あうとわ~ど・ばうんど

Todd Neufeld - Mu'U

話題の新作を聴く。


Todd Neufeld - Mu'U
Ruweh Records, 2017)
Todd Neufeld(g) Thomas Morgan(b) Rema Hasumi(vo) Tyshawn Sorey(ds, bass tb) Billy Mintz(ds, congas)


これはとても魅力的なアルバムだ。ただしその魅力を説明するのは容易でない。グループはトッド・ニユーフェルト、トマス・モーガン、タイショーン・ソーリーのトリオが基調になっている。と書くと、タイショーンの作品群の雰囲気を思い浮かべるけれど(そんな感じもなくはないが)、むしろ所謂ジャズ的な興奮がふんだんに感じられるのがうれしい。むろん『ジャズ的な興奮』といっても、熱気、のようなものではない。微温の心地よさ、とでもいうか。時折挟まる蓮見さんのヴォーカルやリーディングも、そういった雰囲気で、こういうのはとても好きなタイプの声なのだが、デジャヴュを感じさせるというか、ノスタルジックでもある。


EPK
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Mary Halvorson Quartet Plays Masada Book Two ( John Zorn / Paimon )

メアリーの新作を聴く。

Paimon: Book of Angels 32

Paimon: Book of Angels 32

Mary Halvorson, Miles Okazaki(g) Drew Gress(b) Tomas Fujiwara(ds)


足かけ13年に及んだジョン・ゾーンの Book of Angels プロジェクトも、この32作品目をもって完結。ということだそうである。メアリーは長年にわたる Masada のファンであった(と帯に書いてある)そうだが、アルバムを一聴して最初は、さしものメアリーにとっても Masada の重力圏は強すぎたか、などと感じたものの、繰り返し聴くたびに印象は変わった。最大限の敬意を払って Masada メロディーを生かしつつ、きちんと(?)重力場を捻じ曲げるような自己主張をしている。もう一本のギターであるオカザキも、当初は邪魔(!)にも感じたが、メアリーをよく引き立てている。(なんだなんだ、結局メアリーしか聴いていないのかよ)。ところで、私の購入したCDには帯が2枚重なっていたが、これは仕様か、それともやはりミスか。

Fred Anderson Quartet / Live Volume Ⅳ

待望のクリス・ピッツィオコスのライブを平日に2日間観るために、いろいろ無理をして(ただでさえ年末に向けて忙しくなっている)仕事にしわ寄せが行き、おまけにライブレビューを書かねばならなかったので、ブログをすっかり放置してしまっていたが、とりあえず喫緊の懸案は片付いたので、これでようやく再開できる。なおレビューはそのうちどこかに載ると思うけれど、載ったら Sightsong さんのように当ブログでもお知らせする。


未聴アルバムが20枚以上溜まっていたが、まず再開一発目に選んだのは

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Fred Anderson Quartet / Live Volume Ⅳ
(Asian Improv Recoerds, 2016)
Fred Anderson(ts) Tim O'Dell(as, ss) Tetsu Aoki(b) Avreeayl Ra(ds)


これが、シカゴのアグレッシヴ老人フレッド・アンダーソンの最後のライブ録音である。彼の晩年のグループを支えた日本人ベーシスト、タツ青木のレーベルからリリースされている。アンダーソンが自ら経営していたヴェルヴェット・ラウンジでこの演奏が残されたのは、2010年3月19日。おそらくはアンダーソンの81歳のバースデーライブだったのであろう(彼の誕生日は3月22日)。しかしそれから3ヶ月後の6月24日に、彼は召されることになるのである。とはいえ、ここには死の予感めいたものは一切ない。たしかに往時に比べれば音は弱弱しくなったようだが、その瞬間その場における自らの内心に常に忠実であり続けるような、天衣無縫でワンアンドオンリーな『アンダーソン節』は健在であり、むしろ生の喜びに満ち満ちている。その事実が私の胸をいっぱいにするのだ。

gravity - gravity

最近偏愛しているドイツのギタリスト Hannes Buder の新作が届く。


gravity - gravity(2017)
Hannes Buder(cello, composition) Andrew Lafkas(b) Hannes Lingens(ds)


なんと今回はギターでなく、チェロを弾いている。しかもギターでのエクスペリメンタルなプレイとは打って変わって、抒情味豊かなしっとりしたチェンバージャズになっているから驚いてしまう。作曲の才もたいしたもので、これはうれしい、新たな一面を知れて良かった。今後も大いに期待している。


参考動画
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試聴
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Nate Wooley - Battle Pieces 2

Nate Wooley「Battle Pieces」の続編が届く。


Nate Wooley - Battle Pieces 2
Relative Pitch Records, 2017)
Nate Wooley(tp) Ingrid Laubrock(sax) Matt Moran(vib) Sylvie Courvosier(p)


一昨年の前作と同様、静的でジリジリするような即興音楽。今回もライブ録音(ただし舞台は米国からドイツに移っている)だが、やはりそうした雰囲気をあまり感じさせない。前作は「Battle Pieces Ⅰ~Ⅳ」の4曲(プラス別の3曲)が収録されていたけれど、本作は前作最終曲である「Battle Pieces 4」から始まって「7」まで4曲が演奏されており、連作集の体裁となっている(しかしアルバムタイトルが「Battle Pieces 2」というのは紛らわしい。曲としての「2」は演奏されていないのだから)。前作と比べてさらに抽象度が高い印象だけれど、前作よりは腑に落ちるというか、とてもすんなり心にしみてきて、アルバムの進行とともに静かな興奮がじわりじわり積み重なっていき、ある瞬間、スタンプカードにスタンプが溜まりきって突然価値が生まれるような、という比喩は拙すぎるので言い換えよう、堤防を越えて水が押し寄せてくるような、興奮が一気に高まるのを覚えた。


参考動画(録音翌日のライブ)
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James Blood Ulmer with The Thing - Baby Talk

期待通りだった(あるいは超えている)のは、こちら。

Baby Talk

Baby Talk

James Blood Ulmer(g) Mats Gustafsson(ts, bs) Ingebrigt Håker Flaten(elb, b) Paal Nilssen-Love(ds, per)


いまや逐一追い駆けることをしなくなってしまった The Thing だが、ウルマーとの共演なら興味津々だ。The Thing にはさまざまなコラボレーション作品があって、とくにギターをゲストに迎えたアルバムが多いわけだけれど、これはかなり異色で、だけど出色と言えるのではないか。演奏されているのはどれもウルマーの曲で、彼のギターはほとんど屹立者のよう、というか、サウンドに奉仕しても先導してもない(ように見える)のに、Thing の3人がどんなに暴れまくろうと全てはウルマーの掌の上にあって、音楽全体をしっかりコントロールし、支配している。いやあやっぱりレジェンドは凄いなあ。楽器は違えどオーネットの正統な後継者なのだ、と実感する。


参考動画
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Boneshaker - Thinking Out Loud

Thinking Out Loud

Thinking Out Loud

Mars Williams(reeds, toys) Paal Nilssen-Love(ds, perc) Kent Kessler(b)


期待したほどでなかった、というのが正直なところ。前二作とは異なった毛色を打ち出そうとしたのかどうか、選曲にパワーダウンが否めず、マーズのブチ切れ度も足りない。うーむ残念だが、こんなこともある。マーズを追いかけ続けていく方針に変わりはない。今でも彼は、一度生で拝んでみたい未来日ミュージシャンの第一位である(ちなみに、PBB も同率一位)。


参考動画(今年のライブ)
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