あうとわ~ど・ばうんど

Samo Šalamon, Tony Malaby & Roberto Dani / Traveling Moving Breathing

Clean Feed の新作が届いたので、まずは最も注目していた作品を聴く。

Traveling Moving Breathing [Explicit]

Traveling Moving Breathing [Explicit]

Tony Malaby (ts, ss) Samo Šalamon (g) Roberto Dani (ds)


昨年のちょうど同じ時期、やはり Clean Feed からリリースされた『The Colours Suite』が印象的だったスロヴェニア出身ギタリスト、サモ・サラモン。同アルバムをはじめ、サラモンと多くの作品で共演するイタリア出身ドラマーのロベルト・ダニ。サラモンとは06年の『Two Hours』で共演歴のある、言わずと知れた米国が誇るテナータイタンのトニー・マラビー。という組み合わせで昨年4月にスロヴェニアで録音されたトリオ作。

ジョン・スコフィールドに師事したサラモンは、本質的にはコンテンポラリージャズ系ギタリストだと思っているけれど、異能系サックス奏者と共演するととても光る。ダニの叩き出す端整で細やかなビートにゆったり乗りつつ、ギターとテナーがひと癖あるリズムのテーマを奏でる冒頭曲からかっこいい。テーマを終えるとマラビーのサックスは、やはりゆったりと空間を生かしたアドリブに入る。サラモンのペインティングのようなギターサウンドも面白い。マラビーはアルバム序盤と終盤でテナーを、中盤ではソプラノを聴かせ、決して爆発的プレイではないけれど、全編にわたって滋味がしみわたる。


参考動画
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Dog Life / Fresh From The Ruins

スウェーデンの女性サックス奏者、アンナ・ホグバーグの新作を聴く。


Dog Life / Fresh From The Ruins
Omlott, 2018)
Anna Högberg (saxophones) Finn Loxbo (elb) Mårten Magnefors (ds)


リーダーは、スウェーデンの先輩サックス奏者マッツ・グスタフソン率いる Fire! Orchestra でロッテ・アンカーやメテ・ラスムッセンらとサックスセクションを形成したり、The Thing の『Shake』に参加したりと、最近何かとマッツに引き立てられているサックス奏者。昨年、彼女がリーダーを務める女性のみのフリージャズセクステット Anna Högberg Attack(17年6月21日参照)を聴いて印象に残っていた(が、中でも印象に残ったのは実は彼女ではなかったのだが)ため、同じレーベルから新作が出たので聴いてみたわけである。グループとしては2枚目だそうだ。

先ほど「The Thing」という固有名詞が出たけれど、同じ編成の先輩たちのようにエレベとドラムが重厚なグルーヴを繰り出し、アンナはバリトンサックスとアルトサックスを持ち替えてエネルギーを発散する。しかし彼女のプレイはマッツとは違って、むしろヴァンダーマークのようにリフを繰り返していくスタイルだ。だがヴァンダーマークのようにクライマックスにクライマックスを重ねるというやり方とも違い、ただひたすらにリフを積み重ねていくのだが、その愚直なまでのひたむきさに好感を持つ。


参考動画
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スガダイロー / 季節はただ流れて行く

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スガダイロー / 季節はただ流れて行く
VELVETSUN PRODUCTS, 2018)
スガダイロー (p)


石田幹雄が傑作ピアノソロアルバムを発表した(3日参照)ばかりだというのに、スガダイローまでが傑作ソロピアノアルバムをリリースした。ジャケットがなぜ宮沢賢治風なのかは謎だけれど、「暦」をテーマに毎月1曲ずつ一年を費やし作曲した作品群だそうで、『花残月』(4月)から『花見月』(3月)までの12曲と、最終曲『海は見ていた』の計13曲の短編集、といったおもむき。石田作品が音を削ぎ落した極限の美の世界だったのに対し、スガ作品は、曼荼羅とか万華鏡とかいつも彼のピアノをわたしは評しているが、空間が勿体ないとばかりに音と響きで満たし(ているばかりでもない)しかしながら危ういバランスの上に成り立った、これもやはり極限の美の世界である。石田を菊地雅章渋谷毅に、スガを山下洋輔佐藤允彦に擬すのは安直であろうが、作風としては対称的ながら、これまた美しく可憐で瑞々しくシンプルで温かく思索的で気高く耽美的で儚く聴くものの人生にそっと寄り添うアルバムである。(ところで12曲目『花見月』は、「Summer Lonely」(1月1日17年11月28日参照)では『花水月』とクレジットされていたが、本作の表記が正しいそうである)

なお本作品は譜面も販売されている。

Peter Bruun's All Too Human / Vernacular Avant​-​garde

Ayler Records から、マルク・デュクレ参加の新作が出ている。


Peter Bruun's All Too Human: Vernacular Avant-Garde
Ayler Records, 2018)
Marc Ducret (guitars 6 & 12-stringed) Kasper Tranberg (tp, cor) Simon Toldam (moog, juno 60, philicorda) Peter Bruun (ds, mikrokorg)


リーダーのピーター・ブルーンは、ジャンゴ・ベイツ・ビラヴドのドラマーであり、デュクレとは サミュエル・ブレイザー・トリオで共演する仲。作品は、ジャケットに即して言えば色合いの多彩な6曲によって構成され、シンセサイザーによるカラーリングが重要な位置を占めるようだ。デュクレは、複雑な多面体を矢継ぎ早に積み上げて堅牢な楼閣を組み立てるような幾何的変態ギターが大好物なのだが、こういうセッティングでの浮遊系プレイにも長じている。キャスパー・トランバーグのトランペットが晩年のマイルスみたいに聴こえるのはご愛嬌。(そういえば、アイラー・レコーズもいつの間にかレーベルカラーがコンテンポラリー寄りに変わってしまったなあ。今のも嫌いではないのだが)


参考動画
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Andrew Drury's Content Provider / Try

Andrew Drury's Content Provider の第2作が出ている。


Andrew Drury's Content Provider / Try
Different Track Recordings, 2018)
Andrew Drury (ds, compositions) Briggan Krauss (as, g) Ingrid Laubrock (ts, ss, autoharp) Brandon Seabrook (g, banjo, electronics)


3年前、第1作の感想(15年4月22日)に「愉快痛快なジャズ」と書いた(のは、Sightsongs さんであって、わたしは追認しただけなのだが)。今作も愉快痛快さはそのままに、ドルーリーのコンポジションによる楽曲の拘束性はゆるくなり、その分、メンバーたちの自由度は増している。リーダー以外の3人は「本職」以外にも、クラウスはギター、ラブロックはオートハープ、シーブルックはエレクトロニクスを操り、音響面の快楽も追求され、進化した「愉快痛快な大人の音遊び」を感じる。

Rent Romus' Life's Blood Ensemble / Rogue Star

1枚目について書いてから、間が空いてしまった。

Rogue Star

Rogue Star

Rent Romus (as, fl) Joshua Marshall (ts) Heikki “Mike” Koskinen (e-trumpet, tenor recorder) Mark Clifford (vib) Safa Shokrai (b) Max Judelson (b) Timothy Orr (ds)


ロムスの2枚の新譜に「虚を衝かれた」のは、それがあまりに至極真っ当なジャズであったからだ。本作に関して言えば、このグループはほぼ1作ごとに異なる作風を持っていて、今回はアーサー・ブライスに捧げた作品なのだそうだが、しかしわたしが受け取ったのは60~70年代のジャズの薫り、そして(なぜか)それに色濃く影響を受けた日本のジャズとの親和性である。それから、いつもは多かれ少なかれロムスのキレキレのサックスソロについ耳が行ってしまうというのに、今回の2枚の作品にはそれがほとんどない、ただただアンサンブルの妙味に浸っているだけというのも、われながら驚きなのである。


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Otherworld Ensemble / Live at Malmitalo

レント・ロムスの新作が2月末に2枚出ている。今回は2枚ともに、その内容に虚を衝かれた。まずは「来世アンサンブル」という名の新グループから。


Otherworld Ensemble / Live at Malmitalo
Edgetone Records, 2018)
Heikki Koskinen (co-director, tenor recorder, e-trumpet, fl, piano kantele) Teppo Hauta-aho (b) Rent Romus (music director, as, kantele, fl, bells) Mikko Innanen (as, bs, sopranino saxophone, fl, perc)


2017年5月、ロムスのルーツであるフィンランドヘルシンキにおけるライブ録音で、ロムス以外のメンバーは同国のミュージシャンたち。ミッコ・イナネンが参加しているのが、やはり注目だろうか。という事前情報から、ロムスとイナネンがどんな鍔迫り合いをしているのか、と考えていると肩透かしを食らう。だれも突出したり、抜け駆けしたりはしない。アンサンブル、というか、瞬場における音の重ね合いに力点が置かれている、と感じる。

彼のホームページ情報によれば、この音楽はフィンランドの国民的叙事詩『カレワラ』や北部地方の民謡、アニミズムなどにインスピレーションを受けているとのこと(ということはつまり、2015年の『The Otherworld Cycle』と同根である)。冒頭から印象的な異世界美あふれる楽曲たちが続き、モダン及びブレモダンのジャズの伝統が踏まえられた豊かなアンサンブルに加え、それぞれフィーチャーされる無伴奏ソロにも個の豊かな伎倆が息づいている。聴きながら『New Bottle Old Wine』や『New Wine in Old Bottles』といったアルバムタイトルを思い浮かべたりもするのだが、むろん音楽内容からタイトルを連想しただけであって、中身までが似ているわけでないことは言うまでもない。