あうとわ~ど・ばうんど

Ballads

フリー・ジャズは好きだが、フリー・インプロは苦手だ。あくまで個人的分類で一概には言い切れないが、フリー・ジャズは(「規則」をあえて無視することを含め)ジャズの作法に則っているが、フリー・インプロ(あるいは完全即興とでもいうか)はどちらかといえば、現代音楽に近い。と言えばいいだろうか。もちろん、境界線はすごくあいまいだし、フリー・インプロそのものが嫌いなわけではない(阿部薫好きだしね)。
フリー・インプロで思い出すのが昔のヨーロッパ・フリーで、ペーター・ブロッツマンとかジョン・サーマンとか一部を除いて、やっぱり肌に合わないというか、苦手だ。で、あんまり聴いてない。現在の若手ヨーロッパ・フリーは割合好きなので、それらの基となった(?)昔の音源を聴き込んでいけば大鉱脈を発見できるのかもしれないが、今のところはそこまでは手が回らない。
ところで、ヨーロッパ・フリーの代表格というと、Derek Baileyを思い出す。マーク・リボーやパット・メセニーが畏敬の念を抱いているという巨匠だ。かといって苦手なことに変わりはないのだが、自分は1枚だけアルバムを持っていて、それが「Ballads」(tzadik)だ。
ギターソロによるスタンダード集。41分14曲だが、たぶん切れ目なく41分演奏してあとでトラックナンバーを14個切っただけだろう(だから同じ「曲」が何回か出てくる)。でもおかげで、トラックごとに取り出して聴くことも可能で、ベイリー作品としては実に聴きやすい。ジョン・ゾーンの企画の勝利だろう。
冒頭は「Laura」。意外や素直なメロディーだなと思ったら、そこはそれ、やっぱりベイリーだからかなりデフォルメされている(ベイリーはデフォルメしようと思っているわけでなく「素直」に弾いてるだけだろうが)。テーマメロディーが終われば、もちろん弦を引っ掻いたり掻き毟ったり、いつものベイリー節が炸裂、そしていつの間にか2曲目の「What's New」に入っている。という感じで「Stella by Starlight」やら「Gone with the Wind」やら「Body and Soul」やら「Georgia on My Mind」などなど(ぼんやり聴いていると、テーマが同定できないけれど)が続いていく。最初は多少抵抗感があるが、流れに身を任せて聴いているうち、メロディーとインプロの境がだんだん薄れて心地よくなってきて、気付くと「あれ、終わり?」という感じ。こんなベイリーなら歓迎だ。