あうとわ~ど・ばうんど

CP Unit / Silver Bullet in the Autumn of Your Years

clean feed からCDが届いて、ようやく聴けた。

Silver Bullet in the Autumn of Your Years

Silver Bullet in the Autumn of Your Years

Chris Pitsiokos (as, wind controller, sampler, analog synthesizer, other electronics), Sam Lisabeth (g), Tim Dahl (elb), Henry Fraser (elb), Jason Nazary (ds, electronics), Connor Baker (ds)


強烈なノイズとともに颯爽とわれわれの前にクリスが登場してから、もう5年ほど経つけれど、この間の動向を注視していれば自然な流れとはいえ、こういうかっこいい「フリージャズ」を演奏するようになるとは、初めて彼を知ったときには思いもよらなかった。

本作品は「CP Unit」名義だが、前作「Before the Heat Death」からメンバーがほぼ一新されている。ギターはブランドン・シーブルックからサム・リサベスに、エレクトリックベースとドラムスは曲によって組み合わせが異なり、1~3、5、7、8曲目がヘンリー・フレイザーとコナー・ベイカー、残る4、6、9、10曲目がティム・ダール(は前作にも参加)とジェイソン・ナザリーとなっている。

インプロの2曲(1、5曲目)以外は、クリスの作曲作品。さまざまなタイプの楽曲が披露されるが、総じて80年代のジョン・ゾーンオーネット・コールマンを想起させるような、フリージャズ~ポップアヴァンギャルドの換骨奪胎のように聴こえる。

5月中旬の CP Unit 欧州ツアーは、ヘンリー・フレイザーとジェイソン・ナザリーという、アルバムとはまた異なった編成となっており、メールス・フェスティバルは初日の18日に登場。ストリーム中継を観ながら Twitter で「高度なプライムタイムのようだ」と感想を発したが、アルバムを聴くと、それはこのユニットの一要素に過ぎなかったことがわかる。たまたまその日、そのスタイルの演奏が選ばれたのだろう。

ともあれ、こうしていろいろ楽しませてくれて、さまざま気づかせてくれるクリスの活動からは目が離せないのだ。


試聴

メールスでの演奏(9分30秒すぎ~)

Onze Heures Onze Orchestra / Vol 2

フランスの Pi Recordings(と勝手に呼んでいる。が、プチ・パイ、といったところが現実であろう)、Onze Heures Onze のレーベル主要ミュージシャンをそろえた「Onze Heures Onze Orchestra」第2集が出ている。

Onze Heures Onze Orchestra, Vol. 2

Onze Heures Onze Orchestra, Vol. 2

Alexandre Herer (p, fender rhodes) Julien Pontvianne (ts, cl) Olivier Laisney (tp) Stéphane Payen (as) Denis Guivarc'h (as) Stephan Caracci (vib, perc) Joachim Govin (b) Florent Nisse (b) Thibault Perriard (ds) Franck Vaillant (ds) Johan Blanc (tb) Michel Massot (tb) Magic Malik (fl) One Take Autotune Proof (vo)


前作(2月1日参照)同様、コンポジションは各メンバーが交代で担当し、曲調も曲想もアレンジもさまざま(ちなみに冒頭曲は、エリック・ドルフィーの某曲の分解合成であろう)。しかしわたしのお目当ては相変わらず Denis Guivarc'h ただ一人なのであって、彼のうねるアルトサックスの存在感はやっぱりスペシャルだ。もっと彼の活躍する参加作や、願わくばリーダー作が聴きたい。


試聴

Kristo Rodzevski / The Rabbit and the Fallen Sycamore

メアリー・ハルヴァーソンをはじめとするジャズミュージシャンが参加したアルバムをリリースしているヴォーカリスト、Kristo Rodzevski の新作が出ていた。メアリーは今作にも参加している。

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Kristo Rodzevski / The Rabbit and the Fallen Sycamore
(Much Prefer Records, 2018)
Kristo Rodzevski (vo), Mary Halvorson (g), Tomas Fujiwara (ds), Michael Blanco (b), Kris Davis (p), Ingrid Laubrock (sax), Brian Drye (tb)


「Batania」(15年10月23日)、「Bitter Almonds」(昨年2月4日参照)に続く第3弾(3部作の3枚目、という位置づけらしい)。前2作はボサノバなのか、フォークなのか、ジャズといえるのか、ジャズ以外の音楽には屯と造詣がない自分にはカテゴライズ不能(する必要はないのかもしれない)な音楽だったが、本作もロックなのか、フォークなのか、フュージョンなのか、やっぱり不分明ながらも、懐かしくも美しく、心地よく気持ち悪い、妙てけれんな魅力のある音楽となっている。

本作ではピアノにクリス・デイヴィス、サックスにイングリッド・ラブロックを新たに迎えるなど、相変わらずの豪華布陣をそろえ、加えてタイトル曲のミックスはビル・ラズウェル、カバーデザインはイクエ・モリが担当するというゴージャスっぷりだ。(なおプロデュースはクリスト自身とトマ・フジワラ)。

細田成嗣さんが ele-king で「Code Girl」のレビューに書いていたように、メアリーのリーダー作(や共同リーダー作)では『声とギターが主従関係を結ばずに対話する』のとは違って、ここには明白に“主従関係”があるわけだけれど、いかにも歌に奉仕しているギターサウンドを基軸としつつ、不意を衝いて精妙に調子っぱずれな彼女のギターの個性は際立っていて、それによって音楽トータルの次元は引き上げられている、というのはやっぱり凄い才能であるよなあ。


試聴
www.youtube.com

別冊 ele-king 発売 『変容するニューヨーク、ジャズの自由』

Twitter では事前告知していた「別冊ele-king カマシ・ワシントン/UKジャズの逆襲」が正式発売されました。後半の小特集『変容するニューヨーク、ジャズの自由(フリー)』に少し参加しました。具体的には、音楽ライター細田成嗣さんが中心となって Sightsong さんid:zu-ja さんとともに「NYジャズ人脈図」の作成と、「NYジャズ・ディスク・ガイド30枚」の選定および執筆に関わっています。

他の記事も読みごたえがあって、ニューヨークのフリージャズの網羅的現況や影響的背景などに関する論考が、紙媒体として初めてまとめられた“偉業”ではないかと思います。なおディスク・ガイドでは、メアリー・ハルヴァーソンやアンソニー・ブラクストン、ピーター・エヴァンス、マット・ミッチェル、ペットボトル・ニンゲンなど8枚を担当させていただきました。興味のある方は(できれば、ない人も)ぜひ手に取ってみてください。



参考




Reid / Kitamura / Bynum / Morris - Geometry of Caves

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Reid Kitamura Bynum Morris / Geometry of Caves
Relative Pitch Records, 2018)
Kyoko Kitamura (voice) Joe Morris (g) Tomeka Reid (cello) Taylor Ho Bynum (cor, piccolo & bass tp)


チェロがトメカ・リード、ヴォイスが北村京子、トランペットがテイラー・ホ・バイナム、と来れば、ギターは当然メ・・と思いきや、ジョー・モリスであるところがこのカルテットのミソだろう。各楽器と声が、それぞれ楽音と噪音の性質を同時に併せ持ったような音で、ひっきりなしに親し気におしゃべりしてるようなイメージか。『洞窟の幾何学』というタイトルにはピンとこないが、「洞窟感」は何となく感じられる(?)。ところでこの手のスキャットヴォイスにはありがちなのだけれど、北村さんのヴォイスが時々「テケリ・リ、テケリ・リ」と言っているように聴こえてしまう。

Thumbscrew / Ours & Theirs

Thumbscrew の通算3、4枚目にあたる作品が2枚同時リリースされている。Cuneiform Records に直接注文していたものが(偶然にも「Code Girl」のCDも一緒に)届いた。


Thumbscrew / Ours
Thumbscrew / Theirs
(Cuneiform Records, 2018)
Michael Formanek (b) Tomas Fujiwara (ds) Mary Halvorson (g)


「Ours」で演奏されているのが自作曲、「Theirs」は先達の既成曲と、分かりやすくコンセプトが異なっている。が、2枚に共通するのは、伝統的ジャズギタートリオ志向ではなかろうか。それは特に「Theirs」に顕著で、曲によってはメアリーのアルバムであることを忘れて(しまうことはない。あくまで比喩である)ふつうにギタートリオとして滋味深いから驚いてしまう。個人的に好みで言えば「Ours」を推すが、そちらでもメアリー独特のリズムやピッチベンドはやや抑えめと聴こえる。というか、ここ最近の彼女の作品を聴いていると、スタイルが微妙に変化しつつあるとも思えるのだが、果たしてこの直観は正しいのかどうか。

The Thing / Again

The Thing の新作も出ている。

Again

Again

Mats Gustafsson (ss, ts) Ingebrigt Håker Flaten (b, elb) Paal Nilssen-Love (ds, perc)


The Thing も来年で結成20年というから、ずいぶん長く活動している。もはやアルバムを逐一買っているわけでもないので、通算何作品目になるのかは知らない。本作品はゲストなしの、シンプルなトリオ。20分以上にわたる1曲目はマッツのオリジナルで、フリージャズサックスの歴史を確かめるように組曲風の演奏が展開され、2曲目はフランク・ロウの『Decision In Paradise』、最終3曲目はフラーテンのオリジナル。マッツはロウに敬意を表してか、テナーとソプラノを吹き、バリトンは吹かない。そういえば The Thing はその名の通り元々はドン・チェリーの曲を演奏するバンドで、ロウの「Decision in Paradise」にはチェリーが参加していたわけだが、タイトルの「Again」は原点回帰を意味する、かどうかは分からない。