あうとわ~ど・ばうんど

Gauci ​/ ​Ewen ​/ ​Lane ​/ ​Shea - Live at the Bushwick Series

ニューヨークの中堅テナーサックス奏者、ステファン・ガウチが自主レーベルを立ち上げ、自作を含む3作品をリリースした。うちの一枚。


Gauci ​/ ​Ewen ​/ ​Lane ​/ ​Shea - Live at the Bushwick Series
gaucimusic, 2019)
Stephen Gauci (ts), Sandy Ewen (g, electronics), Adam Lane (b), Kevin Shea (ds)


ガウチバイオグラフィーに目を通すと、子どものころに聴覚障害だか難聴だかだったそうで、それが彼のテナーサックスのトーンに影響しているとのことだが、たしかに、ひしゃげた管から無理矢理絞り出すような、密度濃く、独特な、いい音である。サンディー・ユエンは座って膝に置いたギターから金属ノイズ音をまき散らし、先ごろタリバム!で来日したケヴィン・シェイのドラムはリズムと言うよりパルスの波を叩き出し、アダム・レーンはひたすら速足で駆け抜けるようにベースを掻き毟り、皆、デコボコした山道の障害物をせわしなく飛び越えたり時折なぎ倒していくような演奏で、しかしやはりガウチのコク深いテナーサックスの音に常に耳奪われる。

なおレーベルの他作品には、ベテランピアニスト、クーパー・ムーアとガウチのインプロデュオ作品「Studio Sessions Vol. 1」も出ており、こちらも滋味深い。もう一枚にガウチは不参加だが、クリス・ウェルカム(g), カーク・ナフケ(cor), ジェイミー・ブランチ(tp), サム・ワインバーグ(ts), ベン・ガースタイン(tb), マイク・プライド(ds) といった猛者たちが名を連ねたオクテットである。

Casino di terra / Cosa potrebbe accadere

イタリアのテナーサックス奏者 Edoardo Marraffa 参加の新作が出ている。

Casino di terra / Cosa potrebbe accadere
Aut Records, 2019)
Edoardo Marraffa (ts, sopranino sax, compositions), Sergio Papaianni (elb), Gaetano di Giacinto (ds), featuring: Fabrizio Puglisi (arp odyssey), Valeria Sturba (electric violin), Stefano De Bonis (fender rodhes)


どうやらグループとしては2作品目らしく、前作は未聴である。昔ながらのフリージャズを現代的感性で演奏する、というイメージの強いマラッファだが、このグループで聴かれるのは『フュージョンサウンドであって(中には「ススト」における「ガンボ」を思い出させるような曲もある)、エレベとドラムとのトリオを基本に、曲によってエレクトリック楽器が加わる。とはいえ、やはりマラッファ、表面上はともあれ、彼自身のプレイを追っていくと、いつもとほとんど変わらない、硬派で一本気なサックスプレイなのである。


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Sam Ospovat / Ride Angels

毎月頭の誓いはどこへやら、今月も気づけば月末となり果てていた。


Sam Ospovat / Ride Angels
skirl records, 2019)
Sam Ospovat (ds, electronics, compostions), Kim Cass (b), Matt Mitchell (p), w/ Brandon Seabrook (g), Nick Lyons (as), Lorin Benedict (scat vocal)


ネブラスカ州出身、現在はブルックリンを拠点に活動するドラマー / 作曲家サム・オスポヴァト(と読むのか?)の、たぶん初リーダー作。アルバムタイトルはグループ名であるらしく、マット・ミッチェル、キム・カスとのトリオに、曲によってゲストとしてブランドン・シーブルック、ニック・ライオンズ、ロリン・ベネディクトが加わる。シーブルックの凶暴なエレクトリックノイズギター、スティーヴ・リーマンやティム・バーンを思わせるライオンズの異物的アルトサックス(トリスターノ門下生らしい)、テオ・ブレックマンのようなベネディクトのベルベットヴォイス(つまりは私の琴線に触れる)も当然良いのだが、トリオの演奏にこそアルバムの肝があると感じる。作品は『数年にわたる実験と開発の集大成』だそうで、どの曲も一筋縄でいかなそうなリズム構造と即興演奏が結びついており、マット・ミッチェルの存在感がスペシャルなのは当然としても、今まであまり注目してこなかったキム・カスの速くしなやかなベースにも惹きつけられた。

Weeks / Corder / Namay / Harris - Fractal Selves

以前に聴いて好印象だったサンフランシスコ・ベイエリアのアルトサックス奏者トム・ウィークスの参加作を聴く。


Weeks / Corder / Namay / Harris - Fractal Selves
Amalgam, 2019)
Tom Weeks (as), Nathan Corder (electronics), Eli Namay (upright & electric bass), Bill Harris (ds, perc, duct tape)


ベイエリアの2人(ウィークス、コーダー)がシカゴを訪れ、当地の2人(ナメイ、ハリス)と共演した小品セッション集。冒頭から結末まで所々に挟まれるナレーションは、米国の哲学者リック・ロデリックの講演の抜粋とのことで、これはシカゴの2人のほうの趣味のようだ。目当てのウィークスのプレイはアヴァンギャルドながら、ジャズの基盤がしっかりしていることもよく分かる。

Gayle Barcella Cabras / The Alto Sessions

チャールズ・ゲイルの新作が出ている。

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Gayle Barcella Cabras / The Alto Sessions
el NEGOCITO Records, 2019)
Charles Gayle (as, p), Giovani Barcella (selected drums & cymbals), Manolo Cabras (b)


前作(17年5月12日参照)と同じレーベル、同じトリオによる2017年10月、ベルギーにおけるライブ。ゲイルもついに傘寿(録音時は78歳)を迎え、もう体力的にテナーを吹くのはつらいのか、アルトも往時に比べるとさすがに弱く、咆哮は短め、サックスから離れる時間も増えてはいるものの、ひとたびマウスピースに息を吹き込めば、まるで摩擦熱で空気を焦がすような魂の底に届いてくる音で、もうそれだけで胸がいっぱいになってしまうのだ。

アンソニー・ブラクストン勉強会&ライブ

3月9~10日に開催された『アンソニー・ブラクストン勉強会&ライブ』のレビューを、JazzTokyo誌最新号#252 に寄稿しました(レビューとは名ばかりの、ただの観察記録でしかないような気もしますが…)。また、齊藤聡さんのクロスレビューも補完になっていますので、併せてお読みいただければ幸いです。そちらの後半の坪口昌恭さんへのインタビューでは、わたしも質問に参加しています。

jazztokyo.org

Dustin Laurenzi / Snaketime: The Music of Moondog

このアルバムが、凄く琴線に触れるのである。


Dustin Laurenzi / Snaketime: The Music of Moondog
Astral Spirits, 2019)
Chad McCullough (tp), Nick Mazzarella (as), Dustin Laurenzi (ts), Jason Stein (bcl), Dave Miller (g), Matt Ulery (b), Quin Kirchner (ds, perc), Ryan Packard (ds, perc)


リーダー以下、シカゴを拠点に活動するミュージシャンたちによるオクテット。アルバムのテーマはタイトル通り、ムーンドッグ(当ブログに頻繁に登場するムーンドックとは関係ない)の音楽。どこかラテン的哀愁を感じ取れもするけれど、無国籍のような多国籍のような、不思議な民族音楽のような曲たちをシカゴの手練れたちが料理しているのだが、わたしの心を捕らえて離さないのが2曲目〈Lament 1 (Bird's Lament)〉だ。何はともあれ、この曲でのニック・マッツァレラの愁いを帯びた、ほぼ完璧なアルトサックスソロ(フリーではない)を聴いてほしい。いわゆる中央線界隈のジャズが好きな日本人の心にも響く“湿り気”であるはずだ。なんとなく早坂紗知の某アルバムも思い出したり。


参考動画
www.youtube.com