あうとわ~ど・ばうんど

Alex Ward Item 10 - Volition (Live At Cafe Oto)


Alex Ward Item 10 - Volition (Live At Cafe Oto)
COPEPOD, 2018)
from left to right in the stereo spread; Alex Ward (elg, cl), Yoni Silver (as, bcl), Cath Roberts (bs), Sarah Gail Brand (tb), Otto Willberg (b), Andrew Lisle (ds), Charlotte Keeffe (tp, flh), Benedict Taylor (viola), Mandhira De Saram (violin), Joe Smith Sands (elg)


先日、Twitter でアレックス・ワードが来日していたと知って驚いたのは、ちょうど彼の新作を聴いていたところだったからだ。この Item 10 というグループはその名の通り10人編成で、彼が大規模アンサンブルのための作曲(と即興)に挑戦するため結成されたのだそうだ。メンバーは Andrew Lisle のような長年の仲間から、このグループが初共演となるミュージシャンまでさまざま。1曲目の短い曲のみオープニングアクトのように全員の音が鳴らされた後、それぞれ30分以上の2、3曲目では、ワードが曲の中で順次2~3人の組み合わせをチョイスし、即興(手法含む)を指示する構成で曲が進んでいく。時々ハッとするような聴きごたえはあるものの、グループとしてはまだまだこれから、というところだろうか。

Myra Melford - 12 From 25


Myra Melford - 12 From 25
Firehouse 12 Records, 2018)
FEATURING: Duo with Allison Miller; Spindrift with Nicole Mitchell & Tyshawn Sorey; Dialogue with Ben Goldberg; Trio with Mary Halvorson & Miya Masaoka; Be Bread with Cuong Vu, Ben Goldberg, Brandon Ross, Stomu Takeishi & Matt Wilson; Same River Twice with Dave Douglas, Chris Speed, Erik Friedlander & Michael Sarin; Snowy Egret with Ron Miles, Liberty Ellman, Stomu Takeishi & Ted Poor; Duo with Marty Ehrlich; Myra Melford Trio with Lindsey Horner & Reggie Nicholson


マイラ・メルフォードは2015年3月24~29日、NYのThe Stoneにおける自身のレジデンシーに、様々なグループで演奏。出演した10グループによる12公演から1曲ずつ集めたのが本作である(なお本作収録以外の曲も含む4曲が「Myra Melford Live at The Stone EP」として既に無料公開されている)。本アルバムの出演クレジットは bandcamp からコピペしたが、Crush Quartet (with Cuong Vu, Stomu Takeishi, Kenny Wollesen) が抜けており、2公演行った Same River Twice と Snowy Egret は各公演から2曲が収録されている。「25」というのは彼女のキャリア年数を表すようだ。

10グループによる演奏が続いていくわけだが、まるで打楽器デュオのようなアリソン・ミラーとのデュオから始まり、リンゼイ・ホーナー、レジー・ニコルソンとの歴史的トリオに至るまで、寄せ集めという感はなくて、実に自然にアルバムとして統一感が取れているのは、彼女の美意識の賜物だろう。メアリー・ハルヴァーソンが加わった佳曲や Be Bread の演奏も良いが、ベストはベン・ゴールドバーグとのデュオ。黄昏時を思わせるしみじみとした味わいに酔う。


レジデンシーを収めた映像
www.youtube.com

CRISCO 3 - You can never please anybody

Edoardo Marraffa の18年ぶりの無伴奏ソロアルバム(11月4日更新の JazzTokyo でレビュー予定)をレーベルに直接注文した際、予約特典としてレーベル初期作3枚のうち1枚をオマケするので希望を教えてほしいと連絡があり、PBB参加の本作を選んだ。


CRISCO 3 - You can never please anybody
Aut Records, 2011)
Francesco Bigoni (ts, cl), Piero Bittolo Bon (as, acl), Beppe Scardino (bs, bcl)


サックスアンサンブルのグループと言えば、ジャズの世界ではWSQをはじめ、ほとんどが四重奏であるのに対し、本グループはなぜか三重奏である。アンサンブルの厚みという点では、たった一音の違いなのに、とても薄いという印象を受けてしまうのは仕方ないが、緻密なコンポジションとアレンジがグループのコンセプトのようだ。メンバーがブロウする展開もそう多くないとはいえ、時折、雲間から指す光のようにPBBの輝かしいアルトサックスがひるがえる瞬間は、やはり心が躍るのである。


参考動画
www.youtube.com

Niescier - Tordini - Sorey / The Berlin Concert

The Berlin Concert

The Berlin Concert

Angelika Niescier (sax), Christopher Tordini (b), Tyshawn Sorey (ds)


アンゲリカ・ニーシャー(と、jazztokyo.org では表記している)に関しては、これまでいくつかの音源を聴いてきたが、そのつど「うーむ・・」などと呟いているのは、結局一番最初に聴いた「QUITE SIMPLY」のような演奏を求めていた、ということだ。だから本作を聴いて、手放しで喜んでいる。ベースはトマス・モーガンからクリストファー・トーディーニに交代しているが、タイショーンの強烈なリズムとクリストファーが押し出すビートに乗って、曲折感たっぷりにアグレッシヴに吹きまくるアンゲリカが良い。ライブというのも好演の要因だろう。



Niescier-Tordini-Sorey @Jazzfest Berlin, 5.8 from Angelika Niescier on Vimeo.


Niescier/Tordini/Sorey @Jazzfest Berlin, The Surge from Angelika Niescier on Vimeo.

Past Present & Andrew D'Angelo - Short Pieces

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Past Present & Andrew D'Angelo - Short Pieces
(Hevhetia, 2018)
Andrew D'Angelo (as), Simen Kill Halvorsen (tp), Alexander Hoholm (b), Pete Rende (p), Jim Black (ds), Elias Stemeseder (p)


北欧のトランペット、ベースのデュオユニット「Past Present」にアンドリュー・ディアンジェロが加わったトリオを軸に、曲によってNY勢がゲストに加わる。全10曲で収録時間は25分、題名が示す通りのショートピース集。どの曲も常に何かに似た感じの抒情的なテーマ(あるいはインプロ)が奏でられるだけであり、アンドリュー・ディアンジェロの胸のすくようなブロウを期待していると肩透かしだが、ディアンジェロの音色の美味さは十分味わえる。

Mars Williams presents: An Ayler Xmas Vol. 2

マーズ・ウィリアムスがアルバート・アイラーをテーマに昨年リリースしたクリスマスアルバムAn Ayler Xmas」(昨年11月2日参照)の第2弾が早くも出た。


Mars Williams presents: An Ayler Xmas Vol. 2
(Soul What Records / ESP disk', 2018)
Tracks 1, 3, 4: Mars Williams (saxes, toy instruments), Josh Berman (cor), Fred Lonberg-holm (cello), Jim Baker (p, arp synth, viola), Kent Kessler (b), Brian Sandstrom (b, g, tp), Steve Hunt (ds, perc), Jeb Bishop (tb track 1 only)
Tracks 2, 5: Mars Williams (sax, toy instruments), Thomas Berghammer (tp), Hermann Stangassinger (b), Didi Kern (ds, perc), Christof Kurzmann (lloopp, vo)


マーズが主宰する Soul What Records と ESP Disk' の共同リリースで、前作と同じ Witches & Devils によるシカゴでのライブが3曲(うち1曲にジェブ・ビショップが加わる)、マーズが単身オーストリアに乗り込み現地のミュージシャンと共演したライブが2曲の全5曲。コンセプトは前作と同様、アイラーの愛奏曲をクリスマスソングと組み合わせて演奏するというものだが、前作で時折感じた曲間の「落差」はほとんどなく、全てが自然に流れていく。というか、今回はわたしの知っているクリスマスソングが少ないためか、最後の「おめでとうクリスマス」を除けば、一貫してアイラーの音楽をやっているようにしか思えないのだが、一方でクリスマスの雰囲気は感じられるのは、聖俗混淆という本質が共通しているからだろうか。前作が壮大なギャグに見えて、実はアイラーの本質を突いた大傑作であると看破したのは田中啓文さんであったが、今作はさらにその進化形といえる。

Pulverize the Sound - sequel

ピーター・エヴァンスが来日直前インタビューで予告していた新作が、彼の主宰する More is More から出た。しかも、挙げていた4作品(のうち、ソロアルバムはツアー限定で先行販売されている)の一斉リリースであるから困ってしまう。いや、困ることはないか。ともかくまずは Pulvwrize the Sound の第2作から聴く。


Pulverize the Sound - sequel
More is More, 2018)
Peter Evans (tp), Tim Dahl (elb), Mike Pride (ds, perc, nose flute, moose call)


Relative Pitch からの第1作(15年5月26日)がそうであったように、本作も冒頭の一音目から凄まじい。というか、前作よりもさらに凄まじい。エヴァンスの歪みまくったトランペット、ティム・ダールのひずみまくったエレベ、マイク・プライドの狂いまくったドラムが一丸となって疾走する、その快感。むろんそれだけでなくさまざまなタイプの曲が展開されていて、エヴァンスの多種の技術はもちろん、ダールがベースサウンドに施す多彩な加工、プライドによる多様なドラミングが炸裂する。「サウンドを粉々にせよ」というバンド名が示すように、「破壊」衝動はとどまることを知らず、第二形態に達したようだ。11月には本作を引っ提げてグループのヨーロッパツアーが行われるそうだ。