あうとわ~ど・ばうんど

Jason Moran - BANGS

北澤さんのツイートを見て仰天、これはノーマークだった。デジタルで20ドル(以上)とやや高額だが、迷わず注文。


Jason Moran - BANGS
(Yes Records, 2017)
Jason Moran(p) Mary Halvorson(g) Ron Miles(cor)


ジャケットには「REWIND」としか記されてないが、タイトルは本当にこれでいいのか?という疑問は置くとして。一昨年の8月、ベルギーはアントワープのジャズ祭にジェイソン・モラン、メアリー・ハルヴァーソン、ロン・マイルズのトリオが出演した、という情報に接したとき、まあなんと不思議なメンバーだろう、と思ったものだったが、Mary Halvorson Sessionography によれば、なんと今を遡ること10年前の2007年、 NY の The Stone のレジデンシーがこのトリオの初披露で、その後2010年の NY のジャズ祭でも共演していたと知って驚いた(ちなみにメアリーとモランの共演は、トリオ以外にも数度あるもよう)。アントワープの映像は末尾にプレイヤーを貼り付けるがこちらで観られる(メアリーの左肩に見惚れてしまう←馬鹿)。これはアルバム化されないものだろうかと思っていただけに、うれしいサプライズである。しかしライブの音源化でなく、スタジオであらためてレコーディング(bandcamp のクレジットは2017年になっているが、おそらく昨年だろう)されたものだった。


ジェイソン・モランは、現ブルーノート・レーベルにおける一連のリーダー作や参加作、チャールズ・ロイド・カルテットでの重用で、一般的には現代ジャズの泰斗と認知されているだろうが、いっけんはオーソドックスに見えてストライドからフリージャズまで自在に弾きこなした師匠ジャッキー・バイアードの衣鉢を継いでいるということなのか、共演者が主流派からフリー系まで幅広く、RCA 時代のスティーヴ・コールマン・ファイヴ・エレメンツに参加してたり(「Sonic Language of Myth」そういえばこのアルバムではヴィジェイ・アイヤーと席を分け合っている)、2000年前後のグレッグ・オズビー・グループのレギュラーだったり、エリック・レヴィスの「11:11」でヴァンダーマークと共演したり(「Parallax」)、オリヴァー・レイクらの Trio 3 にゲストとして迎えられたり(「Refraction - Breakin' Glass」)、ファッツ・ウォーラーをテーマにしたリーダー作でスティーヴ・リーマンをメンバーに迎えたり(「All Rise: a Joyful Elegy for F」)、ヘンリー・スレッギルの最新作に迎えられたり(「Old Locks & Irregular」)、スガダイローさんと日本ツアーを行ったり(「BOYCOTT RHYTHM MACHINE WORLDWIDE VERSUS I [DVD]」)している。


本作の全10曲はおそらく彼の作曲と思うが、フリーな展開もありながら全体的には抒情性が前面に出ている。メアリーも『らしさ』は随所に見せつつ、どこか『よそいき』な感じはするけれど、そういうふだんとは違った表情にまたしても惚れ直してしまう(←馬鹿)。音楽のムードには、ビル・フリゼールとの共演が多い燻し銀トランぺッター、ロン・マイルズの存在も大きいに違いなくて、姓と名の違いはあるけれど同じ名前の先人の Prestige 時代のバラード表現なんかも時折思い出す。そして、意外とよく耳にしているくせにちゃんと聴いてこなかったせいで知性的なピアノを弾く人ぐらいの印象しかなく、個性もよく分からないと思っていたモランの魅力(の一端)にもようやく気付けたのだった。めでたしめでたし。


参考動画(15年8月のライブ。うまく表示・再生されない場合、上のリンクから該当ページに移動してください)