Siesta
深夜に突然、マイルスのトランペットが聴きたくなる。ということが、よくある。で、これを選んでしまうことが、意外に多い。「Music From Siesta/Miles Davis, Marcus Miller」。87年、全10曲38分。
映画『シエスタ』のサウンドトラック。おそらく、大方のマイルスファン並びにジャズファンにとっては、顧みる価値のないアルバムかもしれない。だが、①「Lost In Madrid」。このトランペットソロに、自分は激しく胸をかきむしられる。切なく悲しく寂しく暗く重い。ルイス・ブニュエル『アンダルシアの犬』のサウンドトラックにした方が、むしろよく似合うと思えるぐらい。こんな絶望感に満ちた響きを味わうことも、マイルスを聴く楽しみの一つであるはずだ。
ところでこの作品、実はマイルスはほとんど吹いていない。時折出てきて、ちろっとメロディーを吹く程度。しかし、ぱっとしない映画(冒頭シーンを見た瞬間、ラストが想像できた)のためにマーカスの作った陳腐な情緒過多ソングが、マイルスが加わっただけで高貴な哀切バラードに変身する。うーん、やっぱりさすがです。