あうとわ~ど・ばうんど

Fred Frith / Therasa Wong / John Butcher - Quintillions Green

OTOROKU から、さらにジョン・ブッチャー参加作を聴く。

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Fred Frith / Therasa Wong / John Butcher - Quintillions Green
OTOROKU
John Butcher(saxophones, feedback) Theresa Wong(cello, voice) Fred Frith(guitar, voice)


前エントリで「ブッチャーの出す多種多彩な音には全て意味があり、必然があり、そう発せられるしかなかった音たちだ」と書いた。こういう音楽を聴きつけない人たちには、たぶんすべて同じように聴こえているかもしれないが、ブッチャーの場合、編成によって、音楽性によって、ということはもちろん、その「場」によって、その瞬間によって、それぞれに違う必然の音たちが鳴り響いている。ということにも感嘆するほかないのである。


試聴

The Apophonics 27.11.13

引き続き OTOROKU のダウンロードアルバムを聴く。

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THE APOPHONICS 27.11.13
OTOROKU
John Butcher(sax) John Edwards(b) Gino Robair(energised surfaces)


「出したらあかん音」の王者ジョン・ブッチャーが参加する The Apophonics のライブで、このグループには先行作(13年11月17日参照)がある。「出したらあかん音」というのはレトリックであって、もちろんそんな音は存在しない。ブッチャーの出す多種多彩な音には全て意味があり、必然があり、そう発せられるしかなかった音たちだ。そんな音たちを集めた音楽全体は、超上級のエンタテインメントに昇華させられていて、聴後感は極上の(いわゆる)ジャズを聴いた時のそれと変わらないのだから、やっぱりさすがである。


試聴

Joe McPhee & Chris Corsano - 25.7.12

OTOROKU のダウンロードアルバムに戻る。

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Joe McPhee & Chris Corsano - 25.7.12
OTOROKU
Joe McPhee(ts, ss, pocket tp) Chris Corsano(ds)


ジョー・マクフィーとクリス・コルサノのデュオは、ROARATORIO レーベルからの2枚のLPや、「Dream Defenders」というデジタルアルバムが出ている。そのどれも聴いていないので比較はできないが、本作での2人は激しさよりも安らぎを基調としたようなデュオインプロヴィゼーションを展開する。マクフィーの音は、たった一音で、いや、息を吹き込むズズーという音ですら、形容詞もカギカッコも必要ないジャズの血潮があふれだす。多くのジャズマンにリスペクトされている所以が分かろうというもの。演奏中、「家路」風のメロディーを吹いたりして、アルバート・アイラーとはまた違ったヴィブラートで、心を揺り動かしてくれる。コルサノのドラムも絶妙だ。


試聴

早坂紗知 / 2.26 バースデイ・ライブ 30周年 feat. 山下洋輔

2.26 バースデイ・ライブ 30周年feat. 山下洋輔 (N-015)

2.26 バースデイ・ライブ 30周年feat. 山下洋輔 (N-015)

早坂紗知(ss, as) 山下洋輔(p) 類家心平(tp) RIO(bs) 永田利樹(b) 本田珠也(ds)


最近しばらく、早坂紗知さんも山下洋輔さんも新譜を追いかけていなかったが、30周年記念の2.26ライブで、山下さんの名オリジナル「バンスリカーナ」(私がフリージャズ愛好者なんて希少種になりはててしまったのは「モントルー・アフター・グロウ」における同曲を聴いたせいである。05年11月8日参照)と早坂さんの名オリジナル「カナビスの輪」(「'99 / 2.26ライブ (N-002)」で同曲を初めて聴いていたく気に入って、一時期は毎朝目覚まし時計代わりに同作をタイマー再生していたほどである)という必殺曲が収録されているとあれば、買うしかないと思った次第である。

ところで早坂さんの音楽は、サックスの技術もさることながら、いわば「エキゾ・ノスタルジック」(今つくった言葉)とでもいうべき選曲で、かなり得をしていると思う。これはべつに揶揄ではなくて、そういう曲想だと彼女が歌いやすくブロウしやすい、つまり彼女の魅力が十分に発揮されるという意味で、むしろ美点だと思っている。ちなみにアルバムはハレの日のお祭りセッションという印象であるが、記念すべきライブに同じ誕生日のつの犬氏はなぜ参加しなかったのだろう?

藤井郷子オーケストラ東京 / Peace

藤井郷子オーケストラ東京の新作を聴く。

ピース (Libra217-039)

ピース (Libra217-039)

早坂紗知(ss, as) 泉邦宏(as) 松本健一(ts) 木村昌哉(ts) 吉田隆一(bs) 田村夏樹(tp) 福本佳仁(tp) 渡辺隆雄(tp) 城谷雄策(tp) はぐれ雲永松(tb) 高橋保行(tb) 古池寿浩(tb) 永田利樹(b) 堀越彰(ds) + Christian Pruvost(tp) Peter Orins(ds)


藤井オケ作品は逐一追いかけているわけでないけれど、おととしライブを観て好印象を残した KAZE(14年10月1日参照)が、その後にオーケストラ東京と共演したのが本作というので、購入に至った。オーケストラ東京の拡張版とも、KAZE の拡大版とも受け取れるが、まあ定型のないのが定型という側面もあるオーケストラ東京の範囲内ではあると思う。最終曲が懐かしい響きのするオーケストラジャズで、それが意外や新鮮。

Billy Harper Quintet / In Europe

OTOROKU は小休止。
Cam Jazz Italian Jazz Classics として、Cam Jazz および Black Saint と Soul Note の3レーベル15タイトルが再発されている。とくに、Black Saint と Soul Note は国内初CD化だそうで、両レーベルの第1号であるビリー・ハーパーの作品も出ている。そのうち「In Europe」が実は未入手だったので、ありがたく購入した。

イン・ヨーロッパ

イン・ヨーロッパ

Billy Harper(ts) Everett Hollins(tp) Fred Hersch(p) Louie Spears(b) Horace Arnold(ds)


ビリー・ハーパーは好きだが、彼の演奏なら何でも好きというわけでもない。オリジナル曲のスピリチュアルなムードや徹頭徹尾熱く吹ききるというプレースタイルのせいもあるのだろうが、彼を至高のテナーマンとして神聖視するジャズファンもいるらしいのだけれど、実のところハーパーの演奏は、ブラックテナーにありがちなフリークトーンやブロウの快楽には乏しく、盛り上がり所なのに下降的なスケールパターンを一心不乱に吹いたりして、最初から最後まで同じ熱さで演奏するのでダイナミクスレンジが狭く一本調子で、どこを聴いても同じに聴こえたりする。などと言うとまるで貶しているみたいだが、展開がハマれば狂熱的興奮が訪れるのであって、無骨で不器用(そういえば、彼の風貌から「ジャズ界の高倉健」と呼ぶ人もいる。笑)な愛すべきテナーマンであることは間違いなく、彼のそういう部分を好んでいるのである。

アルバムは、ピアノを弾いているのが若き日のフレッド・ハーシュというのがちょっとした驚きであるけれど、こういうハーパーとは異質な感性を持ったピアニストの方が彼の音楽には合っているように思う(のちに Francesca Tanksley が長く彼のグループのピアニストを務めたことを思えば、不思議なことではない)。「ブラック・セイント」より、こちらの演奏の方が好きですね、私は。


試聴(全曲)
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Roger Turner / Yukihiro Isso - TAKANEHISHIGU

今夜も、OTOROKU のダウンロードアルバムを聴く。

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Roger Turner / Yukihiro Isso - TAKANEHISHIGU
OTOROKU
Yukihiro Isso(nohkan, shinobue, dengakubue, gemshorn, recorder) Roger Turner(per)


ロジャー・ターナーが来週札幌に来るので予習(ではなく、たまたまです)。一噌幸弘氏の笛の音は、日本人とはいえ都市生活者にとってはもはや無縁になってしまったかに思える感覚が閾下から呼び覚まされる心地がするのだけれど、そうして耳心地の良い音色で奏でられる演奏は和に引き摺られすぎることもなく、自由に空間を駆けめぐる。対するロジャー・ターナーのパーカッションも、単色の濃淡のみで表現される墨絵のような繊細さに満ちていて、その2人によって形づくられる演奏は、ただ音楽であることの無上の喜びにあふれているようだ。なお、タイトルの「たかねひしぐ」は古語なのか造語なのか分からぬながら、日本語らしきことはたしかで、ハナモゲラではないけれど、見知ったようで新しい、という一噌氏の音楽性をよく表した言葉であるようにも思う。


なおフィジカルにこだわる人は、LPでもリリースされているので参考までに。



試聴