あうとわ~ど・ばうんど

大雑把

おそらく、それがどうした?と言われるのがオチだろうが、自分の持っている「大雑把/シャクシャイン」のジャケットには、メンバー7人全員のサインが入っている。たしか…95年の9月(げ、もう10年か)、Jerichoの主催だったように思うが、札幌でシャクシャインのライヴがあったときサインしてもらったものだ(Jerichoには、一生感謝を捧げても足りないほど数々の恩があるけれど、このライヴはそのうちの最大級の一つだ。ありがとうS谷さん)。
アルバム自体は、そこからさらに3年前の92年に買った(と思う。当時新譜だったような気がする)。高校時代マイルスを聴き、ドルフィーに出会ってジャズにのめりこみ、大学ではジャズ研に入部してアルトを手にし、山下洋輔を聴いてフリージャズに目覚め、そして、このアルバムに出会って人生を誤った。ではなくてその後の人生が決まった、というか何というか。それくらい、自分に決定的な影響を与えたアルバムだ。

衝撃だった。実はそれまであまり真剣に梅津和時(思わず「梅津さん」と書きたくなるが、このブログ本文では原則的に、邦人の場合も海外ミュージシャン同様に敬称略で行きます)を聴いたことがなかったのだが、一聴して、そのアルトの音に打ちのめされた。そんな音は聴いたことがなかった(現在でも、似た音はあまり耳にしない。強いて近いと言えば…泉邦宏かな?)。演奏も、最高だった。いや、最高を超えていた。とても信じられなかった。
それから梅津和時に心酔した。世界最高のサックス奏者だと思っていた。当時は唯一の神だった(もちろん今でも神の一人だ)。神の参加アルバムは手当たり次第に買った。大学時代、神の曲を何曲かレパートリーにしていたものだ。ジャズだけでない、豊穣な音楽の世界に目覚めさせてくれたのも神の御加護だ。
ただ、大学卒業後の一時期、梅津和時への興味を失った。というよりそのときは、ジャズ自体にあまり関心がもてなくなっていたのだ(かなりの枚数を手放したなあ。後に買いなおしたものもあるが、今になってみると後悔…)。そして、ある時リハビリのようにして聴いたマイルスによって、再び強い関心を取り戻すのだが、それはまた別の機会に。
ところで、シャクシャイン体験があまりに強烈だったせいか、実は梅津和時のその後のアルバムは正直あまり感心しなかったのだけれど(「First Deserter」ぐらいかな。よく聴いたのは)、2001年KIKI BANDの登場には狂喜した。今月11日には、新井田耕造脱退ジョー・トランプ加入の第2期KIKI BAND初、通算では第5作の「Dowser」が発売される。楽しみ。さらに、25日にはアケタズ・ディスクから、82年の「サックス・ワークショップ・イン・浜松」3枚組が出るようだ、これも楽しみ。ちなみに、今年出たバスクラ・ソロ作「Show the Frog」はソートーな名盤だと思う。

話を戻す。シャクシャインのアルバムは、知っている限りで4枚。結成のきっかけとなった「キネマ」(坂井紅介がベースを弾いていた)、本作、アニメ「ワイルド7」のサウンドトラック(ブラス隊多数)、輸入盤「Desert in a Hand」。やっぱり一番最高なのは(梅津和時ディスコグラフィー中でも最上位のほうだろう)、この「大雑把」で、溝がすり切れるほど、というとレコードではなくCDなのだから嘘になるが、本当に何度も何度も何度も何度も何度も何度も聴いたものだ。
というわけで、本アルバムの話だ(過去最長の前置き)。1992年4月19日、東京西荻窪アケタの店 梅津和時17日間連続ライヴ『続々大仕事』最終日の録音(と、裏ジャケには記載されているが、CDの中で梅津和時自身は「18日間」と言っている。どっちが本当?)当時アケタの店春の恒例だった「大仕事」の3回目(最初の年が大仕事(15日間)次の年が続大仕事(16日間)次が続々大仕事(17日間)次が続々々…と増えていき最後は何日間になったのだろう?今でもたまにプチ大仕事をいろんな所でやっているようだ)。言わずもがなだが、シャクシャインのメンバーは梅津和時(as,ss)今堀恒雄(g:左)三好功郎(g:右)清水一登(p,key)水野正敏(b)新井田耕造(ds)八尋知洋(per)。
1曲目、八尋のパーカッションソロから始まる。しばらくしてドラムのハイハットが加わる。ベースが入り、今堀のギターが刻み始める。清水のピアノが来て、三好のギターも切れ込む。舞台が整って、御大のアルトが登場。オープニングにふさわしい構成。何度聴いても素晴らしい。7人がひとしきりやった後、梅津和時の?カウントをきっかけにツインギターが唸りを上げてテーマへ。「シャクシャインの戦い」だ。ソロは、清水によるピアノとキーボードから今堀のギターへ。来てます来てます(古い)。ガンガンに盛り上げてアルトへバトンタッチ。この瞬間。うーん、しびれる。
2曲目はアラブ風の曲、その名も「アブラだアブラ」。ソプラノサックスによるソロから始まり、だんだん全員が加わってくる。いきなり熱くはならない。徐々に徐々に確実に熱を帯びてくる。そして、辛抱たまらんっ、という感じでテーマへ。これがイイのだ。3曲目、一転してバラード、板橋文夫「Mix Dynamite Trio on Stage」でも劈頭に置かれる名曲「シーコ・メンデスの歌」だ。三好のギターによる前奏が素晴らしい。そうして梅津のソプラノサックスが、優しく、あるいは悲しげに、あるいはこちらを静かに励ますように、そっとテーマを奏でる。最初の3音で、もう泣きそうだ。テーマを受けて清水のピアノソロ、水野のベースソロ。再びテーマ。こちらは涙をこらえるのに必死だ(ちなみに昔、失恋したときこの曲を聴いて本当に泣いたことがある)。く〜っ、たまらんっっ!
最終4曲目「ナビゲーター・ブーガルー」。曲に乗って繰り広げられる梅津のMCがカッコイイ(ここで「18日間あっという間」というフレーズが飛び出す。余談だが、このMCを聴いた知人は「すっげえリズム感だ」と感嘆した。それで思い出したが、大学時代、ライヴでこれを真似しようとしたらグダグダになってしまったことがある。自分にはリズム感がない…)。メンバーをソロとともに紹介、怒涛のファンク・ナンバーに突入する。今堀→三好→清水→水野→八尋→新井田と全員が再びソロ。そしてドラムの後、9分58秒だ。アルトのハイノート一閃。この音を聴け!! もう本当にこれ以上言うことなしだ。