あうとわ~ど・ばうんど

Charlie Parker with Strings Deluxe Edition

当ブログではえらく久しぶりにチャーリー・パーカーを取り上げる。

Complete Charlie Parker With Strings

Complete Charlie Parker With Strings

Charlie Parker(as) 他


パーカー没後60周年記念とおぼしき、「ウィズ・ストリングス」完全盤。49、50年の「ウィズ・ストリングス」2枚、50年のライブコンサート音源、52年の管弦楽との共演「ビッグ・バンド」を一枚に集成した「コンプリート・マスター・テイクス」に加え、ディスク2としてウィズ・ストリングス・セッションの別テイクが収録されている。


パーカーのウィズ・ストリングスは微妙な立ち位置のアルバムで、大名盤だという人もいるし、全く認めない人もいるし、いわゆる名盤本では初心者向けに取りあえず入れておけという立場の人もいる。かくいう私自身は、ストリングスのアレンジは何ともオールドスクールで、パーカーのアドリブの冴えも同時期のコンボ編成に比べて緩いように感じられるものの、大昔コピー譜を片手にスタンダードにおけるパーカーフレーズを勉強した盤の一つではあるし、そこそこ好きなアルバムであることに間違いはないのだが、手元になくても困らないのも事実である。


結局私が好きなのは、バードの異名通り一気に飛翔するような出だしのソロが印象的な「ジャスト・フレンズ」(と、妙に心惹きつけられる「サマー・タイム」)ぐらいなのだが、その別テイクが4曲も聴けるとあらば興味を掻き立てられたわけである。


実は、この別テイク集が非常に面白い。今まで私は、このストリングス・セッションも、ダイアルやサヴォイ、あるいは多くのヴァーヴのものと同様、パーカーが何パターンかのアドリブを吹き込んだ上でベストテイクをチョイスしたものだと思っていた。ところが、ここで開陳された別テイクは、このセッションがそれらと違う手法でレコードが制作された(とうかがわれる)ことを示している。


「ジャスト・フレンズ」を例にしよう。別テイク4曲(完奏テイク2曲、インコンプリート1曲、フォルススタート1曲)を順に聴く限り、パーカーは青写真に沿ってフレーズを展開し、よりマスターテイク(テイク5)に近い形にアドリブを練り上げていっているようだ。特にテイク4の中終盤のフレーズはマスターテイクとほぼ同じ流れになっていることに驚く。この作業の中でパーカー(製作者かもしれない)がこだわっているのはやはり冒頭部で、最初の方のテイクでは意外にゆったりと始めており、テイクを重ねるにしたがってあの速いフレーズに洗練されていく。別曲でも、最初から一定のイメージは出来上がっており、マスターテイクと同じフレーズが頻出している。


ウィズ・ストリングスは、パーカー自身がとても乗り気だったといわれている。この完全盤は、いつもの「あとは野となれ山となれ」方式のやり捨てセッションではなく、パーカーが粘り強く「作品」を作り上げようとしていたことをうかがい知ることができ、パーカーが「本気」で取り組んだのが事実であっただろうことを証明している。また、それを知ったうえで、いつもの演奏の場における閃きが前面に出たライブコンサート音源を聴くと、その対比が面白い。そういう意味で、これはやはり記念すべき盤なのだといえる。