も驚いたのはやっぱりチャールズ・ゲイルが20代だった60年代の発掘音源だろう。この部門のおまけは、スティーブ・リーマンの「Interface」リマスター再発LP化について。まあ私には関係ないのだけど、ブレイク以前のリーマンのリーダー作について知りたい人はこちらをご参照いただければ幸いです。

Steve Lehman Camouflage Trio - Interface
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まとめ

全体を通じてのベスト1はピーター・エヴァンスの「Lifeblood」である。ついにDLアルバムが1位になってしまった。来年以降はさらにこういうことが増えていくのかなあ。


というわけで、今年も残すところあとわずか。昨年末に立てた目標のうち、「1年間の半分にあたる183エントリ」はどうにか達成したが、「ジャズの話だけでなく他の話題も提供」は全く手つかず、さらに明記はしていないが、エリック・ドルフィーに関する雑文も中途半端なまま、2年連続でまるで宙に消えるみたいに途絶している。2017年の目標は「200エントリ」と、手つかず或いは途絶した仕事をやりおおせることだろうか。

以上、本年もお付き合いいただき、誠にありがとうございました。来る年も生温くお付き合いいただければ幸いです。よろしくお願いします。