あうとわ~ど・ばうんど

Interlude 復刻&改訂版

31日に「事故」で消えてしまった日記の復刻版です。(8月7日追記)





「その人」に初めて会った時、ぼくは18歳だった。



ジャズ研に入部したて。自主的に休講して部室にいると、その人が入ってきた。先輩が「新入部員です」と話すと、その人は自己紹介した。人懐こそうな優しい目で、でもちょっぴりいたずらっ子のような笑顔で。
「新入部員に聴かせてやってください」と、先輩が言った。同期が、買ったばかりのソプラノサックスを差し出す。その人は何事かを頭の中で確認すると、「枯葉」を吹き出した。



その人が部室から出て行った後、あっけに取られていた1年生に向かって、先輩が言った。「すごいだろ。あんな人が、小樽にいるんだ」。ちなみに先輩は、こう付け加えた。「いくつだと思う?」。教えてもらった年齢は、今気付いてみると、現在の自分より若い。



その人は夜、よく大学の練習室を利用しに訪れた。迷惑だろうな、とは思いつつも、押しかけていって教えを請うた。その話を他大学のサックス連中にすると、いつも羨ましがられたものだ(その割には、ぼくのサックスは上手くならなかった。もちろん、ぼく自身の問題だが)。



セッションでは何度も胸を借り(る前に、足元にも辿り着けなかっ)たが、公の場で『師』と同じステージに立ったことが、一度だけある。ぼくは4年生になっていた。その人はテナーを吹き、ぼくがアルトサックスを吹いた。身がすくんだ。
その時の模様を収めたビデオの上映飲み会で、その人が言った。「けっこうちゃんと吹けるようになったよなぁ」。ますます、身がすくんだ。



卒業後、ぼくは北海道を離れ、サックスも、吹いたり吹かなくなったりの繰り返しになり、通算すると吹いていない期間の方が長くなってしまった。そうこうしているうち、いつのまにか、帰省しても、その人のライヴを見なくなってしまっていたことに気付いた。



その人の演奏は、聴いている人間の心を激しく揺さぶり、焦がさずにはいない。その熱さが、懐かしい。



『不肖の弟子』は今週、数年ぶりに、その人の演奏を聴く。













というわけで明日から更新を休みます。