あうとわ~ど・ばうんど

Beppe Scardino / BS10 LIVE IN PISA

イタリアのバリトンサックス&バスクラリネット奏者 Beppe Scardino 率いる10人編成グループ「BS10」の新作を聴く。PBB が参加している。

BS10 Live in Pisa

BS10 Live in Pisa

Auand Records, 2018)
Beppe Scardino (bs, bcl), Dan Kinzelman (ts, bcl), Piero Bittolo Bon (as, bcl), Mirko Cisilino (tp), Mirco Rubegni (tp), Glauco Benedetti (tuba), Gabrio Baldacci (g), Simone Graziano (rhodes, synth), Gabriele Evangelista (b), Daniele Paoletti (ds, electronics)


編成は木管3、金管3のバランス良い6管に、ギター、フェンダーローズ/シンセ、ベース、ドラム。米国の同種ラージグループがそうであるようなコンテンポラリーサウンドで、一部ではLMOや渋オケあたりのアンサンブルも思い出させる。最終曲の一部(Giant Steps)を除いてリーダーがコンポジションを担当しており、いずれの曲も彼が主導権を取りつつ、だれか(複数)がフィーチャーされる構成。PBBはしばらくアンサンブルの一員に専念しているのだが、最終曲の一つ手前、6曲目でようやく彼のアルトサックスソロが現れる。期待していたブチ切れではないものの、曲にしっかり奉仕したさすがの演奏である。


参考動画
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David S. Ware Trio / The Balance (Vision Festival XV +)

デヴィッド・S・ウェアのアーカイブ音源シリーズ、第4弾が届いた。


David S. Ware Trio / The Balance (Vision Festival Xv +)
AUM Fidelity, 2018)
David S. Ware (ts, saxello), William Parker (b), Warren Smith (ds)


2009年10月、大病から復帰したウェアはまずソロで復活の狼煙を上げると、12月にはウィリアム・パーカー、ウォーレン・スミスとのトリオを率いてサックス演奏生活50周年を記念して「ONECEPT」を吹き込み、翌年まで活動した。その終盤である10月のライブを記録したのが、昨年リリースされた「Live in New York, 2010」だ。本作はその2枚の中間の時期、10年6月27日の Vision Festival XV におけるライブ録音(「Vision Suite 2010」と題され、便宜上Part 1~3に分割されたひと続きの演奏)と、「Onecept」の別テイクではない完全未発表4曲で構成されている。

(ちなみに「Live in Sant'anna Arresi 2004」に記載されていたリリース予定では、第4弾は休養前に率いていたジョー・モリスらとのニューカルテットによる2008年5月のフランスライブのはずだが、予定が変わったのだろうか? なおライナーノートによれば、次回リリースは彼の生誕70周年にあたる来年11月だそうだが、タイトルや内容は書かれていない)


本アルバムはなんといっても、「Vision Suite 2010 Part 1」冒頭のウェアに注目してほしい。テナーサックスによる2分弱の無伴奏ソロの後、パーカーとスミスが加わって繰り出される(正確に言うとその直前から始まっているが)ウェアのひたすら吹き伸ばされる音の凄みに圧倒される。ジャケット(「Live in New York」の色違い)は、まさにこの瞬間のウェアを表現しているように思われる。ウェアは療養前の魂を滾らせるような咆哮とはまた異なった、はだかの魂を差し出すような生々しい音で、約40分のステージを走り抜ける。後半4曲は、アルバムに収録されなかったのが不思議な(2枚組でも良かったんじゃないかと思う)ぐらいの素晴らしい演奏であって、サクセロを用いた2曲も非常に印象に残る。


なお前半のライブには、終了後、ウェアの肉声が記録されている。演奏はビル・ディクソン(この日の11日前に死去)とフレッド・アンダーソン(同じく3日前に死去)に捧げたものだと。だがウェア自身が彼らを追いかけることになるのは、それからわずか2年余りのことであった。


参考:David S. Ware Sessionography

松風鉱一トリオ+大徳俊幸 / Earth Mother

松風さんの再発盤を聴く。なにゆえ突然海外から再発されたのか事情は知らないが、最近こういう流れが増えてきた気がする。

EARTH MOTHER (IMPORT)

EARTH MOTHER (IMPORT)

松風鉱一 (fl, as, ts), 大徳俊幸 (p), 川端民生 (b), 古澤良治郎 (ds)


本作は初めて聴いたが、フェンダーローズやモーダルチューン(おそらくこういう曲が海外ジャズファンに支持されている)に、ああ時代だな~と感じる。ところで松風さんというと枕詞のように「日本のエリック・ドルフィー云々」と書いている言説が昔から胡散臭いと思っていて、まあ跳躍の多いアルトサックスのプレイや、フルートを含むマルチリード奏者であること、からそう云われているのだろうと推察してはいるのだけれど、わたしも若い頃はトガっていたから「何言ってるんだ全然違うじゃないか。こいつは本当に聴く耳を持っているのか。信用ならん」などと考えていたが、しかし今では「感じ方は人それぞれ」と思うほどには丸く(?)なっている。とはいえ今回、本作の「ラウンド・ミッドナイト」を聴いて、ところどころのフレーズにたしかに「エズセティックス」におけるドルフィーに近いニュアンスを感じたのだった。

ちなみに内ジャケに使われている写真は、Sightsong さんが提供したそうな。

Edoardo Marraffa / Diciotto

31日に予告した通り、JazzTokyo 247号に、イタリアのテナー&ソブラニーノサックス奏者 Edoardo Marraffa の18年ぶりの無伴奏ソロアルバム『Diciotto』のレビューが掲載されました。

jazztokyo.org

ピーター・エヴァンス同時リリース4作品レビュー

ピーター・エヴァンスが初来日ツアー後に自己レーベルから同時リリースした4枚の新作について、JazzTokyo 247号に、全作のミニレビューを寄稿しました。前半2枚は本ブログのリライト(9月25日10月21日参照)、後半2枚は書きおろしです。

jazztokyo.org

Jemeel Moondoc Quartet - The Astral Revelations

Astral Revelations

Astral Revelations

Jemeel Moondoc (as), Matthew Shipp (p), Hilliard Greene (b), Newman Taylor Baker (ds)


何度も書いているが、何度でも書く。ジャミール・ムードック(これも何度も書いているが、ムーンドッグとは別人である)のアルトサックスが大好きだ。決して流暢でも流麗でもない、煌びやかなテクニックも(おそらく)ない、無骨で、どちらかといえばたどたどしい、しかし痛々しいほど切実な音が胸を打つ。演奏中ムーンドックが抜け、マシュー・シップ、ヒリヤード・グリーン、ニューマン・テイラー・ベイカーという、この3人だけでアルバムが何枚も作れそうなピアノトリオとなるのだが、再びムーンドックが加わると、音楽がムーンドックの色に染まる。やはり強烈な個性である。