あうとわ~ど・ばうんど

Demian as Posthuman

今最も注目しているアメリカ人若手アルト、Steve Lehmanの新作がようやく届いた(Pi Recordings)。

Lehmanはレーマンと読むのかリーマンと読むのか分からないが、ま、とりあえずリーマンにしておくけれど、リーマンを知ったのは、ご多分に漏れず驚天動地の傑作clean feed盤「Interface/Steve Lehman's camouflage trio」で、Mark Dresser(b)とPheeron Aklaff(ds)の2大巨匠を相手に、激烈なアブストラクト・ソロをぶちかましているのを聴いて、一発で好きになった。その後、クールなグループアンサンブルを追求したようなFSNT盤「Artifical Light」で静かな興奮を覚え、現在進行形ジャズのVIPの一人であるVijay Iyerらとのヘンタイ複雑リズム系グループFieldworkのPi盤「Simulated Progress」も愛聴した。

リーマンのスタイルは、かなり大雑把にいって、Steve Coleman、Greg Osby、Rudresh Mahanthappaらに連なる系統と思うが、前3者に比べ抽象度が高く、時折ドルフィーを髣髴とさせる瞬間もある。実際に「Out to Lunch」の3曲目「Gazzeloni」を演奏していたりする*1。聴いてはいないが「Miss Ann」を取りあげたGreg Osbyといい、この周辺のミュージシャンは、意外にもドルフィーのラインを受け継いでいるのかもしれない(もっとも、ドルフィー派の重鎮Sonny Simmonsもまだまだ元気だし、ヨーロッパにドルフィーを信奉する人たちがいっぱいいるけれど)。

さて、肝心の作品を聴く。全編にエレクトロニクス導入、新妻に捧げられたという、12曲36分の小品集という趣き。電子音の中リーマン一人でアルトの掛け合いをしているようなトラックもあり、期待値が高かっただけにやや物足りない気もするが、いつもInterfaceやFieldworkみたいな音楽ばかりでは聴くほうもかなりの集中力や体力が必要なわけで、こんなアルバムがあってもいいと思う。もちろんVijay Iyerや、最近Oliver LakeやKenny GarrettやBrandon Rossらを起用したアルバムを発表したMeshell Ndegeocelloが参加した曲もあり、7曲目その名も「Logic-Meshell」では、ミシェルの繰り出すビートの上で、アブストラクトかつグルーヴ感あふれるすばらしいソロを繰り広げるリーマンが実にイイ。

*1:リーマンのHPでmp3をダウンロードできる。http://www.stevelehman.com/