あうとわ~ど・ばうんど

菊地雅章 + 富樫雅彦 / ポエジー

今年の七夕に亡くなった菊地雅章の70年代、フィリップス時代の8作品が再発されている。未聴だった何枚かを購入したが、その中で最も印象に残ったのはこれ。

ポエジー

ポエジー

菊地雅章(p) 富樫雅彦(ds, per, glocken, marimba, gongs) Gary Peacock(b)


基本は菊地・富樫デュオで、全8曲中3曲でゲイリー・ピーコックが加わる。デュオはフリー風味も加味し、菊地ならではのリリックと富樫の繊細さがマッチした演奏が主体だが、実のところトリオの方が面白いと思った。ピーコックにつられるように、富樫のシンバル(とタム)が繰り出すビート感が素晴らしい。

アルバムの録音は71年6~7月というから、富樫が下半身の自由を失った1年半後である。いわゆるジャズ正史では、富樫は下半身不随になった後、独自のドラムセットを考案しフリージャズに邁進していった。ことになっているのだが、おそらくことはそんなに単純ではないのだろう。

ここで叩いているのは、おそらく通常のドラムセットではないかと思う。たぶん独自のドラムセット云々というのは、73年の佐藤允彦との「双晶」以降のことであって、それまでの間、従来のようにフリーだけではないジャズ全般を演奏できるようにするため、いろいろな試行錯誤があり、このアルバムにはその過程の一つが記録されているのではあるまいか。

「スイングした時の富樫は魔物」と言ったのが山下洋輔だったか平岡正明だったかは忘れたが、ここにはその「魔物」のプライドと確かな片鱗が記録されているように思う。(あれれ。なぜか富樫雅彦が主役の記事になってしまった・・)