あうとわ~ど・ばうんど

Peter Evans & Barry Guy / Syllogistic Moments

来日が目前に迫ったピーター・エヴァンスの新譜が出ている。

Peter Evans & Barry Guy / Syllogistic Moments
Maya Recordings, 2018)
Peter Evans (tp), Barry Guy (b)


ヨーロッパ即興ベーシストの巨人、バリー・ガイとのデュオ。2016年11月録音。トランペットという楽器の極限を拡大し続けるピーターと、木の箱から無限の音を取り出すバリーの共演とあって、とにかく豊かな音と響きが渦巻いている。宮崎駿の描く漫画みたいに一瞬一瞬の情報量が多すぎ、わたしのちっぽけな耳(脳)では演算処理が追い付かないほど。ピーターのプレイを受け止めまくるバリーの対応力にもほとほと感心する。仙川でもこんな音を浴びたい。

ピーター・エヴァンス ディスコグラフィー解題

JazzTokyo 誌の特集「ピーター・エヴァンス」。最新245号では齊藤聡さん剛田武さんとともに、ピーターのディスコグラフィーを振り返るカタログミニレビューを担当しました。各人5枚、計15枚を取り上げ、私は前書きも担当しています。

jazztokyo.org

2週間後が楽しみだー

Akira Sakata / Nicolas Field - First Thirst Live at Cave12

First Thirst: Live At Cave 12

First Thirst: Live At Cave 12

Akira Sakata (as, cl, vo), Nicolas Field (ds)


なにゆえ10年も前のライブ音源が突然リリースされたのかはよく知らない(というか調べる気がない)が、仮にこれが今年のライブだったとしても驚かないし、あるいは20年前の演奏だったとしても同じこと。同じレーベルから出ている先日のヴァンダーマークのアルバムと同様に、いつもながらの「分かっちゃいるけど…」な音楽である。

Escalator : Vandermark / Kugel / Tokar - No-Exit Corner


Escalator : Vandermark / Kugel / Tokar - No-Exit Corner
Not Two Records, 2018)
Ken Vandermark (ts, cl), Klaus Kugel (ds, perc), Mark Tokar (b)


かつてほどのヴァンダーマーク熱はもうないし、新ユニットの初作品というわけでもないので、いったんは入手を差し控えようかとも考えたのだが、Not Two のニューリリース諸作品とともに、ついでに注文した。前作「Escalator」(昨年8月14日参照)のアルバムタイトルがそのままグループ名になったようで、なんとグループのホームページも存在しており、ヴァンダーマークとしては独自の発展を見据えているのかもしれない。

とはいえ、音楽性の基本はおおまかには変わらず、ヴァンダーマークはシンプルで力強いリフをモチーフに、テナーサックス(とりあえずクラリネットのことは置いておく)を吹いて吹いて吹き倒す。とにかくイクのだヤルのだツッコむのだ、と昇りつめていく(語彙の選択に他意はない)熱い演奏に、地球の裏側(北半球同士なので正確には「裏側」ではないが)の「野蛮ギャルド」との類似点にも思いをはせつつ、分かっちゃいるけどカタルシスを覚えるのである。


アルバム収録ライブの動画
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吉田野乃子 塚原義弘 デュオライヴ & デモCD-R

19日、札幌ジェリコで、吉田野乃子&塚原義弘デュオのライブを観た。

単発セッションではなく、新たなユニットによる初ライブとのこと。しかしデビューを見届けた観客が、演奏者と同じ2人だったのは残念だ。このデュオは最近の野乃子ちゃんのプロジェクトの中で最もノイズ・インプロ成分が多く、かつ今後の展開に大いに期待できる内容だったからだ。

ライブはインプロで開幕し、Cubic Zero のレパートリーでもある「Moldy Coffee Lighter」、「Earth」「Wind」「Fire」の即興3部作、名曲の予感がする「ルークシュポール」、タブラの楽譜を使って互いにスキャットも交えた面白デュオ、北海道方言タイトルシリーズの「Osa-Sal」、1分間の超速ノイズインプロなど、幅広いタイプの音楽が披露された。

野乃子ちゃんはライブ終盤「ソロやグループと違って、デュオは仕事量が多くて大変」と思わず漏らしたが、終了後は「阿部・高柳デュオみたいな演奏もしたい!」という力強い宣言も飛び出す充実のライブだった。


で、物販にてデモCD-R「あずましくない」を購入。

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吉田野乃子 (as), 塚原義弘 (8-strings guitar)

「あずましくない」とは北海道の方言で、「心地よくない、落ち着かない」といった意味(「あずましい」という肯定形もあるが、否定形として使われることの方が多い)。つまりタイトルは「不快な音楽だぞ」という逆説的な主張だ。

収録された3曲の曲名も北海道にちなんでおり、①「ちょささる」も方言。「ちょす」は「いじる、さわる」という意味で、「~さる」は説明が難しいのだが「自分の意思とは無縁に、たまたまそうなる」といった意味合いの助動詞。例えば「触るな」と言われていた物を思わず触ってしまった子どもが、怒られた言い訳に「違うよ。後ろの人が押したから、ちょささったんだよ」などと使う(良い例ではないが、雰囲気は伝わると思う)。彼女には他に「うるかす」(水分を含ませる、水の入った容器に入れる)、ライブでも演奏された「押ささる」(分かりますね?)といったオリジナルもある。本演奏はノイズ成分が多い掛け合いが楽しい。

ライブでも披露された②「ルークシュポール」は外来語風だが、釧路地方の厚岸町に実在する地名(アイヌ語由来)で、一帯は針葉樹林の広がる原野である。Cubic Zero の「Flying Umishida」(2日参照)に収録された、後志地方の古平町にある哀しい伝説が残る巨岩をモチーフにした「セタカムイ」がそうであったように、この曲も抒情的ムードを湛えている。アルトサックスとギターが互いにディレーエフェクターを効果的に用いつつ、釧路地方特有の濃い海霧の中を一筋の光が貫いていくような、新天地を拓こうと入植した開拓民の悲喜に思いをはせるような、優しくも力強いアルトサックスの音に魅せられる。

③「あげいも」は、ジャガイモにホットケーキミックスや小麦粉・卵・ベーキングパウダー・砂糖・牛乳・水などを混ぜた物を衣として油で揚げた北海道のご当地料理である(実は私は知らなかったのだが)。演奏にそういったものを想起させる要素はないが、歪んだ音たちがあずましい。

しかしこのデモCD-Rはいわば予告編。デュオの本領はライブにある。と断言してしまおう。今後の発展を震えて待ちたい。


購入希望者はいつものように
野乃屋レコーズ nonoko_yoshida@yahoo.co.jp

Kevin O'Neil / Sous Rature

未聴だったスティーヴ・リーマンの公式初録音アルバムをついに入手した。(ネットで大きなサイズのものが拾えなかったので、ジャケを直接撮影したがかなり草臥れている。プラケースも壊れていたし…)
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Kevin O'Neil / Sous Rature
Barking Hoop Records, 2000)
Kevin O'Neil (g, composer), Steve Lehman (as), Jackson Moore (as), Kevin Norton (ds, perc)


1999年8月録音というから、リーマンはまだ20歳を超えたばかりのころ。メンバーはいずれも当時、アンソニー・ブラクストンの元で活動を共にしていた精鋭たち。アルバムはリーダーのケヴィン・オニール(ノートンと共に参加したブラクストンの2003年のスタンダードカルテットが有名)を中心として、彼の作曲作品1曲のみの47分一本勝負である。リーマンも同楽器のジャクソン・ムーア(97年のナインテットへの参加が有名)とともに、若さとガッツで、という形容詞が似合いそうな、最近はとんとお目(耳)にかからなくなった熱いブロウを展開していてうれしくなる。

スティーヴ・リーマンに関する記事アーカイヴ


なお、ケヴィン・ノートンが主宰するこのレーベルは、11枚の作品を残して10年以上前に活動を停止しているのだが、うち1枚だけが bandcamp でデジタルアルバム化されている。トニー・マラビー、デイヴ・バルー、ジョン・リンドバーグが参加しているので、興味がある人はどうぞ。