あうとわ~ど・ばうんど

田村夏樹 藤井郷子 - How Many?

2週遅れの話題で申し訳ないが、3月下旬の土日に東京出張があり、そのついでに Sightsong さんと5年ぶりに再会し、また、昨年の出張時 id:zu-ja さんとお互い気づかずすれ違った(こちらこちら参照)宿命の地なってるハウスにてついに邂逅を果たし、さらに羽田空港でぎりぎりタイミングが合って id:yorosz さんに挨拶できるという僥倖に恵まれた。ということが一方にありつつ、いつものように仕事の合間を見繕ってディスクユニオンでCDを何枚か仕入れた。その一枚。

ハウ・メニー? (紙ジャケット仕様)(LIBRA 102-103)

ハウ・メニー? (紙ジャケット仕様)(LIBRA 102-103)

田村夏樹(tp) 藤井郷子(p)
(なお購入したのは本当は Leo Records から出た初回盤なのだが)


多作な藤井郷子さんのグループワークの中で、最も好きなのはやっぱり夫君とのデュオだ。(ちなみに中でも好きなのが「In Krakow, In November-Satoko Fujii」である。06年11月8日10年9月10日参照)。このデュオの第1作である本作だけ持っていなかったが、新宿ユニオンで中古ながら未開封品を入手できた。フリージャズデュオとして決して派手でも複雑でもないけれど、非常に濃密に音が交わり合い、どこか東洋的ノスタルジーも感じさせる情感と哀感は、この頃からすでに開花している。うむ滋味深い。

Mark Wastell Quartet

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Mark Wastell Quartet
Confront Recordings, 2015)
Olie Brice(b) Dominic Lash(b) Mark Wastell(violoncello) Alan Wilkinson(as, bcl)


英国のサックス奏者アラン・ウィルキンソンが参加し、アリス・コルトレーンの「Huntington Ashram Monastery」とオーネット・コールマンの「Lonely Woman」が収録されていたので興味を覚えて購入。弦楽器3本とリード楽器という変則編成で、演奏されているのがイメージの固定されたというべき有名なジャズオリジナルのため(グループの演奏コンセプトもあろうが)、ウィルキンソンは自己のコードレストリオの時のような暴虐的咆哮は鳴りを潜め、曲の世界観を敷衍するように(なにしろオリジナルバージョンは短いのに、本作は両曲とも35分以上の長尺に拡張されている)構想力あるアドリブを展開している。それにしても、何度も書いているが「Lonely Woman」という曲は、フリー系奏者にとっては実力を試される試金石のようなものだ。


参考動画(本作のカルテット+2)
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Peter Van Huffel / Sophie Tassignon - Hufflignon

ピーター・ヴァン・ハフェルの旧作を聴く。

Hufflignon

Hufflignon

Sophie Tassignon(vo) Peter Van Huffel(as, ss) Samuel Blaser(tb) Michael Bates(b)


実は単に、clean feed のラインアップに Gorilla Mask 以外の参加作があったことに偶々気づいて何となく取り寄せてみただけだったのだけど、いやあこれは良かったなあ。ロックテイストと爆発的疾走が持ち味の Gorilla Mask とは違って、ヴォイスとの二枚看板で、現代音楽的というのかクラシック音楽風とでもいうか、落ち着いたムードで情趣豊かに格調高く時に物憂げな演奏を披露してみせている(作曲は10曲中6曲がタシニョン、3曲がヴァンハフェル、残る1曲はなんとヴィヴァルディの「主は愛する者に眠りを与え給う」である)。

ヴァンハフェルの正統的で時にアナーキーさも垣間見せるサックスの音色の美味しさもさることながら、本作で最も印象に残るのはホーンのように多彩な技術を見せつけるベルギー出身ベルリン在住らしいタシニョンのヴォイスであって、彼女に対する興味も俄然湧いてきた。(いわゆるジャズヴォーカルはとても苦手なのだけれど、こういう女声ヴォーカルって大好物なんだよね)



参考動画(2人は「House of Mirrors」というグループでも活動を共にしている)

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EN CORPS - Generation

フランスのピアニスト、Eve Risser が参加するトリオ「EN CORPS」の新作が届いている。


EN CORPS - Generation
DarkTreeRecords, 2017)
Eve Risser(p) Benjamin Duboc(b) Edward Perraud(ds)


イヴ・リッサを知ったのは、3年ぐらい前(だった気がする)メールス中継で観た White Desert Orchestra(昨年11月29日参照)がきっかけだったのだけれど、その後、彼女の他作品を聴くにつれ、ピアニストとしての魅力にも開眼してきた。このトリオは2012年に第1作を出して、本作が5年ぶりの作品ということになるけれど、前作よりもプリペアドピアノの使い方に深化を感じた。透徹した静けさと美しさの中で始まった演奏が終盤、トライアングルが重心に向かってじりじり距離を狭めるように収斂していくさまが実に心地よい。

ちなみにレーベルHPから本作と前作をまとめて注文すると合わせて25%引き(15ユーロ×2×0.75=22.5ユーロ)となり、しかも国際送料も無料となっている。


参考動画
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VOB Trio - Nature of Spnning Ⅰ

31日夜に札幌くうで VOB Trio のライブを観た。ゲストの札幌在住インプロヴァイザー横山祐太を久々に観たかったのと、Sightsong さんがなってるハウスでのライブを激賞していたので(送別会を欠席して)行ったのだが、あまりにも良かったので VOB Trio のアルバム2枚と、メンバー参加のCD1枚を買った。ここでは、VOB Trio の新作を取り上げる。


Virtaranta Okuda Berger Trio - Nature of Spinning
Zvočni prepihi, OOO Sound, 2017)
Antti Virtaranta(b) Rieko Okuda(viola) Jaka Berger(prepared ds)


ライブの時と同様、3人とも密やかに擦れ敲き軋む音たちを丁寧に、文字通り縒り紡いで(spinning)いく。だがこの微かな音たちの撚り合わせの得も言われぬ豊穣さは只事でない。もしライブを観ずに音だけを聴いて判断していたら私は気づかなかったに違いなかろうが、その鍵になっているのは、3人で共有されているミニマルなリズムだろう(ライブでは、Okuda さんがひたすら足でリズムを取りながら上半身を激しく動かし続けるのが印象的だった)。明示的なリズムとしては現れないけれど、音楽が進むにつれ、いわば影の存在としてソレはひたすらに膨張を続ける。聴く側の体を揺らし、高揚感はいや増すばかり。その極点の刹那に音楽は終わる。そのカタルシスたるや。


参考動画(昨年の 1st アルバム)
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沖至 - 井野信義 - 崔善培 / 紙ふうせん

ちゃぷちゃぷレコードの新作が届く。一昨年7月、天下のユニバーサル・ミュージックから、埋蔵音源発掘シリーズ第1回一挙5タイトルCD・LP同時発売という快挙を成し遂げたが、待てど暮らせど第2回目のリリースは無く、1年半ぶりにようやく発売となったのは何故かリトアニアの NoBusiness Records からであった。

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Itaru Oki | Choi Sun Bae | Nobuyoshi Ino - Kami Fusen
NoBusiness Records, 2017)
沖至(tp bamboo fl) 井野信義(b) 崔善培(tp)


96年1月の演奏。私が買ったのはCDバージョンで全6曲、沖さんのオリジナル2曲、井野さんのオリジナル2曲、スタンダード2曲(I Remember Cliford と Old Folks / Tea For Two の実際には3曲。だが、そういえば沖さんの「ポンポン・ティー」には Mack The Knife のメロディーが挟まる)という構成。タイトル曲は井野さんのオリジナル曲で、井野さんのもう一曲は「バクのあくび」(これはとてもうれしい!)。ちなみにこの2曲は90年代の井野さんの名レパートリーで、レスター・ボウイとの「デュエット」に2曲とも収録されていたほか、「バクのあくび」は板橋文夫さんの「Mix Dynamite Trio On Stage」でも演奏されていた名曲である(なお当時、われわれの間では「あのガッチャマンみたいな曲」で話が通じた)。アルバムは装いとしてはフリージャズであるけれど、カギカッコ付きのフリージャズではなく、文字通りフリー(自由)にジャズを演奏している印象。

Samo Šalamon - The Colors Suite

clean feed レーベルに直接注文していた新譜が何枚か届いたが、最も気に入ったのが、何となくついでに買った一枚、だったのは何とも不思議なことであり、よく起こりがちでもあり、でもうれしいことであったりする。

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Samo Šalamon - The Colors Suite
clean feed, 2017)
Achille Succi(bcl) Julian Argüelles(ts, ss) Samo Salamon(g) Pascal Niggenkemper(b) Roberto Dani(ds) Christian Lillinger(ds)


スロベニア出身でジョン・スコフィールドに師事したギタリスト、Samo Šalamon の変則セクステットによる、昨年のリュブリャナ・ジャズフェスティバル(スロベニア)でのライブ作品。「色彩組曲」のタイトル通り、曲目には黄黒緑赤白茶青灰の8色が並んでいる。Šalamon は、Tony Malaby や Tim Berne や David Binney といったサックス奏者との共演作も多いが、ここでは Julian Argüelles のテナーおよびソプラノサックスが光っていて、この人のサックスは今まで何度か耳にしているけれど、正直ここまで面白いとは思わなかった(というか、Gebhard Ullmann の New Basement Research で大暴れしていた人だということを忘れていた。09年6月2日参照)。イタリア出身のリード奏者、Achille Succi のバスクラリネットも熱くて良い。というのが、意外なうれしさであったわけだ。


参考動画(実際のライブ映像)
www.youtube.com