あうとわ~ど・ばうんど

blacksheep 2D / ここがソノラマなら、きみはコバルト

年末棚卸し、その4。


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blacksheep 2D / ここがソノラマなら、きみはコバルト
VELVETSUN PRODUCTS, 2014)


blacksheep 2D 名義の初作品は、SFジュブナイル風同人誌付きのカセットブック。うーむ、なんとも細部にこだわった、朝日ソノラマ文庫(と集英社コバルト文庫)オマージュっぷりである。

カセットブックという在り方も80年代っぽく、吉田隆一氏(1971年生まれ)と大谷能生氏(1972年生まれ)も、やはり80年代(つまり小中高と少年時代を駆け抜けながら)、朝日ソノラマ文庫(と集英社コバルト文庫)を手に取ったのだろうか、と想像する。その2人とほぼ同年代(1973年生まれ)の私も、たしかに一度通った道だった。ソノラマ文庫コバルト文庫のSFモノは(今で言えばライトノベルSFというべきだろうか)、小学生あたりがいきなりハヤカワや創元やサンリオに向かうにはハードルが高いものの、本格SFのステップにするにはちょうどよいシリーズだったと記憶する。

そういえば、この両シリーズはSFアニメのノベライズも非常に多かった。それで思い出したが、本の収録作の中で酉島伝法氏が書いていたことに近いけれど、私の地元も映画館の無い田舎で、観たいと思った映画は気づいた時には既に終わっているか、そもそも上映中に気づいたとしても、バスないし列車で最も近い都会へ行き、さらに映画料金を払うのは当時の私にはハードルが高かったのだ。そこでノベライズを読み、テレビの予告編や学年誌で得たデザインやキャストの知識を総動員しながら、頭の中で絵を動かしていたのだったっけ(ノベライズはそれぞれの著者によって脚色されていることが多く、後に本物を観た時は驚くことも多かったが)。もっとも、両シリーズを経由してハヤカワに向かった私は結局、本格的なSF者になることはなかったのだけれど・・・と、作品とは関係ない思い出話を語ってしまったが、おそらく、この本を読んでいると、その人その人の記憶の引き出しが開くと思う。

カセットのほうも面白い。特に秀逸なのは田中啓文さんのアカペラによる「チュニジアの夜」(歌詞付き)で、気づくと脳内で「それはチュニジアの~よる~♪」と繰り返すようになってしまう。また、主にアラブの砂漠における愛と夢を歌っていると思しき歌詞の中で突然、現在の国際情勢の中で大きな懸念となっているアラブ世界の国々の名が連呼される箇所がある。チュニジアジャスミン革命によって「アラブの春」の起点となった国であり、一見ロマンチックに見えるこの歌詞の世界も、政情不安や強権独裁あるいは一発の銃弾によって打ち砕かれかねない危うさの上に成り立っていたことに気づかされる仕掛けがなされており、それが意図的かどうかはともかく、素晴らしい名曲なのである。


ところで、ショップページにあった解説が付いてないのだが、もしかして封筒に入りっぱなしになってたのを気づかずに捨ててしまったのだろうか?謎である。追記→吉田氏のご教示で本とカセットをまとめてたオビがそれと知った。お恥ずかしい・・