Robbie Lee & Mary Halvorson / Seed Triangular
正式発売は9月7日とされているが、注文したら1カ月以上前にCDが届いた。
Robbie Lee & Mary Halvorson / Seed Triangular
(New Amsterdam Records, 2018)
Mary Halvorson: 18-string Knutsen harp guitar circa 1899, 1930 Gibson L-2 guitar, 1888 SS Stewart 6-string banjo
Robbie Lee: Baroque flutes after Eichentopf and Quantz by Stefan Beck, 1829 8-key flute by Rudall and Rose, chalumeau (Renaissance clarinet), soprillo saxophone, melodica, bells
これはメアリー・ハルヴァーソンのプロジェクトとしては、かなり異色の部類だろう。なにしろここで彼女は、普通のギターは弾いていない。ギブソンのヴィンテージ・ギターはともかくとして、前々世紀につくられた年代物(というか骨董品?)のハープギターとバンジョーが登場する。対するマルチインストルメント奏者のロビー・リーは、バロックフルート、8キーフルート、シャリュモー、ソプリロといった古典的管楽器やメロディカを吹く。その2人による演奏は、民族音楽に似つつ、古楽に接近しつつ、フリージャズからもそう遠くはないが、しかしどれとも異なるプリミティヴな即興音楽、という趣きで面白い。そしてメアリーの演奏はやはりいつもの強力な個性を発信している、というのが嬉しい。
トレーラー
www.youtube.com
Cubic Zero / Flying Umishida
忙しさにかまけていたら、またしても間があいてしまった。なにしろ週末に更新される JazzTokyo 最新号にも、昨年の初寄稿以来初めて寄稿しなかったぐらいである(なんか変な言葉遣いだ)。が、本職のほうがようやく落ち着いたので、また少しずつ再開していこうと思う。ので、今後もゆるりとお付き合いください。
というわけで再開第1弾は、やはりこのアルバムでなければならないだろう。
Cubic Zero / Flying Umishida(Nonoya Records, 2018)
吉田野乃子 (sax) 本山禎朗 (keyb) 佐々木伸彦 (g) 大久保太郎 (b) 渋谷徹 (ds)
これは大変な傑作なのである!!
ということは、雉子の雌鳥ゃ女鳥だが、
まさかとは思うけど、まだ聴いてない人はいないよね?
4回(twitter 含む)も同じフレーズを繰り返すのは芸がないので、少しアレンジしてみた。
というわけで、野乃子ちゃんの最新グループ、待望の新作が出た。昨年の結成時は「エレクトリック・ヨシダ(仮)」と称呼されていたけれど、今年2月に公募が行われ(提案者の中には大友良英氏も含まれている)、3月にこういう正式名称となった。ちなみに、名付け親(の一人)は私である。
完全立方体だから、Cubic Zero とか…
— JOE (@JOE_as) February 21, 2018
Cubic Zeroという名前は、ツイッターではJOEさんに、facebookの方ではYamaiさんにご提案いただきました!お二人、ありがとうございました!!!!!元ネタはラーメンズの『零の箱式』です。
— Nonoko Yoshida 吉田野乃子 (@nonokoyoshida) March 17, 2018
各曲に関しては、野乃子ちゃんの父君の解説が、痒いところに手が届く大変詳しいものなので、そちらを参照していただきたい。(某メンバーから数か所ツッコミが入ったようだが、大勢に影響はない)
熊「お~い!Cubic ZeroってバンドのCD、聴いたか?」
— konta (@kontanotiti1) 2018年7月28日
八「あぁ、すっげえ音だったな」
熊「なんか、裏解説書なるもの出てるらしいぞ」
八「CDにはライナーノーツらしきものなかったぞ」
熊「だから裏なんだべ」
八「何が書いてあるのよ?」
熊「メンバーしかわからない情報だ」
八「いいのか?それ」 pic.twitter.com/Jd4gLjzs8u
さて、ここからは私の感想というか蛇足だが、最初のグループ名が「エレクトリック・ヨシダ」だったため、初見ではてっきり彼女の師ジョン・ゾーンの「エレクトリック・マサダ」に範をとったエレクトリックなハードコアジャズでも演奏するのだとばかり思っていたのだけれど、そうでないことがライブを重ねるたびに明らかになっていった。手法としてはインプロもあるし、ジャンクノイズもハンドサインも変(態)拍子もあるけれど、端的に言えばエレクトリックを纏ったジャズグループなのであって、衣をアコースティックに着せ替えれば「トリオ深海ノ窓」になるだろうし、彼女1人で演奏すれば「Lotus」になっても不思議でない。父君がやはり twitter で「野乃屋レコーズ3部作」と呼んでいたが、そうまさにこの3枚には一貫した吉田野乃子のジャズが底流している。ちなみに今回、彼女が10代最後の年に吹き込んだ「岩見沢カルテット」も聴き返してみたけれど、11年前から彼女の本質は何ら変わっていない、と確信を強くした(そういえばこのCDRにも「Nonoya Records」の記載がある)。彼女は、わたしを含む多くの人の前にノイズサックス奏者として現れ、現在でもそう自称も他称もしているけれど、父君の発言ばかり引用して申し訳ないがこの作品はジョン・ゾーンや椎名林檎やEW&Fやイーグルスや日野元彦らにインスパイアされているそうであるし、彼女のサックスのルーツには昨年の「三十路祭り」の冒頭でコピー演奏したデヴィッド・サンボーン(バラしてしまった)もいるし、彼女が大野雄二の音楽の大ファンであることも有名だし、今まで観た聴いた共演した好きな人たちの音楽を自家薬籠中に無理なく同居させながら、何より自分の好きなことをサックスで表現したい(そしてできる)自然体の音楽家なのだということを強調しておきたい。三十路祭りのレビューでも書いたように、彼女は『渡米前、渡米後、帰国後、その全ての経験をフル動員し、その活動を多方面に花開かせようとしている』。これからもますます楽しみだ。
当ブログ読者ならば既に入手済だろうが、もしまだ未入手だとしたら、
野乃屋レコーズ nonoko_yoshida@yahoo.co.jp
Gush! / Boléro
先月30日の ONJQ 札幌ライブの物販にて購入。
Gush! / Boléro
(mizmzic, 2018)
加藤崇之 (g) 水谷浩章 (b) 芳垣安洋 (ds)
意外と言っては失礼だが、発売情報を知ったときに思わず予想したサウンドとはかなり違って、温かく、美しく、優しく、滋味深いジャズ(とインプロ)である。全8曲のうち、冒頭のインプロと6曲目の水谷さんの作を除けば、計6曲が加藤さんのコンポジション(つまりタイトル曲は、それらしくはあるがラヴェルのあの曲ではない)であり、「皇帝」や「歩こうよ」の例を挙げるまでもないことだが、加藤さんのメロディーメーカーぶりをあらためて思い知る。どの演奏も、3人とも音が自然に心から流れ落ちてくるようであり、アルバムが終わったときには、こちらの心の底に積もった音の記憶たちがいつか『重み』を伴っている、そんなことを感じさせる音楽なのである。
『Cory Smythe & Peter Evans / Weatherbird』レビュー
告知が遅れましたが、JazzTokyo 誌 243号に、『Cory Smythe & Peter Evans / Weatherbird』のレビューが掲載されています。6月3日の記事のリライトです。
John Coltrane - Both Directions at Once: The Lost Album
エリック・ドルフィーの命日に、なぜかジョン・コルトレーンの未発表録音が発売された。(本来なら、出る出ると、情報ばかり先行しているダグラス・セッションの未発表録音をリリースすべきだろう)
ザ・ロスト・アルバム (デラックス・エディション)(UHQ-CD仕様)
- アーティスト: ジョン・コルトレーン
- 出版社/メーカー: Universal Music =music=
- 発売日: 2018/06/29
- メディア: CD
- この商品を含むブログを見る
「ジョン・コルトレーン&ジョニー・ハートマン」録音の前日、1963年3月6日に行われながら、マスターテープが行方不明だった公式音源の発掘アルバム化(発掘の経緯はこちら参照)。バードランド2週間公演の合間、ハートマンとの共演の前日であることもさることながら、同年4月以降にライブレパートリーとなるもののスタジオ録音版が確認されていなかった代表曲「One Down, One Up」が収録されていること、この時期になっても「Impressions」が新たに吹き込まれていることなど、驚くことが多い。とはいうものの、演奏内容が想像を超えることはほぼなくて、発売された事実以上の驚きや衝撃はない、というのがまあ残念ながら正直な感想ではある。
エリック・ドルフィー没後54周年
エリック・ドルフィー。1964年6月29日、西ベルリンにて死去。
ドルフィーは生前、西ベルリンを3回訪れている。1回目は1961年8月だ。
この『Berlin Concerts』が録音されたのは1961年8月30日。なおこの直前の8月13日、東ドイツが東西ベルリン境界線を有刺鉄線で封鎖し、石造りの壁(ベルリンの壁)建設が開始され、20日には米軍が駐留部隊を増派、24日には壁を越えようとした青年が射殺され最初の犠牲者となる、という歴史的事件が進行している真っただ中である。むろん、演奏にそれをうかがい知るものはない(たぶん)。
2回目はこの年の12月。コルトレーン・クインテットの一員として訪問した。
ここでのドルフィーは、コルトレーン・クインテットにおける演奏としては、最も奔放なものと言ってもよい。なおこの前月までがいわゆる「ベルリン危機」といわれる時期で、ここでのコルトレーンとドルフィーの関係はそのまま米ソの対立構造のメタファーである、わけがない。
そして3回目が64年6月、ここが最後の訪問地となってしまった。そしてこの頃にはもはや壁は乗り越え難いものになってしまっていたという。
John Zorn - In A Convex Mirror
サボっていた(当人の心の中では必ずしもそうでないつもりだが、説明が面倒なので、そういうことにしておく)間に、6月も終わろうとしている。こう間隔があいてしまうと、まとまった文章を書くのもすっかり億劫になってしまっているのだけれど、少しずつリハビリをしていかなければ。というわけで。
- アーティスト: John Zorn
- 出版社/メーカー: Tzadik
- 発売日: 2018/06/29
- メディア: CD
- この商品を含むブログを見る
ジョン・ゾーンが久しぶりにアルトサックスを吹いているアルバムと知り、購入した。かつて毎月のように新作を出していたころとは違って、最近ではアルト入りは思いだしたようにポツポツ、というのは財布には優しくなったけれど、ちと寂しい心持もしてしまうのは何とも勝手なものである。本作はチェス・スミスがハイチ太鼓で叩き出す呪術的ポリリズム(意外なことに、彼は定期的にポルトープランスに行って演奏しているのだという)と、イクエ・モリによる電子音の上を、ジョンが気分よさそうに歌い、咆え、吐き、叫ぶ。シンプルと言えば至ってシンプルな音楽なのだが、こういうセッティングで聴くジョンのアルトはやっぱり輝かしく、しみじみと本当にいい演奏家なのだなあと思う。