あうとわ~ど・ばうんど

Peter Evans / The Veil

初来日中のピーター・エヴァンスが、ツアーで先行発売しているソロアルバム。


Peter Evans / The VeilMore Is More Records
Peter Evans - Solo Trumpet


ピーターのソロ演奏とは「自分の発展や成長を試す鏡」なのだそうだが、ツアー直前の今年5~6月に録音されたという本作は、圧倒的傑作であった15~16年録音の「Lifeblood」(16年10月13日参照)とはまた異なる豊饒な地平へと耳を脳を誘ってくれる。今回の来日ツアーで私が彼のライブに接することができたのは、15、16日の JAZZ ART せんがわの2公演だった(レビューは10月7日更新の JazzTokyo No.246 に掲載予定)のだが、そこで披露された完全ソロ演奏約20分は、このアルバムの抜粋であったことを、本作を聴いて知ることになった。そして、彼の生演奏を体験できたことが、このアルバムの味わいをさらに豊かなものにしてくれている、と感嘆する。


ライブを観て認識したのは、済々多様な技術を矢継早に惜しげなく披露するエヴァンスのソロ演奏にあって、マイクロフォンがかなり重要な地位を占めていることだ。私のような素人はこの機材をどうしても「拡声器」と認識したがるが、エヴァンスはこれを本来の、空気振動を電気信号に変える装置として扱っている。トランペットのベルから発せられる楽音(実際にこの目で確認しても信じがたいほど、ひたすら人力でエフェクトされた数々の音を含む)以外にも、声、ブレス音、リップ音、バルブ操作音、管の震えすら余すところなく「信号」に変換し、それらの音声を全て、山あり谷ありお花畑も灼熱地獄も渋滞も烈風も仙境もある豊かな「音楽」として提示する。本作を聴くと、そのさまがいろいろリアルに記憶に甦ってくるのだ。