あうとわ~ど・ばうんど

(Duck)


今年最後のCD紹介であります。
(Duck)/Buffalo Collision」(screwgun)。3曲68分。Ethan Iverson(p) Hank Roberts(cello) Dave King(ds) Tim Berne(sax)
そもそも、昨年にダウンロード販売のみでリリースされ、今年に入ってからプレスCD化されたにもかかわらず長いこと国内入荷しなかったが、今年も終わろうかという頃になってようやくディスクユニオンに入荷したというので取り寄せた次第(余談だが、diskunion.net では現在、送料無料キャンペーンをやっている。こちら参照)。
ティム・バーンの音楽というものは、これまでにも何度も触れてきたもの、その魅力を説明するのがとても難しい。聴いているととても面白くめちゃくちゃ興奮するのだけれど、聴き終えて、何がそんなに面白いのか何にそんなに興奮したのか実はよく分からない。そればかりか、思い起こしてみると、演奏の瞬間ごとの連れ去られるような感覚は思い出せるが、さて曲全体はどうなっていたか殆ど把握できてないことに愕然とする。と、書いてきて、先月読んだ本の一節を思い出した。

『菅野満子の手紙』はまだしも、この作品に至って、いかにスバラシイかをお話しすることができないのです。ぼくは『菅野満子の手紙』もこの『寓話』もあらためて読んではきたのですが、もうすっかり忘れてしまって、前にも言ったかもしれないが、『燕京大学部隊』などとは違って、どう終っていたか、最初はどういうふうに始まったか、途中はどんなことが書いてあったか、皆さんにいうことは出来ない。忘れてしまっている。
全くワスレテしまっている!
これはぼくが無責任だとか、記憶がトンデモなく悪いニンゲンだと思う人があるかもしれないが、いくらなんでも、昨日眼を通したばかりなのですよ。

   (小島信夫残光 (新潮文庫)』128-129頁)

これは読書における体験(上記引用は、小島信夫の小説の中で、保坂和志が話した(とされる)内容である)だが、同様のことは音楽聴取体験においても起こりうる。自分にとってはティム・バーンの音楽がそうだし、最近ではヴィジェイ・アイヤーのトリオもそうであったし、あるいは最近妙によく聴いているアンドリュー・ヒルもやはりそうで、こういう体験を味わわせてくれる音楽家はやはり信用していいと思うのだ。