あうとわ~ど・ばうんど

Mars Williams / Tollef Østvang - Painted Pillars

マーズ・ウィリアムスの新作がリリースされている。

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Mars Williams / Tollef Østvang - Painted Pillars
Stone Floor Records, 2018)
Mars Williams (saxophones, toy instruments) Tollef Østvang (ds, perc)


Clean Feed で時々名前を見かけるノルウェーのドラマー、Tollef Østvang(何て読むのか、全く分からん)とのデュオ。手練れによるサックスとドラムのデュオと言うと、聴く前から快演が約束されたも同然で、むろん期待を裏切らない。テナーであってもアルトであろうとソプラノであろうが、輝かしい音で疾風怒涛のブロウから瞑想的サウンドや豊かな歌心まで、数多い引き出しを次々矢継ぎ早にひっくり返しながら、フリージャズの精髄を尽くすマーズのサックスはやはり堪らない。合間合間に挿入されるトイ楽器の中には、当然(?)鈴も含まれている。

Henry Threadgill / Double Up, Plays Double Up Plus

Pi Recordings に注文していたヘンリー・スレッギルの新譜が届く。


Henry Threadgill / Double Up, Plays Double Up Plus
Pi Recordings, 2018)
Curtis Robert Macdonald (as) Roman Filiú (as, afl) Christopher Hoffman (cello) Jose Davila (tuba) David Bryant (p) Luis Perdomo (p) David Virelles (p, harmonium) Craig Weinrib (ds, percussion)


Henry Threadgill Ensemble Double Up 名義だった前作『Old Locks & Irregular』と同様、スレッギルはコンポジションのみ。リバティー・エルマンが引き続きプロデュースを務める。メンバーはジェイソン・モランが抜けて、デヴィッド・ブライアントとルイス・ペルドモが加わり、3ピアノ体制となったことが、ライナーノートでスレッギル自身も書いているように、このグループのキモなのであろう。スレッギル役(?)を務める2人のアルトサックスには、スレッギルのような妖刀の切れ味は求めるべくもないが、気鋭のピアニスト3人(スレッギルは「6本の手または30本の指」と書く)のプレイはたしかにグループ内で突出している。

収録曲は23分近い1曲目と、同じテーマに基づく計25分近い3曲に大別され、もし冒頭曲を予備知識なしのブラインドで聴いていれば、終盤に至るまでスレッギルの曲とは気づかない自信(?)があるのだが、逆に後半はいかにもスレッギルのコンポジションだなあと如実に感じさせる曲で、もしかすると最もスレッギルっぽさの要となっているのはホセ・ダヴィラのチューバなのかもしれない、と逆説的に感じてしまう次第なのである。

Vandermark & Snow / DUOL

先日のドン・プーレン再発盤と同じレーベルから出たヴァンダーマークの新譜も入手している。

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Vandermark & Snow / DUOL
Corvett VS Dempsey, 2018)
Ken Vandermark (reeds) Michael Snow (p)


カナダの映像作家で、即興音楽家の肩書も持つマイケル・スノウ(1928年生まれだから、エリック・ドルフィーと同い年。50年代からジャズミュージシャンとしてキャリアがあるらしい)のピアノと、ヴァンダーマークのクラリネットやサックスとのデュオ。もともとヴァンダーマーク自身がモントリオールのマギル大で映画を学び(ちなみに彼は自作曲末尾に「for ~」と、ミュージシャン以外にも映画監督や俳優たちへ捧げることが多い)、スノウのファンでもあったらしい。2015年の録音時、既に80代半ばだったスノウのフリーピアノは、専業ではないとはいえ、なるほど長年のキャリアはダテではない。が、ヴァンダーマークを挑発するところまでは至ってなくて、むしろヴァンダーマークが敬して歩み寄っている印象。

María Grand / Magdalena

メアリー・ハルヴァーソン参加の新作を聴く。


María Grand / Magdalena(2018)
María Grand (ts) Jasmine Wilson (spoken word) Amani Fela (spoken word) Mary Halvorson (elg) David Bryant (p) Fabian Almazan (p) Rashaan Carter (acb) Jeremy Dutton (ds)


最近はスティーヴ・コールマンの作品をとんと聴かなくなってしまったので、近年彼のアルバムに参加するこのスイス出身の20代の女性テナーサックス奏者のことは名のみ知っていた程度だったが、初めて聴いてみると M-Base 正調とでもいうか、独特のリズムでステップを踏みながらコーナーで急加速するようなプレイに、なんだか懐かしさを覚えたのだった。彼女とは元々知り合いであったらしいメアリーは2曲に参加し、いずれもマリアのヴォーカルとのデュオが披露される。これがなかなかいい。メアリーは新作の『Code Girl』といい、Kristo Rodzevski の『Batania』『Bitter Almonds』といい、Jessica Pavone との一連のデュオシリーズにせよ、ヴォーカルとの共演で何とも言えない独特な味わいがある、ということは言っておきたい。


なおデジタルダウンロードとは別に、「Biopholio」と呼ばれる折り紙風のジャケも発売されている(ただしDLコードが書かれているのみで、CDは入っていないらしい。下記動画参照)

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Trio HLK / Standard Time

スティーヴ・リーマン参加の新作が出ていた。


Trio HLK / Standard Time(2018)
Steve Lehman (as) Evelyn Glennie (vib, marimba) Rich Harrold (p) Ant Law (8-string guitar & effects) Richard Kass (ds, perc)


Trio HLK というのは英国のグループだそうで、HLK はそれぞれメンバーの姓の頭文字。全10曲のうち、スティーヴ・リーマンの参加は3曲、聴覚障害パーカッショニストとして有名なエヴェリン・グレニーがフィーチャーされたものが3曲、残る4曲がトリオによる演奏。リーマンとグレニーは共演していない。トリオはポリリズミックなドラム、エフェクトをきかせた拡張的エレクトリックギター(時にベースの役割も担う)、クラシック・現代音楽畑出身のピアノ、で(おそらく)複雑に構築された楽曲を演奏する(ちなみに『Twilt』と題された曲が『The Way You Look Tonight』を加工した曲であり、タイトルと合わせて考えるに、全ての曲はスタンダードに想を得ているのかもしれない)。リーマンの参加トラックでは、コロンビア大で現代音楽を学んだ彼のアルトが、トリオの音楽にスッポリはまる、のが嬉しい。が、たった3曲の参加にとどまるのは残念だ。

Beaver Harris / Don Pullen 360° Experience - A Well-Kept Secret

祝・再発!
www.corbettvsdempsey.com
Beaver Harris (ds) Don Pullen (p) Hamiet Bluiett (bs) Ricky Ford (ts) Buster Williams (b) Francis Haynes (steel drums) Candido (perc) Sharon Freeman, Willie Ruff, Bill Warnick, Greg Williams (french horns)


ビーヴァー・ハリスとドン・プーレンの双頭バンドによる、1984年作品の待望の再発CD化。音楽性は同時期のアダムス=プーレン・カルテットにも通じるのだが、プーレンはフリーからブルースフィーリング溢れるウキウキするような楽しい曲からリリックなバラードまで、いずれのプレイも上質で、やっぱり彼のピアノが大好きだ。おなじみのブルーイットはじめ、お懐かしのリッキー・フォードも渾身ブロウで盛り上げる。こうなったらぜひとも81年の『Negcaumongus』も再発してほしい。


参考
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Shuichi Enomoto Quartet / Another

榎本秀一さんの新作が出ている。

SHUICHI ENOMOTO QUARTET

SHUICHI ENOMOTO QUARTET

榎本秀一 (ts, ss, 尺八) 加藤崇之 (g, perc) 米木康志 (b) 藤井信雄 (ds)


「四半世紀の時を越えて四人の超音者が集った」という惹句を見て、加藤崇之さんがメンバーに入っているので、てっきり愛聴盤である「マラム・サヤ」(06年1月8日参照)の榎本秀一4がメンバーチェンジしたものとばかり思っていたら、榎本さん自身によるライナーノートを読むと、これは別のグループであるらしい。が、いずれにせよ、榎本さんと加藤さんのコラボレーションによる新作は大歓迎だ。榎本さんの粘っこく無骨に吼えるサックス等と、正調と逸脱を並行させ時にはアサッテの方角からと見せかけて絶妙な対置で音楽を歪ませつつ位相を格段に引き上げる加藤さんのギター(国籍も年代もタイプも違うが、メアリー登場以前から、われわれには加藤さんがいたのだ。と声を大にして言いたい)の好対照がやはりすばらしい。


榎本さんと加藤さんと言えば思い出す動画(2014年のアケタ・オーケストラ。8分20秒過ぎからの榎本さんと加藤さんの応酬が凄まじく、松本健一さんや津上研太さんのニヤニヤもむべなるかなという印象)
www.youtube.com