あうとわ~ど・ばうんど

Zack Clarke / Mesophase

気づいたら1月1日が終わっていたが、本年もよろしくお願いします。

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Zack Clarke / Mesophase
clean feed, 2018)
Zack Clarke (p, electronics), Chris Irvine (cello), Charlotte Greve (sax, cl, fl), Nick Dunston (b), Leonid Galaganov (perc, waterphone, shakuhachi)


ザック・クラークはニューヨーク在のピアニスト。clean feed からは2017年のピアノトリオ作品『Random Acts of Order』に続く、2枚目のリーダー作となるほか、ピアノトリオ作品のドラマーであるドレ・ホチェヴァーの『Transcendental Within the Sphere of Indivisible Remainder』(16年11月29日参照)にも参加している。彼のリーダー作の特徴はピアノ演奏と電子音響の共存であるようだ(前作は未聴)。ピアニストとしては、カテゴリー的には「フリー系」に分類されているみたいだが、フリージャズ味はあまり感じない。ハーモニーやメロディーの抽象度はさほど高くなく、非常に理知・構成的なプレイが聴ける。エレクトロニクスの扱い方にしても、異物感はあまりなく、まるで木々のざわめきや鳥のさえずりを思わせるような美しく効果音的な配置が多い。タイトルには「自然と人造の融合」という意味が込められているらしいが、チェロやベースの玄妙な響き、官能的なアルトックスやフルート、細やかなパーカッションなどとともに、先ほど書いた通り、融合というよりは「共存」を感じるのだ。


2018年ベスト

12月はすっかり更新が滞ってしまったが、2回しか更新しなかった7月と一緒で、理由を書くと愚痴に終始してしまいそうなので、おとなしく再開することにする。で、この時期恒例のベスト、ということになるのだけれど、今年、その7月についに新譜を買うペースに聴くスピードがまるで追い付かなくなり、現時点で未聴CDとデジタルアルバムが150タイトル超えという情けない有り様となってしまった。おそらく今後、新譜を買うのをやめない限り、未聴CDが増えることはあっても減ることはないであろう、と暗澹たる気分になる。のだが、某氏が「自分には1千枚以上ある」と教えてくれたので、気が楽になった。

というわけで(どういうわけなんだか)、未聴アルバムを大量に抱えたまま、今年聴いた作品のベストである。毎年書いていることであるが、選考基準は、よく聴いたもの、衝撃の大きかったもの、新奇なもの、贔屓、思い入れ、自分の立ち位置、等を考慮したものであり、けっして中立的ではない。今回は国内・海外、新譜・発掘の別なく、2018年にあやかって18枚。ブログ掲載順で、順位は特にない。JazzTokyo の「My Pick」に投稿した『Cubic Zero / Flying Umishida』と『Eric Dolphy / Musical Prophet』は別格として除いてあり、合わせると「ベスト20(18)」ということになる。


灰野敬二 ジョン・ブッチャー / 光 眩しからずや
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Brandon Lopez / Matt Nelson / Andria Nicodemou / Gerald Cleaver - The Industry Of Entropy
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Christian Lillingers GRUND / C O R
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石田幹雄 / 時景
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スガダイロー / 季節はただ流れて行く
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Tim Berne / Matt Mitchell duo - Angel Dusk
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Subtle Degrees / A Dance That Empties
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CP Unit / Silver Bullet in the Autumn of Your Years
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Kaoru Abe / Sabu Toyozumi - Mannyoka
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RyokoSam / Gold​-​cut Square Voice
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Kyoko Kitamura’s Tidepool Fauna / Protean Labyrinth
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Peter Evans / The Veil
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Stroboscope | The Bridge Sessions
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Mette Rasmussen | Chris Corsano - A View if The Moon (from the Sun)
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原田依幸 川下直広 / 東京挽歌
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Mary Halvorson - Joe Morris / Traversing Orbits
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David S. Ware Trio / The Balance (Vision Festival XV +)
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Charles Mingus - Jazz in Detroit / Strata Concert Gallery / 46 Selden
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本年もお付き合いいただきありがとうございました。2019年は、どんなに更新が滞っても週一回ぐらいは必ず書くようにしたいなあと思ってますが、どうなることやら。ともあれ、よろしくお願いします。良いお年を。

「このパフォーマンス2018」「このディスク2018」寄稿

JazzTokyo 年末(年始)恒例企画。「このパフォーマンス2018(海外編)」として、札幌在住トランぺッター横山祐太が10月11日に行った『ASHITA NO OTO #2』から、ケヴィン・コーコランのパーカッションプレイを取り上げた。

jazztokyo.org



「このディスク2018(国内編)」は『Cubic Zero / Flying Umishida』。

jazztokyo.org



そして「このディスク2018(海外編)」には、数多の現代ジャズを差し置いて、55年前の録音である『Eric Dolphy / Musical Prophet (The Expanded 1963 New York Studio Sessions)』を選んだ。

jazztokyo.org

Flavio Zanuttini Opacipapa / Born Baby Born

clean feed の新譜が届いたので、まずPBB参加作から聴く。

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Flavio Zanuttini Opacipapa / Born Baby Born
clean feed, 2018)
Flavio Zanuttini (tp, compositions), Piero Bittolo Bon (as), Marco D’Orlando (ds)


メンバーはいずれもイタリア勢。トランペット、アルトサックス、ドラムスというやや変わった編成だが、演奏を聴いていると、なぜかベースが入っていると錯覚する不思議。収録された8曲は全てリーダーのオリジナルで、明るくノリの良い曲が多く、アグレッシヴなブロウはPBBの役目だ。特に、崩壊手前のまま突き進んでいくような2曲目のソロが最高。


Scott Fields Ensemble / Barclay

Scott Fields Ensemble が、作家サミュエル・ベケットを題材にしたシリーズの最新作を9年ぶりにリリースした。


Scott Fields Ensemble / Barclay
Ayler Records, 2018)
Scott Fields (elg, compositions), Matthias Schubert (ts), Scott Roller (cello), Dominik Mahnig (perc)


07年の「Beckett」(clean feed)=07年2月13日参照、09年の「Samuel」(new world)=09年11月15日参照=に次ぐ第3弾。10年近い歳月の間に、パーカッションがジョン・ホーレンベックから、若手のドミニク・マーニグ(?)に交代している。なお、「バークレー」はベケットのミドルネームだ。


いつものように、収録曲のタイトルはベケットの戯曲(シナリオ)から採られている。確認してみよう。()内は代表的な邦題である。

  1. Krapp's Last Tape(クラップの最後のテープ)
  2. ... but the clouds ...(... 雲のように…)
  3. Catastrophe (カタストロフィー)


おそらく各戯曲からインスパイアされた方法論を作曲に取り入れているのだろうと思われるが、よく分からない。というか、わたしは演奏が良ければいいのだ。打楽器奏者の交代で、フリージャズ濃度が高まったように感じられるが、むしろそれは好印象。10年前から主張しているが、モロイ三部作や後期三部作をテーマにした音楽も聴いてみたい。

Charles Mingus - Jazz in Detroit / Strata Concert Gallery / 46 Selden

チャールズ・ミンガスの未発表音源を聴く。

BBE Music, 2018/1973)
Charles Mingus (b), Roy Brooks (ds, saw), John Stubblefield (ts), Joe Gardner (tp), Don Pullen (p)


録音は73年2月。この組み合わせによる音源が正式に出回るのは、たぶん初めて。この時期のミンガスグループのメンバーの去就を整理してみよう(Charles Mingus Discography 参考)。最初に参加したのはロイ・ブルックス、72年夏だ。次いで秋にジョー・ガードナー、年が明けてジョン・スタブルフィールド(ちなみに前任はハミエット・ブルーイット)とドン・プーレンが加わり、本作のメンバーとなる。なおこの年の夏にはドン・プーレンを残して、他のメンバーが入れ換えられ、ジョージ・アダムスが参加してくる。

70年代のミンガスグループというと、のちの活躍もあってプーレン=アダムス最強、と考えがちだが、何の、このメンバーも過激で(特に「直立猿人」)それにはロイ・ブルックスの貢献が大きそうだ。そしてやっぱりドン・プーレンのピアノが最高である。以前、ツイッターで「好きなピアニスト10人」というハッシュタグが流行り、わたしは参加しなかったものの、プーレンは外せないなとは考えていて、本作を聴いてその思いを強くしたものだ。

ところでCDは、メンバーの写真をあしらって5枚に分散収録されているが、1枚20分にも満たないCDもあり、これは一体どうにかならなかったのか。