あうとわ~ど・ばうんど

Playground

ここで取り上げる新作以外のアルバムは、18歳ごろ前後数年間に聴いたものが多い。結局、当時はいろいろなことが自分自身や周囲に生起しており、そうしたさまざまな記憶と分かちがたく結びついているからだ。今聴いても、よかったこと悪かったこと嬉しかったこと悲しかったこと腹立たしかったこと面白かったこと恥ずかしかった楽しかったこと気持ち悪かったこと等等たちまち沢山のことが思い出される。その後に出遭った好きな作品だと、ああいいなあ、というだけで、変わり映えのしない日常以外に、付随するものがあまりない。
というわけで、「Playground/山下洋輔」(93年)。全10曲67分。山下(p)小松康(b)堀越彰(ds)+林栄一(as)菊地成孔(ts)。このアルバムもハマりまくったなあ。本当によく聴いた。STVホールにも行った。その放送もエアチェックして、テープが擦り切れるまで繰り返し聴いた。そんなだから、いつも練習不足だった。いや、自分が怠惰なだけだ。それはさておき、何よりも菊地成孔の名前を初めて知り、林栄一の魅力に初めて気付いたのがこの作品ということだ。
③「おじいさんの古時計」の菊地を初めて聴いたときは、なんか変、と思った。上手く説明できないが、醸し出す雰囲気が普通でないというか。その感覚は今聴いてもあって、菊地以外に類似品のない妙な異物感がするサウンドだ。菊地は当時20代後半、大した若手だったわけである。そんな彼も今や40代で、日本ジャズ界を代表するトリックスター(?)とは。菊地参加では、⑦「Like Jazz」も面白い。「Like Jazz」というより「Fake Jazz」の趣で、こういう曲だと彼のパロディー精神が生かされる(ちなみにこの曲や②「Synchlonizer」⑤「Tongue Twister」など、ベース小松の作曲センスがいい)。
林栄一は、この作品が出る前、MAZURUと渋谷毅オーケストラを聴いていたが、今一つピンと来ていなかった(まあ、耳が未熟だったからだけなのだけど)。ところが、名曲⑥「Strawberry Tune」のハードな疾走感たっぷりの演奏を聴いて、ようやくカッコイイことに気付く。そして、⑨「Greensleeves」。歌心たっぷり、ストレートに、しかし決してありきたりでなく歌い上げるアルトの虜になった。名演である。最高である。完璧である。
ゲストの加わらないトリオの曲も素晴らしい。ぜひともリマスター盤を出してほしい一枚。