あうとわ~ど・ばうんど

David S. Ware Trio / Live in New York, 2010

デヴィッド・S・ウェアのアーカイブ音源シリーズ、第3弾が届いた。

Live in New York, 2010

Live in New York, 2010

David S. Ware(strich, ts) William Parker(b) Warren Smith(ds)


2007年前半までで黄金カルテットに終止符を打ったウェアは、同年後半に2つのグループを立ち上げた。ジョー・モリス、キース・ウィティー、ギレルモ・ブラウンとのニューカルテット、そしてウィリアム・パーカー、ウォーレン・スミスとのトリオである。しかしニューカルテットのベースとドラムもすぐにトリオと同一になり、翌年ニューカルテットによる「Shakti (Dig)」(09年2月8日参照)が吹き込まれ、さあこれから第二の黄金期かと思われた矢先、ウェアは大病に臥せってしまう。翌09年10月、1年ぶりに復帰したウェアはまずソロ「SATURNIAN (SOLO SAXOPHONES, VOLUME 1)」(10年3月13日参照)で復活の狼煙を上げる。そして年末にサックス生活50周年を記念して満を持して吹き込んだ作品が、休養前と同じトリオメンバーによる「ONECEPT」(10年9月24日参照)であった。10年はソロとトリオがウェアの活動の基軸となり、10月にトリオでライブ録音されたのが本作となる。なお翌年には若手時代からの同志クーパー・ムーアらと新たなカルテット「Planetary Unknown」を結成し、2枚のアルバム(12年7月21日参照)を遺した後、再び休養に入ると、12年10月ついに還らぬ人となってしまう(12年10月19日参照)。


本作には2010年10月4日、NYのブルーノート(!)で行われたライブ2セットが、2枚組に収められている。曲名はなく、すべて即興だと思われる。ウェアはストリッチ(ストレートアルト)とテナーを駆使するが、ストリッチの使用頻度が多い。グループとしてのサウンドは、トリオらしく空間がスカスカしているけれど、その分ウェアの音が真に迫ってくる。この復帰後、結果として晩年となってしまった時期の彼の音は「Saturnian」あたりに顕著だが、休養前の全盛期とは別の意味で凄くて、もうすでにこの世の人でないような、露骨で剝き出しの魂が発した音、という印象を受ける。本作ではとくにストリッチによる演奏にそれを強く感じ、途中、思わず落涙しそうになった。このストリッチを聴きながら、チャールズ・ゲイルのアルトを思い出したりもしたのだが、こういう音を出せる人は本当に少ない。管楽器の音というのは皆、剥き出しの感情の発露だと思っている人が多いかもしれないけれど、ウェアの音を聴くと、多くの管楽器奏者の音はいろんなものを纏っていることが、逆説的によく分かる。


なお第4弾は、休養前の2008年5月、ジョー・モリスらとのニューカルテットで「Shakti」を吹き込んだ直後、フランスでのライブ音源のようだ。こちらも今から楽しみ。


参考:David S. Ware Sessionography