あうとわ~ど・ばうんど

Black Hope

普段、メインストリーム系のジャズ(メインストリームって何だ?と訊かれても困るが、当ブログの賢明な読者の方々なら分かりますよね? 広告を出してくれる大手レコード会社やサンプル盤を送ってくれたアルバムのレビューしかせず、ジャズの新しい動きを自ら見つけようとしないジャズ専門誌(って名乗るのはおこがましいと思わない?)が主力として大々的に取りあげるジャズ全般のことです。たぶん)はほとんど聴かないのだが、なぜかKenny Garrettだけは結構聴く。
自分がアルトサックスを初めて手にした1992年当時、ギャレットはアルト界のニュースターだった。初代OTB(懐かしい!)やジャズメッセンジャーズ、マイルス・バンド参加という華やかな経歴、マルサリス兄弟に継ぐ次世代の実力派として、注目を集めていた。フリージャズに片足突っ込んでいたとはいえ、もう片っ方ではメインストリーム系の動きにも目を凝らしていた自分には憧れのミュージシャンだった。そういえば、そのころ、衛星放送でブルーノート東京での来日公演を見たのを思い出した。ピアノは当時ほとんど無名だった大西順子が弾いていた。どんな曲をやっていたか忘れたが、「Left Alone」だけ覚えている(その後、ビデオ化されたはず)。
今は正直言って、嫌いではないけれども…という感じなのだが、不思議なことに、新作が出るたび習慣のように買い続けている。気がつくと、リーダー作を10枚以上持っていたりする(クリス・クロスの初リーダー作「Introducing Kenny Garrett」(音悪すぎっ!)やブート・ライヴ「Stars & Stripes」(音悪すぎっ!おまけに曲表記があきれるくらいイイカゲン!)まで持ってる)。理由を考えてみる。ギャレットの魅力は、あくまで独断で言わせてもらうと、もしかすると構成のことなんか何も考えていないんじゃないかと思わせるぐらい、演奏しているうちに気分が盛り上がってどうでもよくなって同じフレーズの繰り返しと変奏で昇り詰めてゆき最後は結局崩壊というか破綻してしまっているにもかかわらず勢い一発で押し切ってしまうところにあると思う。(そうやって考えると、ジャズ研時代の自分に多大な影響を与えたのかもしれない)。ちなみに、マイルス・バンド時代の「Human Nature」でのギャレットの壮絶ブロウも大好きだ。
ギャレットの代表作といえば、やっぱり「Triology」ということになるのだろうか。もちろんそれが代表作であることに異存はないのだが、個人的には「Black Hope」(92年)が好きだ。メジャー移籍第1弾ということで、いろいろ考えたのだろう。3曲でジョー・ヘンをゲストに招き、マイルスバンドの仲間であるリッキー・ウェルマンを加えたフュージョン風の曲を盛り込み、最後はアルトサックスソロで締める。アルバム全体としてはいろいろぶち込んでとっちらかり、まとまりのない感は否めないが、当時の勢いだけは今聴いても確実に伝わってくる。好きな曲は「Jackie & The Bean Stalk」(ジャッキー・マクリーンと「ジャックと豆の木」を掛け合わせた駄洒落? ギャレットにはこういうセンスの曲名が多い)。崩壊するギャレットの魅力が満載の曲である。