あうとわ~ど・ばうんど

blacksheep / ∞-メビウス-

∞-メビウス-

∞-メビウス-

吉田隆一(bs, bcl) 後藤篤(tb) スガダイロー(p)


3人の共作者によるユニット、blacksheep の新しいSF連作集「∞-メビウス-」を読んだ。
このユニットによる作品としては3作目。前2作では、夢と現実のあわいに立ちのぼる、喚起力に富み幻惑的美に満ちたSF的イメージをテーマにした佳篇が編まれていた印象だが、今作ではついにその発展的帰結として、表看板に堂々とSFが掲げられている。
具体的には、各章題に現代SF作品名を配し、主著者の吉田隆一氏がそれらに触発されたプロットを提供、3人それぞれがストーリー展開や語りの構造に関するアイデアを持ち寄りながら物語を組み立てていく手法がとられている。
連作集は9篇のさまざまなタイプの作品が綴られる。それぞれの作品に対しては吉田氏自身による非常に丁寧な解題が収録されており、いみじくも第4篇の解題で述べているように、これらの作品を連続して読むことによって陰陽混ざりあった強靭な世界観と、叙情の陰に隠された熱が感じ取ることができるようだ。
また、いくつかの作品解題で吉田氏が「夢の整合性」について強調しているのが興味深い。吉田氏はロジェ・カイヨワシュルレアリスムに言及しながら「夢の中でしか成立しえない論理」を作劇に生かすことについて言及している。
「夢の整合性」といって私が思い浮かべるのはカフカやサミュエル・ベケットだが、なるほど、SFについてもその親和性は非常に高いことを吉田氏は証明してみせてくれた。
作品単位では、第2篇がかなり特異的位置を占める。ここでは、とにかく数多の先行作品(SFに限らない)のフレーズが、タペストリー的なコラージュというか、次々とサンプリングのように張り付けられていく。言ってみれば、借り物の言葉たちによって構成されているにもかかわらず、しかし、どこかで読んだ世界にはならないのが言語の運動性の面白さで、確実に新しい地平を切り開いている。
だが、これも考えてみれば当たり前の話で、われわれが通常使う言葉というのは、これは他者の言葉なのであって、われわれ自身が発明したものではない。創造的行為といえど、他者の、借り物の言葉を使ってなされるのであり、本篇はそれを限界まで追い求めようとした成果と言ってみてもよかろう。
それぞれの作品を読んでいると、ちょっとした単語やフレーズ、ストーリー等に触れた瞬間、脳内のそこかしこが刺激され、それまで隠され忘れていた記憶(それは現実の体験もあるし、フィクションで得たイメージもあるし、あるいはかつて夢で見た風景もあるだろう)の引き出しが次々開いていくような心地よさがあった。
また、主著者がジャズをこよなく愛することもあって、文章のあちこちから本当に音楽が聴こえてくるようでもある。良質な小説を読む体験は音楽を聴くことに似る、と謂う。この連作集はまさしく音楽であった。


本日の日記はSF(になってるといいな)です。なお、特典CD付きの限定DX BOXがVelvetsun Storeで発売中なので、欲しい人は急げ。