あうとわ~ど・ばうんど

エリック・ドルフィー没後53年

Since June 29, 1964


えーと、すみません。今年も「続き」を書けませんでした。

(「ひたいのアンテナで380万光年離れたフロイからのテレパシーをキャッチしたエリックは超能力者集団を結成、敵の前線基地であるヨーロッパに乗り込み、激しい超能力戦の末、回復不能なダメージを受けたがために肉体を捨て、精神だけの存在となり…」とか「欧州旅時のエリックにはソーラ・カウアイという付き人が従っており、後年、彼の目を通してみた旅日記が発見され、公式ディスコグラフィーとの大幅な食い違いが散見された。そこから浮かび上がる旅の真の姿とは…」とか、とても下らないことを考えたりしたのですが……)

ちなみに新情報といえば、某巨大掲示板に、本当だったら凄い発掘リリース情報が載っていたのですが、こちらもソースが発見できないため紹介できません。


ともあれ初めて聴いたアルバムで、彼を偲ぶ
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Akosh S. & Sylvain Darrifourcq - Apoptose

Apoptose

Apoptose

Akosh S.(ts, ss, tibetan bols, zither, bells, claxons) Sylvain Darrifourcq(ds, per, zither, sextoys, iphone)


「絶叫系」とか「吹き倒す」という表現がこれほどしっくり来る人はいないハンガリー出身のサックス奏者アコシュ・セレヴェニと、Eve Risser のホワイトデザートオーケストラにも参加していたドラマーのシルヴァン・ダルリフール(と読むのだろうか?)のデュオ。2014年リリースだが、目下のところアコシュの最新アルバムのようである。先ほど彼のことを「絶叫系」「吹き倒す」と書いたが、冒頭曲ではたしかにそうなのだけれど、さすがに全編一色というわけではなく、聴かせるべきところはじっくり浸らせてくれるので、作品としてのメリハリは利いてる。ところでシルヴァンの使用楽器の中に凄い名前が紛れ込んでいるのだが、これを一体どこでどのように使ったのであろうか?


試聴(全編)
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Arthur Blythe - Elaborations / Light Blue / Put Sunshine in It

4月に聴いたアーサー・ブライス廉価版2枚組の続編が出ている。

Elaborations/Light Blue: Arthu

Elaborations/Light Blue: Arthu

Arthur Blythe(as) Abdul Wadud(cello) Kelvyn Bell(g) Bob Stewart(tuba) Bobby Battle(ds) etc.


ブライスのコロンビア時代9作品のうち、82~84年録音の5~7枚目をまとめたもの。ディスク1に「Elaborations」、ディスク2に「Light Blue」「Put Sunshine in It」を収録、いずれも初CD化と思われる。どれも実は初聴(昔どこかで酔っ払って耳にしていたことがあるかもしれないが、そうだとしても、やっぱり初聴というべきだろう)。時代の要請なのか、レーベルの圧力なのか、メンバーは所謂ロフトジャズ系の人たちで硬派なジャズをやっているけれど、序盤作品群に比べ表面的にはポップさを増した作りになっていて、セロニアス・モンク曲集である「Light Blue」にしてもそうで、さらにその次作「Put Sunshine in It」では時流に抗しきれなくなったかフュージョンスムーズジャズというのか、よく知らない)路線となってしまう。ただしブライスフュージョンも、アルトの音が非常に良いので意外と悪くなくて(まあ個人的には長く聴き続けられるかと言えば疑問だが)『売れる』可能性もあったんじゃないかとは思うけれど、いかんせんジャズ度が高すぎのがネックになったと推察する。ちなみに「Light Blue」と「Put ~」は一枚のCDの中で続けて再生され、やや違和感はあるものの、それほど落差を感じないことに驚いた(というか笑った)。収録3作品の中では「Elaborations」が好き。

Kate Gentile - Mannequins

Skirl Records の新作を聴く。


Kate Gentile - Mannequins
Skirl Records, 2017)
Jeremy Viner(ts, cl) Matt Mitchell(p, prophet 6, electronics) Adam Hopkins(b) Kate Gentile(ds, vib)


リーダーはブルックリン拠点の女性ドラマー。現代の多くのドラマーがそうであるように、彼女もまたコンポーザーであり、収録されている全13曲は彼女の作曲で、リズムの扱い方に一癖あるといった感じ。テナーとクラリネットを吹くジェレミー・ヴァイナーは、それほどメジャーでないけれど、過去にはスティーヴ・リーマン・オクテットでマーク・シムの代役として2010年のメールス・フェスティバルに出ていた、といえば思い出す人も多いのではないか。爆発的なプレイがなかなか魅力的だ。しかしながら、アルバム中で一頭地を抜いているのはやはりマット・ミッチェルのピアノとエレクトロニクスで、存在感がとても際立っている。

藤井郷子 田村夏樹 / 如月

藤井郷子さん(あるいは田村夏樹さん)の数多あるプロジェクトの中で、最も愛するのがやっぱりデュオ演奏。なので、新作が出れば当然入手する。

如月 -KISARAGI - (Libra 102-042)

如月 -KISARAGI - (Libra 102-042)

田村夏樹(tp) 藤井郷子(p)


発売されたのは水無月なのに、タイトルは如月。というのは録音されたのが一昨年の2月(一部は昨年5月)だからで、蓮實重彦(だったかどうか忘れた)が昔、文芸誌は春に大雪の話題が載っていて季節感がない、みたいなことを書いていたなあなどと考えつつ、収録曲のタイトル一覧を眺めてみると、「野分」とか「霧氷」とか季節がバラバラなのであって、たんに四季がテーマということのようだった。それはともかく本作はいつもとは趣が異なっていて、アルバム一枚丸ごと最初から最後まで楽器本来の音を一切に使わずに演奏する、というコンセプトの由。すなわちピアノは内部奏法やら打楽器的用法に終始し、トランペットもズズズズズ~やらビュッギュワッピヨヨヨヨヨーンといった異音を駆使しまくる。のだが、音楽はこの2人ならではの幽趣または游趣に満ちていて、というよりむしろ純化されていて滋味深い。2人は来月下旬、デュオではないけれど3年ぶり(?)に北海道に来ることになっていて、楽しみにしている。

Yuko Fujiyama × 吉田野乃子 デュオライヴ & トリオ深海ノ窓 デモCD-R

22日夜は札幌くうで、Yuko Fujiyama(p) × 吉田野乃子(as) duo を観た。

札幌出身ニューヨーク在住ピアニストの藤山裕子さんとわれらが野乃子ちゃんのデュオライブ。11年前、ジャズを勉強するために渡米した当時18歳の野乃子ちゃんがNY到着から1週間後、現地に行ったら連絡してみなさいとN氏に教えられた通り藤山さんに会いに行くと、そのまま The Stone に連れていかれ、彼女が魔道にのめり込むきっかけをつくった張本人が藤山さんだったとのこと(とはいえ、野乃子ちゃんの家では彼女が小さいころから山下洋輔トリオが流れていたわけだから、素養はあったわけだが)。

藤山さんのピアノを実は初めて聴いたけれど、抽象的な感じが一つもない、常にある種の情感を湛えた不思議なフリージャズピアノだった。野乃子ちゃんは「恩師」とのセッションに当初は気合が入りすぎたようであったが、セカンドセットにはそれも落ち着いて、良い演奏が続いた。(ちなみに彼女はよく私に「怒られるような演奏はできない」とか「観られてると思うと緊張する」とか「厳しい感想待ってます」などと言うのだが、彼女にそんな手厳しいことを言ったり書いたりした記憶は全くないのだけれどなぁ)


物販にて、先日のお披露目ライブに行けなかった「トリオ深海ノ窓」のデモCD-Rを購入。

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吉田野乃子(sax) 富樫範子(p) 戸谷肇(b)


2曲16分40秒ほどの小品であるが、ふむ、なるほど。抒情的なジャズと見せかけつつ魔導音楽、という意味では今夜のライブと同根であるかもしれない。個人的には歌い上げっぷりの端々に、彼女の渡米前の師匠の影を如実に感じてしまうのが非常に興味深い(そういえば師匠のオリジナル曲のタイトルに「受け継がれる記憶」というのがあったっけ、などと思い出してしまった)。それからどうも野乃子ちゃんは帰郷後、メロディーへの希求が強まっているようにも受け取れるのだが、その傾向がどうなっていくかにも注目している。


参考動画
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Denis Guivarc'h 4tet - Exit

長くDL版のみで楽しんできたフランスのアルトサックス奏者、Denis Guivarc'h のデビュー作のCD版をようやく入手できた。

Exit

Exit

Denis Guivarc'h(as) Pierre de Bethmann(p) Jean-Luc Lehr(b) Mathieu Chazarenc(ds)


どうして彼はいつまでたっても、あまり知られていないのだろう。3年前にも同じことを書いた記憶があるが、スティーヴ・リーマンやスティーヴ・コールマンにも通じるメカニカルで曲折的なラインを、彼は非常に端正な良い音で滑らかにクールに吹きこなしていて、Criss Cross や Fresh Sound New Talent あたりから作品を出せば、すぐに注目されることは間違いないと思われるのだけれど。本作は2008年のアルバムで、彼のオリジナル曲(コルトレーンやモンクを下敷きにしたものも含めて)を中心として、「Nefertiti」や「All The Things You Are」といった有名曲も配置し、バランスがとても良い。まあしつこく書いていれば、そのうち PBB のように火が付くのではないかと思ってはいるのだが。


参考動画(すべて彼自身による投稿)
www.youtube.com
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