あうとわ~ど・ばうんど

『失われた時を求めて』新訳

失われた時を求めて〈1〉第一篇「スワン家のほうへ1」 (光文社古典新訳文庫)

失われた時を求めて〈1〉第一篇「スワン家のほうへ1」 (光文社古典新訳文庫)

光文社古典新訳文庫にてついに『失われた時を求めて』の全訳が始まった。毎日少しずつ読んでいる。
若い頃ちくま文庫版を読んだ時には、長い比喩と九十九折りのような文章に悪戦苦闘しつつどんどん読み飛ばしていった結果、結局何も心に残らない、という馬鹿丸出しの苦い経験があるのだが、今回訳は日本語がほんとうにリズムよく、心地よく読める。
訳者が前口上で述べているとおり、一行一行を何度も行きつ戻りつしながらゆっくりじっくり読むのがいい。重層化された記憶を一層一層丹念に丁重な手つきで広げて見せるプルーストの文章に触れるうち、われわれの脳裏にもさまざまな事柄が思い出されあるいは何かに気づかされる。ある程度の年輪を重ねてから読んだ方が味わい深いのかもしれない。