あうとわ~ど・ばうんど

Thelonious Himself

モンクの作品では、これが一番好きかも。「Thelonious Himself/Thelonious Monk」。57年、全9曲66分。Monk(p)John Coltrane(ts on 8)Wilbur Ware(b on 8)。
①「April in Paris」のメロディー最初の5音から嬉しくなってしまう。③「Functional」の左手のラグ的軽快感、⑦「All Alone」のリリシズムにもしびれるが、なんといっても22分近くに及ぶ⑨「'Round Midnight(in progress)」だ。
⑥収録ヴァージョンに至るまでの、試行錯誤の模様を収めたもの。テイクごとに全く演奏が違う(途中放棄が多いのだが)。これを聴くと、モンクという人は演奏の一瞬一瞬に考え抜いて鍵盤を叩いていたのだな、と思う(いや、ジャズミュージシャンというのは皆そうだよ。という声もあるかもしれない。が、大半の演奏家は考えているというより『反射』に近いだろう。モンクはその瞬間の衝動に忠実なのだ。だから、楽理的には不自然に近いが生理的には心地よい『間』が生まれるのではなかろうか)。
ここでのさまざまなテイクは、突然とんでもないクラスターが出現したりして、本当に面白い(逆に言えば、⑥は『商品』として、一番無難なヴァージョンに落ち着いたように思える、というのは僻目だろうか)。これらのテイクを編集してオリジナル・ヴァージョンを作り上げた重度マニアが、全国に最低でも10人ぐらいはいるに違いない。