Action Jazz
ノルウェーの要注目レーベルSmalltown Superjazzzから、すばらしい新作が届いた。「Action Jazz/The Thing」。全9曲50分。Mats Gustafsson(grafton plastic alto,bs,slide sax)Ingebrigt Haker Flaten(b)Paal Nilssen-Love(ds)。
いいよー、このアルバムは。The Thingは、現代人の疲れに一時の心地よい癒しを与えてくれるムーディーで小粋なジャズトリオ。なわけがあるはずなく、現代最凶の重爆フリージャズトリオである。一昨年の傑作「Garage」では、深夜アルバムを聴いている最中突然、表に飛び出し、電柱に廻し蹴りを食らわせたい衝動に駆られたことがある。
①「Sounds Like a Sandwich」は、昨年のライヴ盤「Sounds Like a Sandwich/Cato Salsa Experience and The Thing with Joe Mcpee」でも冒頭のナンバー。いきなりグスタフソンが暴発、ニルセンラヴは手が何本あるのかというほどの大乱打、フラーテンはアコースティックベースで2人の爆音に負けないぶっといビートを刻む。もう、すぐに頬が緩んでしまう。
だが、ただ爆走するだけのバンドではない。オーネット作③「Broken Shadows」やグスタフソン作⑨「Strayhorn」のようにじっくり聴かせる曲、スウェーデンのバリトンサックス奏者ラーシュ・ガリン作⑥「Danny's Dream」のように緩急自在の心地よい演奏もある。
しかし、このバンドの魅力は、やはり何と言っても破壊的疾駆だろう。ベストは②。なななんとなんと、山下洋輔の名曲「Chiasma」を演奏しているのだ(山下グループ以外がこの曲を演奏するのを初めて聴いた気がする)。かつてヨーロッパで一世を風靡した山下トリオのことは、この3人もしっかりリスペクトしているのだろう(グスタフソンはスウェーデン人、残る2人はノルウェー人)。またグスタフソンは、ジム・オルークとのバンドDiskaholics Anonymous Trio(3月29日参照)で来日した際、ライヴを聴きに来た坂田明に、オルークとともにサインをもらいに行ったというほどの坂田ファンらしい(ちなみに、この時がきっかけでオルークと坂田のコラボが実現したという。アルバムは昨年12月15日、6月28日参照)。さて、肝心の演奏だが、テーマメロディーが若干怪しいものの(フェイクしてるのかもしれないが)、往時の山下トリオの雰囲気を意識しているようだ。特にグスタフソンは、ここでは珍しくアルトを吹いているのだが、そのサウンドが意外にも坂田にかなり近いので驚いた。