あうとわ~ど・ばうんど

Stray - Into Darkness


Stray - Into Darkness (Iluso Records, 2017)
John Butcher (saxes) Dominic Lash (b) John Russell (elg) Ståle Liavik Solberg (ds, perc)


ジョン・ブッチャーの今年のアルバムといえば、ピーター・エヴァンスとの共演(3月15日)やら、ウィーゼル・ウォルターとの共演(10月9日)やら、鈴木昭男との共演(書いてない)やら、相変わらず面白い作品が目白押しだが、このジョン・ラッセルとの共演もメチャクチャ楽しいぞ。録音は2015年12月、3部構成50分余のアルバムで、ラッセルのエレクトリックギターが暴虐の限りを尽くしていることもあってか、ブッチャーも饒舌に声高にサックスを鳴らしまくっていて、ブッチャー作品としてはけっこう「激しい」部類になる。ミニマムな演奏よりも、やっぱりこういう彼のほうが好物なのだなあ。

Chris Pitsiokos and Ryoko Ono

小埜涼子さんの NEWDUO シリーズから、クリス・ピッツィオコスの日本ツアー時、名古屋でのデュオ音源が突然出た。


Chris Pitsiokos and Ryoko Ono
(NEWDUO series, 2017)
Chris Pitsiokos(as) 小埜涼子(as)


わずか2曲、合わせて7分足らずながら、恐ろしく情報量が多い。クリスの9月のツアーにおいて、ソロ以外ではこのデュオをベストに挙げた人もいたと記憶するが、なるほど気持ちは分からないでもない。そして、札幌以外でのクリスのセッションを耳にして感じるのは、やはりこのツアーで彼は各所で交歓的セッションに勤しんでいた、と言えそうなこと。となれば、ニューヨークのバンド仲間であった吉田野乃子さんとの再会セッションが実現しなかったのは、返す返すも何とも惜しいことである(まだ言っている)。

ところで、日本ツアー時に吉田達也氏が録ったというライブアルバムはいつ出るのか、それとも既に出ているのか?

トリオ深海ノ窓 / 目ヲ閉ジテ 見ル映画

先日の吉田野乃子ちゃんの30歳記念ライブ(感想はたぶんそのうちどこかに載る予定です)で購入。

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トリオ深海ノ窓 / 目ヲ閉ジテ 見ル映画
(野乃屋レコーズ, 2017)
吉田野乃子(as, ss) 富樫範子(p) トタニハジメ(fretless bass)


これは大変な傑作なのである。みんな聴くように!!

以上。


というのは2年前にもやったパターンであって、野乃子ちゃんに比べると相変わらず全く進歩がない。が、またしてもこういうしかないのも事実なのである。


彼女が今年組んだトリオは意外や、タイトルの通り「映画のサウンドトラックのような」ジャズを演奏するグループである。一部からは、なんだよ、フリーじゃないのかよ。という声も聞こえてきそうであるが、お題目に騙されてはいけない。収録されている全10曲のうち8曲は、ふだんはパップピアニストという富樫さんの作曲で、残る2曲が野乃子ちゃん(空ヲ知ル)とトタニ氏の曲。たしかに表向きは叙情というか詩情あふれる美メロ曲ばかりが演奏されているけれど、以前にも申し上げたように、これは魔導音楽なのであって、野乃子ちゃんの憂愁フレーズから切情的フリーアプローチに至るあたりはやはり昂奮必至で、6月に聴いたデモCD-Rからさらにフェーズが引き上げられた感じだ。


デモCD-Rでも感じたように、サックスの歌い上げっぷりの端々にやっぱり、彼女の渡米前の師匠の影を如実に感じてしまうわけだけれど、残念ながら渡米前の彼女の生演奏を聴いたことはないし、このグループのことを彼女と話したことはないので全くの想像(妄想)で言うしかないのだが、もし彼女が渡米後アヴァンギャルドシーンにのめり込むことがなかったとしても(そんな仮定は無意味であることは重々承知している)のちのちこういう音楽を演奏することにはなったのだろうと思う。しかしノイズ・アヴァンギャルドの経験を経たことが音楽を豊かにしている、のは間違いない。


彼女が一昨年末に帰国して、もうすぐ2年。故郷の岩見沢市(生まれたのは違う場所らしいが)を拠点に、同市が所在する空知総合振興局管内10市14町を巡るソロツアーを敢行したり、こうした映画音楽のようなジャズを演奏したり、エレクトリックマサダに想を得たエレクトリックバンドをスタートさせたり、もちろんノイズサックス奏者として道内のみならず、全国を飛び回っている。渡米前、渡米後、帰国後、その全ての経験をフル動員し、彼女はその活動を多方面に花開かせようとしている。


なお「Lotus」と同様に自主製作販売なので、購入希望者は
野乃屋レコーズ メール nonoko_yoshida@yahoo.co.jp まで。



参考動画
www.youtube.com
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The Liquid Trio - Plays Bernoulli

アグスティ・フェルナンデスの新譜を聴く。


The Liquid Trio - Plays Bernoulli
Fundacja Słuchaj, 2017)
Agustí Fernández(p) Albert Cirera(saxes) Ramon Prats(ds)


いずれもスペインのミュージシャンで、サックスとドラムはオーソドックスなジャズも演奏する人らしいが、グループとしては3枚目にあたるそうだ(前2作はCDRらしい)。ちなみにピアノとドラムが同じで、サックスがマッツ・グスタフソンというトリオのアルバムもあるので、興味がある人はこちらを参照してください。

それにつけてもフェルナンデスのピアノは、相変わらず素晴らしい。そういえば先日、のなか悟空氏が「自分は今までピアニストは3人しか共演していない。なぜかといえばピアノの表現力に負けてしまうからだ」みたいなことを(謙遜も含めて)語っていたのだが、そういう意味ではフェルナンデスのピアノの豊穣な響きも、共演者にとってはやはり脅威なのではあるまいかと邪推する次第である。

なおタイトルにある「ベルヌーイ」とは、たぶん音楽家の名ではなく、スイスの高名な数学者(の一族)のことであろうと思われる。wikipedia にはベルヌーイ数とかベルヌーイ試行とかベルヌーイ分布とかベルヌーイの不等式とかベルヌーイの定理とかベルヌーイ多項式とかベルヌーイの公式とか様々な語が載っていて、一応目を通してみたのだが、何が何やらさっぱり分からない。でも音楽には難解なところは一切ない、はずである。


参考動画(トリオの映像はないので、近いものを)
www.youtube.com

Tom Rainey Obbligato - Float Upstream

Tom Rainey Obbligato が4年ぶり2枚目の新作を出している。

Float Upstream

Float Upstream

Ralph Alessi(tp) Ingrid Laubrock(saxes) Kris Davis(p) Drew Gress(b) Tom Rainey(ds)


前作と同じスタンダード曲集(つまりは、そういうコンセプトのグループということだ)。録音は今年1月。前作ではエリントン、モンク、ブルーベックといった人たちの所謂ジャズマンオリジナルも取り上げていたが、今作でそれらしいのはサム・リヴァースの「ベアトリーチェ」のみで、ただしタイトル曲のコンポジションはグループ名義である。波間を皆で漂うような「星影のステラ」から始まって、各曲とも程好く解れたスタンダードジャズであり、この匙加減がなかなか絶妙だ。

のなか悟空 & 人間国宝 @ 札幌くう

f:id:joefree:20171106204733j:plain:w200:right本来は昨日書いておかなければならなかったことであるが、4日夜、札幌くうへライブを観に行った。

のなか悟空&人間国宝
のなか悟空(ds) 近藤直司(ts, bs) ヒゴヒロシ(elb)

軟弱ジャズは地獄に落ちろ』のコピーでおなじみ、のなか悟空 & 人間国宝の、なんと26年ぶりの札幌襲来だそうだ(すなわち前回は、私がまだジャズのライブに行くようになる前であり、というか、まだフリージャズの本当の魅力に開眼していない頃である)。

この夜、北海道内では平地でも所によって雪が降り、札幌市内も冬のような寒さであったが、くう店内に限っては熱気が充満した。のなかさんは黒縁の丸眼鏡をかけて叩き始めたのに、いつの間にか眼鏡をはずし、途中で諸肌脱ぎ、口を半開きにして、時折舌を出し、野生を解放しながら、ひたすらドラムをシバキ続けた(とは言っても、よく聴けば実はかなり繊細なドラムであることがよく分かる)。ヒゴさんの引き締まったベースも躍動し、そして個人的にはやはりなんといっても、近藤さんのその知的な風貌(というか、本業のことを考えると、本物の知性を持った人なのであるが)とは裏腹の、ひたすらに素晴らしい音圧と音色による咆哮(しかもただ吼えているだけでなく、底流にめちゃくちゃ強靭なビートが脈打ってるのも魅力なのである)がたまらんのだ。曲は「チチト」「Charade」「Dull」「McCoy」などおなじみの曲たちに加え、「ロンリー・ウーマン」「ラジオのように」も演奏された(さっきから括弧に入ってばかりで申し訳ないが、「My Favorite Things」は披露されなかった)。CDで聴くのと同じと言えば同じような演奏であるが、いやいや、やはり生で観る迫力はすばらしい。


f:id:joefree:20171106204818j:plain:w170:rightさて、ライブの物販で、人間国宝の5枚のアルバムの中で最も入手困難な「DUMP」が、CDRではあるが一枚だけ販売されていたのを発見して、開演前に即確保した。パソコンで焼いたとき特有の、バチバチッという雑音がときどき入るが、それを不問にさせるほどのエネルギーが、収録された音楽には詰まっているのだから、文句は言うまい。

Mars Williams Presents: An Ayler Xmas

出た出た出た。待望のマーズ・ウィリアムスの新譜は、何と何と何と、彼が率いるアルバート・アイラー・トリビュートバンド Witches & Devils の17年ぶりとなる新作。しかもしかもしかも、クリスマス・アルバムというのだから訳が分からない。


Mars Williams Presents: An Ayler Xmas
(Soul What Records, 2017)
Featuring WITCHES & DEVILS : Mars Williams(saxes, toy instruments) Josh Berman(cor) Fred Lonberg-holm(cello) Jim Baker(piano, arp synth, viola) Kent Kessler(b) Brian Sandstrom(b, g, tp) Steve Hunt(ds, perc)


昨年のクリスマス1週間前、グループの本拠地であるシカゴにおけるライブ。前作「At the Empty Bottle」のメンバーから惜しくもヴァンダーマークが抜け、ジョシュ・バーマンとブライアン・サンドストロムが加わっている(結果的に2サックス時代よりも、本来のアイラー・グループのサウンドに近い)。アイラーの「Truth Is Marching In」やら「Spirits」やら「Omega Is Alpha」といった曲たちを、クリスマスソングと組み合わせて演奏するという、暴挙というか壮挙というか愚挙というか義挙というか応挙というか快挙というか妄挙(そういえばほぼ同じくだりを昔書いたことがあるが、今回も関係ない熟語が混ざっている)のような作品であり、ジャケットのヒゲはサンタクロースではなく、明らかにアイラーのものである。クリスマスソングを祝祭的に演奏しているという側面もあって、アイラー曲とうまくつながっている(まあさすがに「ジングルベル」は落差を感じるけれど)のが素晴らしい。しかしこのアルバムのリリースを、クリスマスちょうど1か月前のアイラーの命日でなく、アイラーの命日の1か月前、キリスト教の祭事ではないハロウィンにぶつけてくるのがよく分からないところではある。