Sunjae Lee / Entropy
JazzTokyo 249号に、ピーター・エヴァンスが韓国のサックス奏者スンジェ・リーのグループに客演したアルバムのレビューを寄稿しました。
jazztokyo.org
Flavio Zanuttini Opacipapa / Born Baby Born
clean feed の新譜が届いたので、まずPBB参加作から聴く。
Flavio Zanuttini Opacipapa / Born Baby Born
(clean feed, 2018)
Flavio Zanuttini (tp, compositions), Piero Bittolo Bon (as), Marco D’Orlando (ds)
メンバーはいずれもイタリア勢。トランペット、アルトサックス、ドラムスというやや変わった編成だが、演奏を聴いていると、なぜかベースが入っていると錯覚する不思議。収録された8曲は全てリーダーのオリジナルで、明るくノリの良い曲が多く、アグレッシヴなブロウはPBBの役目だ。特に、崩壊手前のまま突き進んでいくような2曲目のソロが最高。
Scott Fields Ensemble / Barclay
Scott Fields Ensemble が、作家サミュエル・ベケットを題材にしたシリーズの最新作を9年ぶりにリリースした。
Scott Fields Ensemble / Barclay
(Ayler Records, 2018)
Scott Fields (elg, compositions), Matthias Schubert (ts), Scott Roller (cello), Dominik Mahnig (perc)
07年の「Beckett」(clean feed)=07年2月13日参照、09年の「Samuel」(new world)=09年11月15日参照=に次ぐ第3弾。10年近い歳月の間に、パーカッションがジョン・ホーレンベックから、若手のドミニク・マーニグ(?)に交代している。なお、「バークレー」はベケットのミドルネームだ。
いつものように、収録曲のタイトルはベケットの戯曲(シナリオ)から採られている。確認してみよう。()内は代表的な邦題である。
- Krapp's Last Tape(クラップの最後のテープ)
- ... but the clouds ...(... 雲のように…)
- Catastrophe (カタストロフィー)
おそらく各戯曲からインスパイアされた方法論を作曲に取り入れているのだろうと思われるが、よく分からない。というか、わたしは演奏が良ければいいのだ。打楽器奏者の交代で、フリージャズ濃度が高まったように感じられるが、むしろそれは好印象。10年前から主張しているが、モロイ三部作や後期三部作をテーマにした音楽も聴いてみたい。
Charles Mingus - Jazz in Detroit / Strata Concert Gallery / 46 Selden
チャールズ・ミンガスの未発表音源を聴く。
JAZZ IN DETROIT / STRATA CONCERT GALLERY / 46 SELDEN (BBEACDJ453 / 5枚組 / 日本語解説付き)
- アーティスト: CHARLES MINGUS
- 出版社/メーカー: BBE
- 発売日: 2018/11/07
- メディア: CD
- この商品を含むブログを見る
Charles Mingus (b), Roy Brooks (ds, saw), John Stubblefield (ts), Joe Gardner (tp), Don Pullen (p)
録音は73年2月。この組み合わせによる音源が正式に出回るのは、たぶん初めて。この時期のミンガスグループのメンバーの去就を整理してみよう(Charles Mingus Discography 参考)。最初に参加したのはロイ・ブルックス、72年夏だ。次いで秋にジョー・ガードナー、年が明けてジョン・スタブルフィールド(ちなみに前任はハミエット・ブルーイット)とドン・プーレンが加わり、本作のメンバーとなる。なおこの年の夏にはドン・プーレンを残して、他のメンバーが入れ換えられ、ジョージ・アダムスが参加してくる。
70年代のミンガスグループというと、のちの活躍もあってプーレン=アダムス最強、と考えがちだが、何の、このメンバーも過激で(特に「直立猿人」)それにはロイ・ブルックスの貢献が大きそうだ。そしてやっぱりドン・プーレンのピアノが最高である。以前、ツイッターで「好きなピアニスト10人」というハッシュタグが流行り、わたしは参加しなかったものの、プーレンは外せないなとは考えていて、本作を聴いてその思いを強くしたものだ。
ところでCDは、メンバーの写真をあしらって5枚に分散収録されているが、1枚20分にも満たないCDもあり、これは一体どうにかならなかったのか。
Heisenberg Quintet / Live at Kühlspot
当ブログが偏愛するドイツのギタリスト、Hannes Buder の新作を聴く。
Heisenberg Quintet / Live at Kühlspot
(Aut Records, 2018)
Anna Kaluza (as), Nikolai Meinhold (p), Hannes Buder (g), Stephan Bleier (b), Rui Faustino (ds)
いずれもドイツを拠点に活動する演奏家(ドラマーのみポルトガル出身)たちによるクインテット。録音は Hannes と Nikolai Meinhold(今年、KOKOTOB ツアーで来日)、ミックスは Hannes が担当しているので、彼が実質的なリーダーと思われる。グループ名の「Heisenberg」とはドイツの物理学者ヴェルナー・ハイゼンベルクのことであろうか。ハイゼンベルクは行列力学と不確定性原理を導いて量子力学の確立に大きく寄与し、31歳でノーベル物理学賞を受賞、第二次大戦中はナチスドイツ原爆開発チームの一員となり、アインシュタインに原爆開発は時間の問題と勘違いさせ、米国の暗殺標的となった(ことごとく失敗)ものの、当人は原爆開発は不可能だとみていて(のちに開発は破棄される)、彼にとっては精神的苦痛でしかなく重水炉開発もサボっていた、というなかなか面白い人物なのだが、それはさておき、グループ名は即興の相互作用の不確実性をコンセプトにしている、ということなのだろう。25分、20分、13分の長めの即興の全3曲。派手な必殺技の掛け合いも大きなドラマもなく、坦々と経時的にミニマムな即興のインタラクションが進行していくが、にもかかわらず徐々に引き込まれていく不思議な引力がある。
参考動画
www.youtube.com
Hubert Dupont / Smart Grid
当ブログが推すアルトサックス奏者の一人、Denis Guivarc'h 参加の新作を聴く。
- アーティスト: Hubert Dupont
- 出版社/メーカー: Ultrack
- 発売日: 2018/08/10
- メディア: MP3 ダウンロード
- この商品を含むブログを見る
(Ultrabolic, 2018)
Hubert Dupont (b), Denis Guivarc'h (sax), Yvan Robilliard (p), Pierre Mangeard (ds)
Denis Guivarc'h の知名度が一向に上がってこないのが不思議で仕方がない。流通盤の少なさ、マニアックさ、何と読むのか分からない名前、の影響だろうか。
リーダーはフランスのベーシストで、タイトルはグループ名でもある。メンバー全員フランス勢。フランスは伝統的に欧州でもジャズの盛んな土地柄だが、Label Bleu を通じてスティーヴ・コールマンの影響も浸透しており、リーダーであるユベール・デュポンの書く曲にもその影響が感じ取れる(特にリズム面。なお07年にはルドレシュ・マハンサッパを迎えた「Spider's Dance」という作品がある)。Denis Guivarc'h も M-Base 様の曲折的フレーズを吹きこなすが、本家よりも滑らかさや柔らかさが勝り、現代メインストリームのスタイルも折衷されていて、彼のリーダーグループや Magik Malik Orchestra のライブ動画で時折みられる狂熱ソロは興奮モノなのだけれど、いざアルバムとなるとそのへんが薄められるのが残念なところである。本作はライブ盤で、その片鱗は見せるけれど、思う存分堪能できるまでには至らない。いつか彼の全貌がよく分かるアルバムが出てほしい。ちなみに最終曲の後、メンバー紹介では「デニ・ギバ」と発音されているように聴こえる。
参考動画
www.youtube.com
Chicago Edge Ensemble / Insidious Anthem
マーズ・ウィリアムズ参加の新作を聴く。
- アーティスト: Chicago Edge Ensemble
- 出版社/メーカー: Trost Records
- 発売日: 2018/11/02
- メディア: MP3 ダウンロード
- この商品を含むブログを見る
(Trost Records, 2018)
Dan Phillips (g), Mars Williams (saxes, perc), Jeb Bishop (tb), Krzysztof Pabian (b), Hamid Drake (ds)
「Decaying Orbit」(昨年4月23日参照)に続くグループ2作目。前作に比べるグループとしての統一感が増し、結果どうなったかというと、なんともカッコいいジャズバンドとして磨きがかかっている(ただし、ふつーの「ジャズファン」が聴いてどう思うかは責任持たない)。全8曲、どれもよく練られた様々なタイプの楽曲がバランス良く配置され、これはバークリー卒というリーダーの資質なのだろうか。したがってマーズのサックスもブロウ一辺倒ではなく、根本的な演奏技術の高さ、圧倒的で変態的な表現力、あらゆる音楽に対応できる懐の深さ、全てをぶち壊しにするアナーキーさ、を満遍なく見せつけ、もし彼が本気でジャズに取り組んだら、サックス界をひっくり返せる実力の持ち主であることを再認識させる。そしてそれはハミッド・ドレイクの美質でもある。ジェブ・ビショップのトロンボーンも、いつもマーズやヴァンダーマークの添え物扱いにして申し訳ないが、とても味わい深く、ギターやベースの効果音的な音も効果的で(ヘンな日本語)、ムードを盛り立てている。(なお今年、YouTube に投稿された動画では、ドラムが Avreeayl Ra に交代?している)
参考動画1(今年・ドラムが Avreeayl Ra)
www.youtube.com
参考動画2(昨年・ドラムは Hamid Drake)
www.youtube.com