あうとわ~ど・ばうんど

Jessica Ackerley Trio / Coalesce レビュー

JazzTokyo誌最新号、Jazz Right Now連載第33回ジェシカ・アッカリー・インタビューに連動して、彼女の昨年の傑作アルバム『Coalesce』についてレビューを寄稿しました。彼女の名がさらに広まる一助になれば幸いです。(昨年12月28日参照)
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ピーター・エヴァンス@Jazz Art せんがわ 2018 クロスレビュー

JazzTokyo 誌の特集「ピーター・エヴァンス」。先日の予告通り、最新246号では齊藤聡さん、剛田武さんとともに JAZZ ART せんがわ 2018 における彼の2日間のステージについて、クロスレビューを行っています。ご一読ください。
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A Noise Eating Monsters taster - Monster Munch

英国のサックス奏者ティム・ヒルが主宰するレーベルから『ノイズを食らう怪物たち』の第2作が出ている。(前作は1月9日、および2月1日参照)


A Noise Eating Monsters taster - Monster Munch
Brazen Head Recordings, 2018)
Alex Ward (g), Alex Thomas (ds), Tim Hill (bs, effects)


前作で演奏されていた「Crunch Space」が今作でも演奏されているなど、基本路線は第1作を踏襲(ふしゅう、とは読まない)しており、というか前作の姉妹アルバムの趣きであるが、やっぱり好きなサウンドには違いない。変わらずエクスペリメンタルロックやらフリージャズやらファンク的要素やらを取り込んだ雑食性即興で、各曲想はポップかつキャッチーでもあり、もっと耳目を集めていいバンド。

Joëlle Léandre & Marc Ducret / Chez Hélène

Ayler Records からマルク・デュクレ(g) の新作が出ている。


Joëlle Léandre & Marc Ducret / Chez Hélène
Ayler Records, 2018)
Marc Ducret (elg), Joëlle Léandre (b)


今年5月のライブ録音。タイトルはエドガー・アラン・ポーの代表的な詩である「To Helen」(ポーは同名の詩を2篇書いているが、これは少年時代の友達の母親に捧げた1931年作品のほう)から採られている。フランスを代表する即興ベーシスト、ジョエル・レアンドルとデュクレの組み合わせは、やや意外と感じるが、アルバムを聴くとこれは絶妙な取り合わせだと分かる。

アルコやピッツィカートで奏でられるレアンドルの重くも残響豊かなコントラバスサウンドに、デュクレはいつもの金属音を強調したようなエレクトリックギターで、奇天烈フレーズは抑えめに、時にパーカッシヴに時にエレクトロニクスのように『音響的』アプローチで絡んでいく。のだが、これが意想外にも相性抜群で、ほどよい緊張感とリラクゼーション、とても不自由で限りなく自由なインタープレイが滋味深い。デュクレのインプロヴァイザーとしての手腕もあらためて認識する。

Stroboscope | The Bridge Sessions

マーズ・ウィリアムス参加の新作が出ている。

Stroboscope | The Bridge Sessions
Bridge Sessions, 2018)
Larry Ochs (ts, ss), Mars Williams (saxes, toys), Julien Desprez (elg), Mathieu Sourisseau (acoustic bass guitar), Samuel Silvant (ds)


The Bridge Sessions は、シカゴとフランスのミュージシャン同士の交流レーベルとのこと。またネットワーク組織として、さまざまな組み合わせのグループが組織され、定期的にツアーを行っており、中にはマーズ・ウィリアムスが参加するアンサンブルがあったものの、これまでアルバム化されておらず、今回満を持してのリリースとなった(2014年4月録音と、やや古い音源ではあるが)。


マーズ以外のメンバーは、ロヴァ・サクソフォン・カルテットや藤井郷子との共演などで名を馳せるラリー・オクス、あとの3人は今回初めて名を知ったフランスのミュージシャンたち。マーズとオクスの2サックスは分かっちゃいるけど唸るほかなく、エッジーなほうがマーズ、ヘヴィーなほうがオクス、と取り敢えずは判別できるが、双方が互いに寄せているのか、共にテナーを吹いている時などウッカリするとどちらがどちらか分からなくなる時もあって、すなわちこの2人はとても相性がいい。対するフランス勢3人も伴奏に甘んじる素振りはさらさらなくて、何かと主張が激しく(特にギターの過激さたるや)、このグループは控えめに見積もっても最高だ。


参考動画(他のメンバーは異なるが、マーズとオクスの過去の共演)
www.youtube.com
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Peter Evans / The Veil

初来日中のピーター・エヴァンスが、ツアーで先行発売しているソロアルバム。


Peter Evans / The VeilMore Is More Records
Peter Evans - Solo Trumpet


ピーターのソロ演奏とは「自分の発展や成長を試す鏡」なのだそうだが、ツアー直前の今年5~6月に録音されたという本作は、圧倒的傑作であった15~16年録音の「Lifeblood」(16年10月13日参照)とはまた異なる豊饒な地平へと耳を脳を誘ってくれる。今回の来日ツアーで私が彼のライブに接することができたのは、15、16日の JAZZ ART せんがわの2公演だった(レビューは10月7日更新の JazzTokyo No.246 に掲載予定)のだが、そこで披露された完全ソロ演奏約20分は、このアルバムの抜粋であったことを、本作を聴いて知ることになった。そして、彼の生演奏を体験できたことが、このアルバムの味わいをさらに豊かなものにしてくれている、と感嘆する。


ライブを観て認識したのは、済々多様な技術を矢継早に惜しげなく披露するエヴァンスのソロ演奏にあって、マイクロフォンがかなり重要な地位を占めていることだ。私のような素人はこの機材をどうしても「拡声器」と認識したがるが、エヴァンスはこれを本来の、空気振動を電気信号に変える装置として扱っている。トランペットのベルから発せられる楽音(実際にこの目で確認しても信じがたいほど、ひたすら人力でエフェクトされた数々の音を含む)以外にも、声、ブレス音、リップ音、バルブ操作音、管の震えすら余すところなく「信号」に変換し、それらの音声を全て、山あり谷ありお花畑も灼熱地獄も渋滞も烈風も仙境もある豊かな「音楽」として提示する。本作を聴くと、そのさまがいろいろリアルに記憶に甦ってくるのだ。

Sakata Nabatov Seo Moore / Not Seeing Is A Flower

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Sakata Nabatov Seo Moore / Not Seeing Is A Flower
Leo Records, 2018)
Akira Sakata (as, cl, vo, perc), Simon Nabatov (p), Takashi Seo (b), Darren Moore (ds, perc)


昨年11月、サイモン・ナバトフが単身来日、坂田明さんらとのカルテットで1週間のツアーを行い、千秋楽に千葉 Candy で行ったライブ録音だそうだ。ナバトフのピアノは、クラシック仕込みのゆえなのかどうか、音の立ち上がり・粒立ちが非常に鮮やかで、とにかく“速さ”を感じる。そのせいか、坂田さんのアルトをはじめとする演奏も、常ならばもっと情緒味が多くなりそうなところだが、抑制気味に聴こえ、それが逆に新鮮に感じもする。坂田さんや瀬尾が入っているというのに、音楽全体からは熱さよりも、とても涼しい風が吹いてくる(そういうトラックを選んだ、ということかもしれぬが)のは、やはりナバトフの影響の賜物であろうか。