あうとわ~ど・ばうんど

Chris Pitsiokos - Valentine's Day

9月の来日が待ち遠しい Chris Pitsiokos の「ソロ」アルバムが出ている。(デジタルオンリーだが、おそらくこれまで同様、待っていればCDも出るのではないか)


Chris Pitsiokos - Valentine's Day(2017)
Chris Pitsiokos(as)


全8曲。アンソニー・ブラクストンに捧げた2曲目ではオーバーダブを用いているが、それ以外は全て無伴奏ソロである。各曲から聴き取れるのは、前述のブラクストンやエヴァン・パーカージョン・ゾーン、ジョン・ブッチャー、阿部薫林栄一などなど、中にはもしかすると彼自身聴いたことがない奏者がいるかもしれないが、無伴奏サックスソロの巨人たちによる過去の達成を自家薬籠中のものとして、技術的なひけらかしではなく、自然な音楽として昇華している、ということである。『わたしより3歳下なのに、わたしができることは全部、わたしより上手くできる』とののこちゃんが評する CPだから、むろんそんなことは当然かもしれぬ。

だから、実は私が最も感心したのはそうしたハイテク技術ではない。たとえば5曲目や最終曲、衒うことなく発せられる彼のアルトサックスの音に、エリック・ドルフィー無伴奏アルトソロの名演「テンダリー」(「Far Cry」)の影を見出すことはできないだろうか。ドルフィーのアルトが備えていた、音が空間を通るときに空気との間で引き起こされる摩擦によって生まれるような得も言われぬ官能性(むろんこれは比喩である)を、CPはこの若さでしっかりと身に付けている。彼の将来がますます楽しみだし、とりあえずは9月の来日が本当に待ち遠しい。