あうとわ~ど・ばうんど

Tyshawn Sorey - Verisimilitude

マット・ミッチェルと順序が逆になってしまったが、マッカーサー・フェロー(天才賞。ちなみに wiki の説明がひどい)受賞記念、というわけでもないが。

Verisimilitude

Verisimilitude

Tyshawn Sorey(ds, perc) Cory Smythe(p, toy piano, electronics) Chris Tordini(b)


これまで聴いてきたタイショーン・ソーリーの作品の中で、ジャズのアルバムとして最も腑に落ちた。という感じ。タイショーンにとって、かつてグループの一員として共演した菊地雅章の存在はやはり大きいのだろうなと推察する(しかない)わけだが、アンドリュー・ヒルとの組み合わせが実現していたらどんなに素晴らしい音世界が生まれただろうとも想像を膨らませずにおれない、そんな広がりや可能性も持った音楽、と聴いた。

それにしても最近聴いたアルバムの、タイショーン率のなんと高いことか。


試聴

Matt Mitchell - A Pouting Grimace

pi recordings の新作を聴く。(本来はその前に、何度も聴いたタイショーンの新作について書くべきであろうが)

A Pouting Grimace

A Pouting Grimace

Matt Mitchell(p, Prophet 6, electronics, compositions) Kim Cass(upright b) Kate Gentile(ds, gongs, perc) Ches Smith(vib, glockenspiel, bongos, timpani, gongs, tanbou, perc) Dan Weiss(tabla) Patricia Brennan(vib, marimba) Katie Andrews(harp) Anna Webber(fl, alto fl, bass fl) Jon Irabagon(sopranino sax, ss) Ben Kono(oboe, english horn) Sara Schoenbeck(bassoon) Scott Robinson(bass sax, contrabass cl) Tyshawn Sorey(conductor)


本作を蓮見令麻さんは『三次元的空間、サウンド・インスタレーションとして聞くのが最適ではないだろうか』と評していたが、なるほど、ジャケットの装幀がそれらしくメンバー各人ばらばらに見えて相当に複雑なルールを課され立体パズルのように組み合わさって音楽が形作られているように聴こえ、どの曲もどこかイビツで、そのイビツさが心地よい。とはいえ、私が聴きながら思っていたのは、いろいろな参照項が思い浮かぶことで、SF映画のサントラのように思えるのはまあよくある感想として、ときどきティポグラフィカのように聴こえることもあるし、クライムタイムオーケストラを思い出す時もあるし、アルバム最後のマットのエレクトロニクスはマイルス・デイヴィスライヴ・イヴル」のスタジオ作品を想起するといった具合で、ただしそれは別に欠点というわけでもない。いろいろと想像力や記憶力を掻き立ててくれる喚起力に富むということだ。

Butcher / Smith / Walter - The Catastrophe of Minimalism

8月17日に、ウィーゼル・ウォルターがドラムで参加するジョン・ブッチャーのコードレストリオ作品を9月に紹介すると書いたら、CDの発売日が1ヶ月延びてしまい、最近ようやく届いたのであった。

The Catastrophe of Minimalism

The Catastrophe of Minimalism

John Butcher(ss, ts) Damon Smith(b, field recordings, lloopp softwave) Weasel Walter(perc)


これがとても楽しいのだ! なにしろドラムがウィーゼル・ウォルターであるから、余韻や間などというものに一片の価値も認めないようにチャカポコと手数の多いパルスをたたき出し、デーモン・スミスのベースもギーコギーコと呻り軋み、ブッチャーのソプラノやテナーもいつになく非常に『饒舌』であり、そしてそしてフリージャズ的快楽にもあふれているという至れり尽くせりぶり。激しくおススメする。ちなみにCDは200枚の限定盤だそうで、スミスの主宰する Balance Point Acoustics レーベルから出ているが、ウォルターの ugEXPLODE Records からも買えるようになっている。


試聴
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Todd Neufeld - Mu'U

話題の新作を聴く。


Todd Neufeld - Mu'U
Ruweh Records, 2017)
Todd Neufeld(g) Thomas Morgan(b) Rema Hasumi(vo) Tyshawn Sorey(ds, bass tb) Billy Mintz(ds, congas)


これはとても魅力的なアルバムだ。ただしその魅力を説明するのは容易でない。グループはトッド・ニユーフェルト、トマス・モーガン、タイショーン・ソーリーのトリオが基調になっている。と書くと、タイショーンの作品群の雰囲気を思い浮かべるけれど(そんな感じもなくはないが)、むしろ所謂ジャズ的な興奮がふんだんに感じられるのがうれしい。むろん『ジャズ的な興奮』といっても、熱気、のようなものではない。微温の心地よさ、とでもいうか。時折挟まる蓮見さんのヴォーカルやリーディングも、そういった雰囲気で、こういうのはとても好きなタイプの声なのだが、デジャヴュを感じさせるというか、ノスタルジックでもある。


EPK
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Mary Halvorson Quartet Plays Masada Book Two ( John Zorn / Paimon )

メアリーの新作を聴く。

Paimon: Book of Angels 32

Paimon: Book of Angels 32

Mary Halvorson, Miles Okazaki(g) Drew Gress(b) Tomas Fujiwara(ds)


足かけ13年に及んだジョン・ゾーンの Book of Angels プロジェクトも、この32作品目をもって完結。ということだそうである。メアリーは長年にわたる Masada のファンであった(と帯に書いてある)そうだが、アルバムを一聴して最初は、さしものメアリーにとっても Masada の重力圏は強すぎたか、などと感じたものの、繰り返し聴くたびに印象は変わった。最大限の敬意を払って Masada メロディーを生かしつつ、きちんと(?)重力場を捻じ曲げるような自己主張をしている。もう一本のギターであるオカザキも、当初は邪魔(!)にも感じたが、メアリーをよく引き立てている。(なんだなんだ、結局メアリーしか聴いていないのかよ)。ところで、私の購入したCDには帯が2枚重なっていたが、これは仕様か、それともやはりミスか。

Fred Anderson Quartet / Live Volume Ⅳ

待望のクリス・ピッツィオコスのライブを平日に2日間観るために、いろいろ無理をして(ただでさえ年末に向けて忙しくなっている)仕事にしわ寄せが行き、おまけにライブレビューを書かねばならなかったので、ブログをすっかり放置してしまっていたが、とりあえず喫緊の懸案は片付いたので、これでようやく再開できる。なおレビューはそのうちどこかに載ると思うけれど、載ったら Sightsong さんのように当ブログでもお知らせする。


未聴アルバムが20枚以上溜まっていたが、まず再開一発目に選んだのは

f:id:joefree:20171005224125j:plain:w550
Fred Anderson Quartet / Live Volume Ⅳ
(Asian Improv Recoerds, 2016)
Fred Anderson(ts) Tim O'Dell(as, ss) Tetsu Aoki(b) Avreeayl Ra(ds)


これが、シカゴのアグレッシヴ老人フレッド・アンダーソンの最後のライブ録音である。彼の晩年のグループを支えた日本人ベーシスト、タツ青木のレーベルからリリースされている。アンダーソンが自ら経営していたヴェルヴェット・ラウンジでこの演奏が残されたのは、2010年3月19日。おそらくはアンダーソンの81歳のバースデーライブだったのであろう(彼の誕生日は3月22日)。しかしそれから3ヶ月後の6月24日に、彼は召されることになるのである。とはいえ、ここには死の予感めいたものは一切ない。たしかに往時に比べれば音は弱弱しくなったようだが、その瞬間その場における自らの内心に常に忠実であり続けるような、天衣無縫でワンアンドオンリーな『アンダーソン節』は健在であり、むしろ生の喜びに満ち満ちている。その事実が私の胸をいっぱいにするのだ。

gravity - gravity

最近偏愛しているドイツのギタリスト Hannes Buder の新作が届く。


gravity - gravity(2017)
Hannes Buder(cello, composition) Andrew Lafkas(b) Hannes Lingens(ds)


なんと今回はギターでなく、チェロを弾いている。しかもギターでのエクスペリメンタルなプレイとは打って変わって、抒情味豊かなしっとりしたチェンバージャズになっているから驚いてしまう。作曲の才もたいしたもので、これはうれしい、新たな一面を知れて良かった。今後も大いに期待している。


参考動画
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試聴
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