あうとわ~ど・ばうんど

Chris Pitsiokos Trio - Gordian Twine

待望のクリス・ピッツィオコスの新譜が届く。ディスクユニオンの通販で初回限定特典付きで入手したのだが、本来は7月10日発売のところ、どうやら一部フライング販売してしまったらしい。ラッキー。

Gordian Twine

Gordian Twine

Chris Pitsiokos(as, composition) Max Johnson(b) Kevin Shea(ds, per)


レーベルカラー、メンバー編成、YouTube での映像から、これまでのようなパンキッシュなノイズミュージックではなく、どちらかといえばフリージャズ寄りの演奏であろうと想像していたら、果たしてその通りだったのだが、しかし、スピーカーからとても新しい風が吹いてくるようだ。フリージャズ的でありながら、とてもクールに聴こえるのがいい。非常に素晴らしい音色で、理知的で奇妙で多彩で複雑で頭がおかしいとしか思えない音の数々を次々吐き出していき、これがフリージャズとして精妙に成立している。うーん、上手く説明できないのだが、とても快楽を与えてくれる演奏に間違いない。


ところで、タイトルの「Gordian Twine」はおそらく、「ゴルディアスの結び目」に用いられた糸のことであろう。アレクサンドロスが一刀両断にするしか、誰にも解けなかった結び目のように、この音楽を『(普通の方法では解けないけれど)解いてみよ』と突き付けているのかもしれない。なんと、たいした自負ではないか。


そういえば、全7曲のうち、4曲はギリシア神話から名が取られている。例の高速キュキュキュから始まり、ベース、ドラムともに奇妙な間を挟みつつ激しく鍔迫り合いしあうような2曲目に「LETHE(忘却)」と名付けるセンスがすごい。また、3~5曲目は「CLOTHO」「LACHESIS」「ATOROPOS」(順に、運命の糸を「紡ぐ者」「測定する者」「切る者」の意。またしても『糸』だ)のモイライ3姉妹から取られ、こういうセンスはウェイン・ショーターにも通じると思うが、ショーターの曲が「何となくそんな雰囲気がある」のに対し、むしろ自分の曲に「鳥類学」や「人類学」などと名付けたチャーリー・パーカーの感性に近いのかもしれない。いずれにせよ、イノヴェーターとしての資質はありそうだ。


アルバムは全部で30分程度なのだけれど、短くもあるし、長くもある。彼のサックスプレイを聴いていると、聴いているこちらの時間が伸縮する、という一般・特殊どちらの相対性理論でも説明しがたい現象が起きる(もちろん錯覚である)ので、収録時間は大した問題ではない。なお、特典はウィーゼル・ウォルターとのデュオ、しかも凄絶な部分を切り取った5トラック約11分半が収録されていて、これまた強烈である(そういえば、ウィーゼルは音源のフォーマットに非常にこだわる人だそうで、ピッツィオコスとのデュオは今までLPでしか出していないはずだが、よくCD-R収録を了承したものだなぁ)。


参考動画(今年2月のライブ)