あうとわ~ど・ばうんど

Tim Hill / but my mouth was full of stones and shadows

これもやはりサックスソロアルバム。


Tim Hill / but my mouth was full of stones and shadows
Brazen Head Recordings, 2018)
Tim Hill (alto, sopranino & baritone saxophones)


アレックス・ワードとの共演で知られる英国のサックス奏者によるソロ作品。使用しているアルト、ソブラニーノ、バリトンの各サックスはいずれもキーが同じであるが、楽器が違えどやってることは同じ、にはならない。先夜紹介したティム・ウィークスの『なしくずしの死』とは違って、超バカテクを披露するわけではないのだけれど、それぞれのサックスの特性を生かした端整なインプロヴィゼーションの一曲一曲が楽しい。

Tom Weeks / Mort à crédit: Alto Saxophone Solos 2017

ここ数週間、何を聴いても耳を素通りするばかりだった(理由は自分なりに分かっている)が、久しぶりに心をとらえたのがアルトサックスの無伴奏ソロだったという事実は、わたしの或る一側面を表しているのかもしれない。


Tom Weeks / Mort à crédit: Alto Saxophone Solos 2017
(Wolfsblood Records, 2018)
Tom Weeks (as)


トム・ウィークスは、米国サンフランシスコ・ベイエリアの作曲家、即興演奏家、サックス奏者。バークリー音大でジャズ作曲の学士号を取った後、ミルズ大で作曲の修士号を得たといい、ロスコー・ミッチェルやフレッド・フリス、ジーナ・パーキンスなどに学んだ(と、バイオグラフィーには書いてある)。

アルバムは全12曲。引き攣るような高音やら、多彩な異化音やら、腿を使って音をミュートさせる手法やら、マウスピースで遊ぶ芸やら、ジョン・ゾーンマサダ系フレーズを吹くときのような感覚を覚える個所も多々あって、確実に影響を受けているだろうと思われるのだが、多様多種の拡張テクニックを駆使しつつも、どこまでも瑞々しく美しい音そのものが、わたしの耳をつかまえて離さない。

なお、既にお気づきの方もいると思うが、タイトルの『Mort à crédit』とは、フランスの小説家ルイ・フェルディナン・セリーヌの『なしくずしの死』、すなわち阿部薫の有名アルバムと同じであり、それが念頭に置かれてるのは間違いない、と確信させる演奏でもある。今後、当ブログでは彼のことも推していこうと思う。


参考動画
www.youtube.com
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1月19~25日のプレイリスト

以下のうち1枚について、2月3日更新予定の JazzTokyo #250 にレビューを寄稿しています。採用されるかどうかはわかりませんが。

yasumune morishige / ruten

id:yorosz (@yorosz)さんのツイートで、Leo Okagawa (@prtcll)さんの記事「30 Music of 2018」を知り、眺めてみたところ、森重靖宗のアルバムがあったので興味ひかれ、CDという選択肢も当然あったものの、bandcamp を見つけたので手っ取り早くデジタルを購入した。


yasumune morishige / ruten(2017)
森重靖宗 (cello)


昨年6月、東京出張の折に、その前月に刊行された『別冊ele-king カマシ・ワシントン / UKジャズの逆襲 (ele-king books)』(5月30日参照)の「NYジャズ人脈図」「NYジャズ・ディスク・ガイド30枚」に携わったメンバー4人で集まり、 Ftarri で〈森重靖宗+徳永将豪〉を観た。事前には生で初めて観る徳永氏のアルトサックスに興味津々だったのだが、終了後にわたしの印象に深く刻み込まれたたのは、荒行をものともしない修行僧のような風貌で圧倒的なチェロ演奏を披露した森重氏のほうであった。(なおその時の齊藤氏と細田氏の感想を参考に置いておく)

blog.goo.ne.jp


本作は、ライブでも披露されたようなソロ演奏。冒頭で時空を静かに揺らしたかと思えば、以降はモーターが駆動するような音、吹いてはぶつかり渦巻く風を思わせる音、空間を裂く鋭い音、周囲の空気を蠕動し攪拌する種々の共鳴振動、あるいはチェロ本来の玄妙な響きまで、エフェクトやオブジェクトの類いは一切なしに、弓と指のみで拡張的奏法を数々用いて多彩な音を放出し、まさにタイトル通りの生々流転する音たちに酔う。

The Noise Eating Monsters / ROARING

「ノイズ喰らいの怪物たち」は昨年、3作品のデジタルアルバムをリリースしている。本作は3作目。(前作は10月2日、前々作は1月9日2月1日参照)


The Noise Eating Monsters / ROARING
MuteAnt Sound, 2018)
Alex Ward (g), Alex Thomas (ds), Tim Hill (bs)


前作は前々作と同じ曲が1曲(Crunch Space)演奏されていたが、本作も前作と同じ1曲(Mashed)が演奏されている(前々作とのダブりは無い)。基本路線は前2作と同様で、エクスペリメンタルロックやらフリージャズやらファンク的要素やらを取り込んだ雑食性即興が、相変わらずかっこいい。とくにアレックス・ワードの心地よいファズギターと、ティム・ヒルの低音が生きるバリトンサックスは本当に大好物なのだ。