あうとわ~ど・ばうんど

Astor Piazzolla Memorias

ピアソラ自身を語るたまには、書籍を取り上げてみよう。「ピアソラ自身を語る」(ナタリオ・ゴリン著、斎藤充正訳、河出書房新社)。
ピアソラの幼年期から老境までの回顧録と、ゆかりの人々の証言を収録したもの。難しい人物として知られたピアソラだけあって、回顧録部分がやはり面白い。音楽に対する真摯さ、状況への痛烈な批判など、マイルスの自伝にも通じる痛快さがある。
1921年生まれ(92年死去)。55年に、タンゴ革命と称される、オクテート・ブエノスアイレス結成。76年にはオクテート・エレクトロニコを結成し、エレクトリックサウンドにも挑戦。という経歴から窺えるように、モダンタンゴはモダンジャズと併走している。というより、モダンジャズに影響を受けている。ピアソラ自身、ジャズを好んでいたし(なんとRTFを好み、ギル・エヴァンスに尊敬の念を抱いていた)、ジャズマンとの共演も多い。
そんな中、こんな記述がある。

マイルス・デイヴィスとかチック・コリアとも何かできたらいいなと思っていたけど、問題が立ちはだかっていてね。
  −−なぜマイルス・デイヴィスとはそれほど難しいんですか?
  彼は“ロコ”だと思うよ。とてもクレイジーだ。もし彼のプロデューサーに話をすれば、おそらくすぐにレコードが作れただろう。気に入らないのは、脇役にされるということだ。私はいつも主役でありたい(81、82頁)

やはり、同種の感性の持ち主だったのだと思う。個人的には、どんな形であれ、2人の共演を聴いてみたかった気がするが。