あうとわ~ど・ばうんど

吉田野乃子 塚原義弘 デュオライヴ & デモCD-R

19日、札幌ジェリコで、吉田野乃子&塚原義弘デュオのライブを観た。

単発セッションではなく、新たなユニットによる初ライブとのこと。しかしデビューを見届けた観客が、演奏者と同じ2人だったのは残念だ。このデュオは最近の野乃子ちゃんのプロジェクトの中で最もノイズ・インプロ成分が多く、かつ今後の展開に大いに期待できる内容だったからだ。

ライブはインプロで開幕し、Cubic Zero のレパートリーでもある「Moldy Coffee Lighter」、「Earth」「Wind」「Fire」の即興3部作、名曲の予感がする「ルークシュポール」、タブラの楽譜を使って互いにスキャットも交えた面白デュオ、北海道方言タイトルシリーズの「Osa-Sal」、1分間の超速ノイズインプロなど、幅広いタイプの音楽が披露された。

野乃子ちゃんはライブ終盤「ソロやグループと違って、デュオは仕事量が多くて大変」と思わず漏らしたが、終了後は「阿部・高柳デュオみたいな演奏もしたい!」という力強い宣言も飛び出す充実のライブだった。


で、物販にてデモCD-R「あずましくない」を購入。

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吉田野乃子 (as), 塚原義弘 (8-strings guitar)

「あずましくない」とは北海道の方言で、「心地よくない、落ち着かない」といった意味(「あずましい」という肯定形もあるが、否定形として使われることの方が多い)。つまりタイトルは「不快な音楽だぞ」という逆説的な主張だ。

収録された3曲の曲名も北海道にちなんでおり、①「ちょささる」も方言。「ちょす」は「いじる、さわる」という意味で、「~さる」は説明が難しいのだが「自分の意思とは無縁に、たまたまそうなる」といった意味合いの助動詞。例えば「触るな」と言われていた物を思わず触ってしまった子どもが、怒られた言い訳に「違うよ。後ろの人が押したから、ちょささったんだよ」などと使う(良い例ではないが、雰囲気は伝わると思う)。彼女には他に「うるかす」(水分を含ませる、水の入った容器に入れる)、ライブでも演奏された「押ささる」(分かりますね?)といったオリジナルもある。本演奏はノイズ成分が多い掛け合いが楽しい。

ライブでも披露された②「ルークシュポール」は外来語風だが、釧路地方の厚岸町に実在する地名(アイヌ語由来)で、一帯は針葉樹林の広がる原野である。Cubic Zero の「Flying Umishida」(2日参照)に収録された、後志地方の古平町にある哀しい伝説が残る巨岩をモチーフにした「セタカムイ」がそうであったように、この曲も抒情的ムードを湛えている。アルトサックスとギターが互いにディレーエフェクターを効果的に用いつつ、釧路地方特有の濃い海霧の中を一筋の光が貫いていくような、新天地を拓こうと入植した開拓民の悲喜に思いをはせるような、優しくも力強いアルトサックスの音に魅せられる。

③「あげいも」は、ジャガイモにホットケーキミックスや小麦粉・卵・ベーキングパウダー・砂糖・牛乳・水などを混ぜた物を衣として油で揚げた北海道のご当地料理である(実は私は知らなかったのだが)。演奏にそういったものを想起させる要素はないが、歪んだ音たちがあずましい。

しかしこのデモCD-Rはいわば予告編。デュオの本領はライブにある。と断言してしまおう。今後の発展を震えて待ちたい。


購入希望者はいつものように
野乃屋レコーズ nonoko_yoshida@yahoo.co.jp