あうとわ~ど・ばうんど

David S. Ware Trio / The Balance (Vision Festival XV +)

デヴィッド・S・ウェアのアーカイブ音源シリーズ、第4弾が届いた。


David S. Ware Trio / The Balance (Vision Festival Xv +)
AUM Fidelity, 2018)
David S. Ware (ts, saxello), William Parker (b), Warren Smith (ds)


2009年10月、大病から復帰したウェアはまずソロで復活の狼煙を上げると、12月にはウィリアム・パーカー、ウォーレン・スミスとのトリオを率いてサックス演奏生活50周年を記念して「ONECEPT」を吹き込み、翌年まで活動した。その終盤である10月のライブを記録したのが、昨年リリースされた「Live in New York, 2010」だ。本作はその2枚の中間の時期、10年6月27日の Vision Festival XV におけるライブ録音(「Vision Suite 2010」と題され、便宜上Part 1~3に分割されたひと続きの演奏)と、「Onecept」の別テイクではない完全未発表4曲で構成されている。

(ちなみに「Live in Sant'anna Arresi 2004」に記載されていたリリース予定では、第4弾は休養前に率いていたジョー・モリスらとのニューカルテットによる2008年5月のフランスライブのはずだが、予定が変わったのだろうか? なおライナーノートによれば、次回リリースは彼の生誕70周年にあたる来年11月だそうだが、タイトルや内容は書かれていない)


本アルバムはなんといっても、「Vision Suite 2010 Part 1」冒頭のウェアに注目してほしい。テナーサックスによる2分弱の無伴奏ソロの後、パーカーとスミスが加わって繰り出される(正確に言うとその直前から始まっているが)ウェアのひたすら吹き伸ばされる音の凄みに圧倒される。ジャケット(「Live in New York」の色違い)は、まさにこの瞬間のウェアを表現しているように思われる。ウェアは療養前の魂を滾らせるような咆哮とはまた異なった、はだかの魂を差し出すような生々しい音で、約40分のステージを走り抜ける。後半4曲は、アルバムに収録されなかったのが不思議な(2枚組でも良かったんじゃないかと思う)ぐらいの素晴らしい演奏であって、サクセロを用いた2曲も非常に印象に残る。


なお前半のライブには、終了後、ウェアの肉声が記録されている。演奏はビル・ディクソン(この日の11日前に死去)とフレッド・アンダーソン(同じく3日前に死去)に捧げたものだと。だがウェア自身が彼らを追いかけることになるのは、それからわずか2年余りのことであった。


参考:David S. Ware Sessionography