あうとわ~ど・ばうんど

Henry Threadgill Zooid - In for a Penny, In for a Pound

In for a Penny, in for a Pound

In for a Penny, in for a Pound

Henry Threadgill(as, fl, bass-fl) Jose Davilla(tb, tuba) Liberty Ellman(g) Christopher Hoffman(violincello) Elliot Humberto Kavee(ds, per)


ヘンリー・スレッギル ZOOID の待望の新譜。ということで事前情報も大して確認せず、届いてからジャケも読まず、とりあえずCDを再生してみて、音楽の変貌ぶりに驚き、これはどういうことだろうと考えてみたものの、周辺情報を確認して疑問は氷解、これは「音楽劇」のようなコンセプトアルバムであった。(ただし、やっぱり「音楽の変化」はあると思う。あとで述べる)


上演プログラムを見てみよう。こんな感じだ。

Disc 1
01 In for a Penny, In for a Pound (opening) 4:36
02 Ceroepic (for drums and percussion) 19:38
03 Dosepic (for cello) 16:00

Disc 2
01 Off the Prompt Box (Exordium) 3:36
02 Tresepic (for trombone and tuba) 17:26
03 Unoepic (for guitar) 17:57


劇は大きく2部構成。1部でオープニングの短い曲が披露された後、ドラムを主役とした「0番目の叙事詩」と、チェロが主役の「2番目の叙事詩」が演じられる。ただし、「主役」は大々的にフィーチャーされるわけではない、このあたりどういう方法論が用いられているのかよく分からないが、「主役」に焦点が当てられるように皆が意識して演奏を進行しているのではないかと思われる。

2部も短い導入曲(プロンプターの席をなくす、とは意味深な曲名だ)の後、トロンボーン・チューバが主役の「3番目の叙事詩」、ギターが主役の「1番目の叙事詩」が演じられる。なお、各叙事詩と楽器の組み合わせは不変でなく、公演ごとに変わるらしいことに注意が必要である(こちら参照)。

それぞれの「叙事詩」は、一つながりの曲でなく、いくつかのパートに分かれ、場面転換のように次々と移り変わっていく。クインテットのサウンドは、前作メンバーから武石務のベースギターが抜けたことによって、全体を通じ低音アンサンブルの稠密性がいくぶんか緩くなり、重心も低くなったようである。だが、音楽の変化というのはこれではない。

重大な変化は、スレッギルの存在感である。読んできてお分かりのように、スレッギルは各劇の主役ではない。実は、影の主役として君臨していた、ということでもない。むろん、コンポジションとコンセプトはスレッギルのものなので、演奏していなくても、音楽全体に「スレッギルっぽさ」は濃密に感じ取れる。しかし、これまでのアルバムで見せたような、スレッギルのアルトやフルートが登場するやサウンドの官能が一段階引き上げられる、という感覚が希薄なのだ。

これが何を意味しているのか。次作はどういうことになるのか。今から楽しみでもあるし、少々不安でもあったりする。