あうとわ~ど・ばうんど

Ton-Klami / Prophesy of Nue

NoBusiness Records のちゃぷちゃぶシリーズ新作が届く。

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Ton-Klami / Prophesy of Nue
NoBusiness Records, 2017)
高田みどり(marimba, perc) 姜泰煥(as) 佐藤允彦(p)


95年5月の演奏。トン・クラミというと、昨年16年ぶりに再結成して関東周辺をサーキットしたがそれは当然観ていなくて、メールスでの91年のライブ盤(「TON・KLAMI」)も昔持っていたはずなのだけれど今は見当たらない(どうやら手放してしまったようだ)。おかげで記憶としてはかなり薄っすら、となってしまったのが逆に良かったのか、力強くスリリングな即興にひき込まれた。私はどうしてもサックスを中心に耳を傾けがちになってしまうのだけれど、本作ではほかにも、佐藤さんのピアノの「そこに当然のようにある、あまりの自然さ」になぜかとても心をひかれた。「鵺の予言」というタイトルなのだが、実は佐藤さんがこの中で最も鵺的なのではあるまいか。ちなみに本作録音時の演奏は90分一本勝負だったそうで、アルバム化にあたり、佐藤さんが3トラック56分余に編集を施したとのことである(ライナーで、ちゃぷちゃぷオーナーの末冨氏が90分フルタイムで聴けるのは自分ひとりの特権と書いていて、いやあこういうのは、限定盤のダウンロード特典とかにしてほしいものだ)。


参考動画(録音時の演奏)
www.youtube.com

Trio Now! - Live At Nickelsdorfer Konfrontationen 23.07.2016

先日紹介したメテ・ラスムッセンにせよ、19日にライブを観た纐纈雅代さんにせよ、あるいはわれらが吉田野乃子さんにせよ、最近、所謂フリー~インプロ系女性サックス奏者(アルトが多い)が国内外問わず大挙して活躍し始めている。あるいは、正当なスポットライトが当たり始めた、というべきかもしれない。このアルバムも、女性アルト奏者が参加していたので何気なく聴いてみたら、惹き込まれた。

Live at Nickelsdorf Confrontatione

Live at Nickelsdorf Confrontatione

Tanja Feichtmair(as, vo) Uli Winter(cello) Fredi Pröll(ds)


3人とも初聴で名すら知らなかったが、サックスはオーストリア出身だそうで、端整な音で間歇矢継ぎ早に情熱的に即興を積み上げる演奏が魅力的。音楽は三位一体の密接な共闘が見事で、全員で徐々に熱くなっていく。観衆の大盛り上がりも気持ちがよく分かるというものだ。私が知らなかっただけで、グループとしては2枚目にあたるそうで、前作もぜひ聴いてみたいところ。


参考動画
www.youtube.com

Rasmussen / Dorji / Damon - To The Animal Kingdom

メテ・ラスムッセンの新作が届く。

To the Animal Kingdom

To the Animal Kingdom

Mette Rasmussen(as) Tashi Dorji(g) Tyler Damon(ds)


デンマーク出身のラスムッセンに、ブータン出身のギタリスト、米国出身のドラマー、というメンバーによる3曲45分。演奏は現代的なフリージャズ、というところだろうか。ギターとドラムはデュオグループを組んでいる相棒同士だそうで、息の合ったノイジーサウンドを発しているが、そこにラスムッセンが乗っかって、爽快な轟音の中から(ときに坂田明さんを思いださせる)抒情と官能があふれだすといった感じ。それにしてもラスムッセンのアルトは、極小音からおおきな音まで等しく朗々として、とにかく音が素晴らしいです。

Butcher / Edwards / Sanders - Last Dream of the Morning

Relative Pitch の残る一枚。

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Butcher / Edwards / Sanders - Last Dream of the Morning
Relative Pitch Records, 2017)
John Butcher(sax) John Edwards(b) Mark Sanders(ds)


ジョン・ブッチャーはいつ聴いても凄いけれど、聴く枚数を重ねるうちいつのまにか毎回驚くことは少なくなっていて、うむ今回も平常運転だな、などと確認して終わり、になりがちで困る。組み合わせの妙味ということになれば Sightsong さんの感想に同意するけれど、最近はブッチャー式ソプラノきりもみ奏法がどう展開されるか、が楽しみだったりする。

ところで最近、同じ編成のブッチャー作品(ドラムが何とウィーゼル・ウォルター)のさわりを聴いたら、そちらの印象のほうが勝ってしまった。現在は5曲中4曲が暫定ダウンロードできるだけなので、正式発売される9月7日以降に紹介する予定。


参考動画(意外にも3人だけの映像が見つからない)
www.youtube.com

Chico Hamilton & Eric Dolphy / Complete Studio Recordings

こんなCDが出ていたとは知らなかった。

COMPLETE STUDIO RECORD

COMPLETE STUDIO RECORD

Chico Hamilton(ds) Eric Dolphy(as, bcl, fl) etc.


エリック・ドルフィーのニューヨーク進出前夜、初めて一般的なパブリシティを獲得したチコ・ハミルトン・クインテット時代(1958~59年)の公式スタジオレコーディングを集成した約220分に及ぶ3枚組。2000年に発掘された「オリジナル・エリントン組曲」から始まり、「スリー・フェイセズ・オブ・チコ」「ウィズ・ストリングス・アタッチド」「That Hamilton Man」「ゴングス・イースト」の全5作品(録音順)に加え、最後にボーナストラックとして、有名な58年のニューポートにおけるライブの6曲が収録されているという至れり尽くせりぶりで、2千数百円とは安い。

ドルフィーのハミルトンクインテット時代を初めて通しで聴いてみたことになったが、巷間云われているようにはドルフィーがグループのサウンドに合っていないとは思われない。彼は地元では名の通ったセッションミュージシャンであったはずで、公の仕事と自分の嗜好をしっかり切り分け、彼に与えられた役割をそつなくこなしつつ、しかし自分の個性をしっかり紛れ込ませている。そしてそれはハミルトンも許していたにちがいないということであって(私はむしろ好んでいたのではないかと思っているのだが)、この時期はドルフィーの個性が確立していないだの何だの評論家めいた空論を述べる必要はなくて、サウンドに溶け込みつつ許される限りのトライをする、というのが当時の彼の仕事だった、ということだと思う。なおこの時期のクインテットは『ドルフィー映え』するようなオドロオドロしいムードの曲が多いような気がするが、それが後年のドルフィーの作曲にも影響を与えたと考えるのは的外れであろうか。


ちなみにハミルトン・クインテットにおけるドルフィーの後任はチャールス・ロイド(しかも初期はアルト)であって、ロイドが去った後には渡辺貞夫も去来することになるのが時代の妙である。

Magda Mayas & Jim Denley - Tempe Jazz

Relative Pitch を引き続き。

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Magda Mayas & Jim Denley - Tempe Jazz
Relative Pitch Records, 2017)
Magda Mayas(clavinet) Jim Denely(as, bfl)


ベルリン在住の鍵盤楽器奏者 Magda Mayas は楽器本来の音を全く出さず電子音なども駆使する即興音楽家で、John Butcher や Christine Abdelnour (Sehnaoui) といった特殊奏法を得意とするサックス奏者との共演が多い。オーストラリア出身の Jim Denley もそうしたマルチリード奏者の一人だそうで、すなわちこのデュオも、クラビネットとアルトサックス(とバスフルート)という組み合わせから想起される音はほとんどない。ではかなりシリアスなインプロデュオかと思いきや、不思議な情緒的ムードが支配していて、うっとり聴き惚れる。

Honsinger / Caloia / Zubot - In The Sea

再び Relative Pitch に戻る。

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Honsinger / Caloia / Zubot - In The Sea
Relative Pitch Records, 2017)
Tristan Honsinger(cello) Nicolas Caloia(b) Joshua Zubot(violin)


「In The Sea」というのがタイトルであるが、これは3人のグループ名でもあるようだ。だから一曲目は、海のない「Setagaya Ku」という曲から始まる。全体的にはクラシック風味の弦楽三重奏なのだけれど、ホンジンガーの音楽にありがちな(?)『節操のなさ』が良い味付けになっていて、中盤で登場する「Black Hill's in Dakotas, Hawai」という曲で聴けるのはハワイアンではなく、沖縄民謡ふうメロディーだったりするから面白い。


参考動画
www.youtube.com