あうとわ~ど・ばうんど

Wadada Leo Smith 田村夏樹 藤井郷子 Ikue Mori / Aspiration

藤井さん田村さんが北海道ツアー中なのだが、前半のカルテットでの札幌ライブは仕事の都合がつかず、しかし仕事先の旭川で25日夜に観ることができた。(最終列車の時間が迫ってアンコール直前に後ろ髪を引かれる思いで会場をあとにしたが、危うく乗り遅れるところだった)。物販にて、来月発売予定の新作を入手した。

アスピレーション

アスピレーション

Wadada Leo Smith(tp) 田村夏樹(tp) 藤井郷子(p) Ikue Mori(electronics)


藤井・田村コンビにレオ・スミスとイクエ・モリを加えた演奏だが、「KAZE」やら「風神雷神」やら「ダブルデュオ」やら、藤井さんはこういう別のデュオを迎える編成が好きなのだろうか。むろんだからといって単なるWデュオに終わることはなく、常に4人が有機的に絡み合い1個の完結した音楽を披露してくれる。全6曲のうち4曲が藤井さん作曲で、タイトルには「Intent」「Floating」「Aspiration」「Evolution」と名が体を表すようなことばが並び(もしくは単なる符牒のようなものかもしれないけれど)、彼女の曲特有の『叙情』もあふれている。本作はやはりレオ・スミスと田村さんの競演が興味深く、ともに深く美しい音色で、静寂を生かしながら滋味深いサウンドを披瀝し合う。

dMu - Synaptic Self

CF 新譜は4枚入手したが、残り1枚は省略(お察しください)。米国のバリトンサックス奏者 Josh Sinton の旧作を聴く。


dMu - Synaptic Self
Iluso Records, 2016)
Josh Sinton(bs, bcl) Álvaro Domene(elg) Mike Caratti(ds, compositions)


グループ名やジャケにどんな意味が込められているのやら不明ながら、スペイン出身のギタリスト、オーストラリア出身のドラマーとの国際色豊かトリオである。ジョシュ・シントンの存在を意識したのは、5月に聴いた Spinifex がきっかけで、破壊的に押して押して押しまくるバリトンサックスに惹かれた。本作でもシントンのそうしたパワー全開の魅力は十分に堪能でき(持ち替えのバスクラは意外と普通だが)、まあもっともアルバムが進んでいくとその猪突猛進的なプレイのあまりの愚直さに「もう分かったよ」という気分にさせられたりもするのだけれど、それもまた咆哮の快楽であるし、バリトンサックスによるフリージャズの正しい姿であろう。代わりに、というわけでもなかろうが、ギターの多彩なプレイが出色で飽きさせない。


試聴
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Max Johnson - In the West

CF の新譜を続ける。

In the West

In the West

Susan Alcorn(pedal steel guitar) Kris Davis(p) Max Johnson(b) Mike Pride(ds)


注目は、メアリー・ハルヴァーソンのオクテットにも参加するペダルスティールギター奏者、スーザン・アルコーン。クリス・デイヴィスが大昔のチック・コリアレニー・トリスターノもかくやと思わせるクールで理知的なピアノプレイを繰り出す脇で、異化効果抜群のギターサウンドで応酬しているのが面白い。メアリー・レベルの時空間や重力場をも捻じ曲げるような力はさすがにないけれど、クリスが(おそらくは)あえて端整なプレイに徹しているために、音場の焦点を心地よくずらしてくれるのが愉しい。

Eric Revis - Sing Me Some Cry

続けて、ヴァンダーマーク参加作を聴く。

Sing Me Some Cry

Sing Me Some Cry

Eric Revis(b) Ken Vandermark(ts, cl) Kris Davis(p) Chad Taylor(ds)


エリック・レヴィスとヴァンダーマークの共演は「Parallax」(13年1月1日参照)以来4年半ぶりということになるか。ブランフォード・マルサリスのグループで名を馳せたレヴィスも、CFからはこれで6枚目、フリー系奏者との共演も多く、すっかり「こちら側」の人になった印象があって、ヴァンダーマークとの共演にも全く違和感はない。ヴァンダーマークはいつも通りといえばいつも通り、テナーを持たせると圧倒的パワーでクライマックスへ向けてどんどん突進していく様は、先刻ご承知、分かっちゃいるんだが堪らん快楽である。ところで全員一丸となって盛り上がるあたりというのは、実は皆楽器をしばき倒しているということでもあるんだよな、などと当たり前といえば当たり前のことにも気づくのだけれど、そういう「身体性」を如実に感じさせる演奏なのでもある。

Nate Wooley - KNKNIGHGH

Clean Feed の新譜が届いている。まずは、再来月に迫った来日が待ち遠しいクリス・ピッツィオコス参加作を聴く。

Knknighgh (Minimal Poetry for Aram Saroyan)

Knknighgh (Minimal Poetry for Aram Saroyan)

Nate Wooley(tp) Chris Pitsiokos(as) Brandon Lopez(b) Dré Hočevar(ds)


ネイト・ウーリー新カルテットの初アルバム。剛田武氏によれば、タイトルは「ナイフ」と発音し、詩人アラム・サローヤン(小説家ウィリアム・サローヤンの息子)のミニマリズム詩に捧げた作品との由。全5曲はウーリーによる作曲で、いずれもアルバムタイトルに「3」「4」「6」「7」「8」と番号が付けられている(外された「1」「2」「5」がどんな曲だったか知りたくなる)。各曲ともゆったり、空間がスカスカと広く、ウーリーもピッツィオコスも間を生かすような演奏が主体で、「アウト・トゥ・ランチ」の現代的フリー的解釈とも聴ける瞬間がある。


クリスのこういった演奏でのアルトサックスの音は実に惚れ惚れとする(ところどころアンドリュー・ディアンジェロエリック・ドルフィーを思い出させたりもする)もので、硬質だけれど表面はとても滑らか、というイメージ。初登場時のように、短時間で何種類のノイズを埋め込めるか、みたいな演奏が好きな人には物足りないかもしれないが、若いのに奥深い抽斗を幾つ持っているのか、と思わずにいられない様々な顔が次々に聴けて愉しい。


参考動画
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照内央晴・松本ちはや / 哀しみさえも星となりて

いささか時機を失してしまったが、札幌くうで8日のライブ物販で購入していた。

哀しみさえも星となりて

哀しみさえも星となりて

照内央晴(p) 松本ちはや(per)


北海道ツアーに松本さんは持ってこれるだけの打楽器類を持ってきたもののフルセットには程遠いらしかったが、それでもアルバムから観取されるようなイメージ喚起力に富む彩り豊かな響きは味わえたように思う。照内さんのピアノはありそうであまりないタイプと聴こえたが、紡がれる旋律も内部奏法もパーカッシブなクラスターも全ては一本の経糸でつながり、どこか和情緒をも感じさせる。という意味では、日本人フリージャズの伝統に連なる演奏といってもよいだろう。ところで音楽には時間芸術の側面があって、時間が止められるような心地がしたり、伸縮した気分にさせられたり、さまざまな感じ方をするものであるけれど、ふたりの演奏はというと、音の「エントロピー」が時間容量にそのまま遷移するような不思議な感覚がある。


参考動画(くうでのライブを、照内さん本人がアップしていた)
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Benoît Lugué - Cycles

Denis Guivarc'h 参加作を聴く。


Benoît Lugué - Cycles(2017)
Benoît Lugué(b, synth bass, compositions) Matthis Pascaud(g, lap steel) Martin Wangermée(ds) Denis Guivarc'h(sax) Johan Blanc(tb, micro korg) Olivier Laisney(tp) + Magic Malik(fl, vo) Sara Llorca(vo)


こういうのはコンテンポラリージャズと言うのか、フュージョンと呼ぶべきなのか、よく分からない。まあデニスが入っていなければ決して聴く機会のない種類の音楽ではある。デニスは決して主役ではないのだけれど、彼の輝かしいアルトが現れれば耳がくぎ付けになるのは間違いない。だれか、彼が思う存分ブロウするアルバム(できればライブ盤)をプロデュースしてあげてはくれまいか。