あうとわ~ど・ばうんど

New Grass Under Arrest

この日記がリンクさせていただいている「Jericho」は、学生時代から大変お世話になりっぱなしのジャズ酒場で、自分のジャズ観その他もろもろに多大な影響を与えてくれた(もちろん今でも)。もしもこの店がなかったら…と想像するととても恐ろしい。自分が自分でなくなってしまうような心地がするぐらいだ。北海道を離れてもうすぐ7年になるが、帰省したときには必ず寄らせていただく。「や、いらっしゃい」というマスターS谷さんの笑顔が実にいいのだ。
ところで、この店で深夜みんなでワイワイ、もしくは独りで黙々と飲んでいて、突然、場の空気感が変わる、あるいは照明がいきなり明るくなったように感じることがある。要は、かかっている音楽が変わったのだけれど、そのときジャケットを見ると、「New Grass/Albert Ayler」か「You're Under Arrest/Miles Davis」のどちらかであることが多い。もちろん、人によっては「いやいやMcCoy Tinerの『Fly With The Wind』だよ」とか他のアルバムを挙げる人も多いだろうが、自分にとっては、この2枚が最も印象的なのだ。


毎度のことながら前置きが長いが、今日はこの2枚について。

SIDE A/New Grass

電化サウンドやロック・ビート(?)を導入。アイラーの作品としては異色だが大好きだ。
1曲目「Message from Albert」。実に引き締まったアイラーのテナーの音。これです、これ。これだけでノックアウトされる。陰でベースもぐちゃぐちゃやっているが、アイラーだけで満腹になれる。2、5―7曲目はSoul Singers参加のトラックだが、心配することはない。アイラーはアイラーそのもの。むしろその本質であるソウルネスが際立つ。
3曲目「Sun Watcher」、アイラーのサックスが、左右あちこちをめまぐるしく飛び回っている(ように聴こえる)。面白い。4曲目、アイラーの一人ディレイ(by 菊地成孔)によるヴォーカルで始まる「New Ghosts」。ベースの入ってくるタイミングがまた絶妙だ。テナー・ソロに移行。マーチ風というかカリプソ風というか何というか(曲想的にはSonny Rollins「The Everywhere Calypso」なんかも思い出してしまうが)、実にイイ。あの独特のヴィブラートでシャーマニックに吹きまくる。
電化アイラーも、もうちょっと聴きたかったよなあ。

SIDE B/You’re Under Arrest 改訂版

晩年近くのポップなマイルスも大好きだ。この作品は全曲素晴らしい。というか、全曲通して聴くとすばらしいのだ。
冒頭「One Phone Call/Street Scenes」通称ジャック・ジョンソンのテーマでの楽しいラップ(?)に始まり、2曲目は「Human Nature」。ライヴでは晩年になるほど高速化し、スパニッシュ風味を取り入れたりしながら、最後はケニー・ギャレットの大爆発(時折不発)で締めくくられるが、この初録音は、ひたすらマイルスを味わい尽くす曲だ。
3曲目「MD 1/Something’s on Your Mind/MD 2」。マイルスが切ない。いやマイルスはいつでも切ないのだが、同時に力強い。この絶妙な匙加減。4曲目「Ms. Morrisine」、繰り返すようだがこの哀感、そして実にハードボイルド。
5曲目「Katia Prelude」、来た来たマクラフリン。いや〜すばらしい。自分の持っているのはCDだが、レコードはここでフェイドアウトしてA面が終わり。B面1曲目「Katia」として再びマクラフリンがフェイドインしてくる。うーん、さすが。
7曲目「Time After Time」。聴き入ってしまう。マイルスの墓碑には「Time After Time」の一節が、自分の曲でもないのに刻まれているそうだが、思わず納得*1。8曲目「You’re Under Arrest」。スコフィールドの変態ギター、ボブ・バーグもカッコイイ。
最後に「Jean Pierre/You’re Under Arrest/Then There Were None」。このトランペットだ。まるで全人類の悲しみを背負ったかのような、身を切るような、このトランペットだ。これを聴くために、このアルバムを聴くのだといっても過言ではない。聴き終えたとき、一篇の映画を観た後のような充実感と何か重たいものが胸に残る。

*1:追記・訂正:「タイム・アフター・タイム」ではなく「ソーラー」でした。