あうとわ~ど・ばうんど

Noël Akchoté - KCS (Kansas City Sessions)

とにかく矢継ぎ早にデジタル作品をリリースしてくるノエル・アクショテが、また面白いアルバムを出してくれた。当然、メアリー・ハルヴァーソン参加である。

KCS (feat. Mary Halvorson, Han Bennink, Brad Jones, Joachim Badenhorst) [Kansas City Sessions]

KCS (feat. Mary Halvorson, Han Bennink, Brad Jones, Joachim Badenhorst) [Kansas City Sessions]

Joachim Badenhorst(cl, bcl, ts) Mary Halvorson(elg) Noël Akchoté(elg, musical direction) Brad Jones(b) Han Bennink(ds)


今年3月7日、パリでのライブ。メンバーは最近コラボレーションの多いアクショテとメアリーの2人に加え、ヨアキム・バーデンホルストブラッド・ジョーンズ、そして何とハン・ベニンク!の5人。さらに何と何と、このクインテットがテーマにしているのは、タイトルからも察せられようが(?)カンザス・シティー・ファイヴ(ないしシックス。ただし、そのレパートリーを演奏しているわけでもないが)なのだからまた驚きである。

しかもこれがなかなか良い。表面的にはかなりオーソドックススタイルというか、オールドスクールな体裁を繕っているのだけれど、その裏で両ギターは妖しさ(あるいは、怪しさ)満点で、ソロになればバーデンホルスト含めフリーに弾けもするが、デューク・エリントンの例を持ち出すまでもなくプレモダンとフリーは実はとても相性が良くって、伝統的スタイルと奔放なプレイがとてもマッチしていて、楽しいことこの上なし。最終曲である「I'm Getting Sentimental Over You」が余韻を深く残す。

Miles Okazaki - Trickster

pi recordings の新作が届いている。

Trickster

Trickster

Miles Okazaki(g) Craig Taborn(p) Anthony Tidd(b) Sean Rickman(ds)


pi recordings ではお馴染みのギタリストだが、同レーベルからのリーダー作は意外なことに初めてのようだ。スティーヴ・コールマンを源流とするような特徴的なリズムの曲たちは、非常に呪術的でもあり、そしてどこかエキゾチシズムを感じさせもするのだが、クレイグ・テイボーンのピアノとの息はピッタリで、軽やかに鮮やかにとてもスリリングに泳ぎ切っていく。


試聴


Trailer
www.youtube.com

Evan Parker / Mark Nauseef / Toma Gouband - As the Wind

すでに3週遅れの話題になってしまったが、3月下旬に Sightsong さんと id:zu-ja さんに会った時、メモリアルの意味も込めて、2人が褒めていたCDを購入した。うち、zu-ja さんが書いていたエヴァンのアルバムをようやく聴く。

As the Wind

As the Wind

Toma Gouband(lithophones) Mark Nauseef(per) Evan Parker(ss)


zu-ja さんのブログによると、エヴァン自身は「最高傑作だ」と言っているらしいが、そこまでのものかどうかは受け取り手によってさまざまであろうけれど、かなりの良作であるのはたしかに疑いない。ソプラノサックスと打楽器と石琴、金属的な硬質な響きが空間を支配しつつも、埋めつくすところまではいかず隙間も多く、タイトルが示すような風というか、温かな息吹が感じ取れる。エヴァンの代名詞ともいえるアレも当然出てくるが、いつもの脳天に突き刺さる感じでなく、こんなに無数の多彩で豊かな音たちが鳴っていたのかと、あらためて再認識させてくれる録音も good。

ところで巷には「音楽療法」なる代替医療があって、高齢者ケアの現場などで懐メロなぞを聴かせると、塞ぎ込みがちだった高齢者が思い出の曲に笑顔になる、というようなことがあるらしいのだが、自分も将来そういう立場になったときは、こういう音楽を聴いて目を輝かせるような老人になりたいものである。

Neuköllner Modelle / Sektion 3-7

f:id:joefree:20170411230645p:plain:w550
Neuköllner Modelle / SEKTION 3-7
umlaut records, 2017)
Bertrand Denzler(ts) Joel Grip(b) Sven-Åke Johansson(ds) Alexander von Schlippenbach(p)


仏・瑞・独の混合グループによる2枚組アルバム。なお同レーベルからは昨年も「SEKTION 1-2」というアルバムが出ているが、シュリッペンバッハが参加していない(もしかすると本作はゲストなのかもしれない)ことに加えて、フォーマットがLPだったのでスルーしている。シュリッペンバッハの相棒テナーといえば、皆の頭に一致して浮かぶのはあの人だろうが、比べてしまうのは酷だ。デンツラーのテナーはぐじゃぐじゃぬらりくらりと吹き続け熱を帯びてゆく、というスタイル(ロドリゴ・アマドを思い出した)で、展開がハマれば興奮ものである。が、結局個人的にはもっと分かりやすいフリージャズサックスが好きなんだよなあ。

Martin Archer - Story Tellers

3月下旬に、今まで聞いたことのない奏者のアルバムを何枚か仕入れた、ということで2枚紹介したが、その後に届いたCDを上に積んだため、残りのアルバムは下に積まれっぱなしになっていた。で、最近ようやく残りのタイトルを確認してみたところ、気に入ったので他にも聴いてみたいと書いた Martin Archer の作品がもう1枚出てきたので驚いた。(その時も書いたが、何を購入したのかすっかり忘れていたのだ。面目ない)


Martin Archer - Story Tellers
Discus Music, 2016)
Mick Somerset(C, alto, bass, meditation, geisha & drone flutes, chalumeau & bcl, shawm, shruti boxes, shaman drums, bells, rattles, gongs, trine, jews harp) – The Wounded Healer
Martin Archer(as, sopranino & bs, bcl, bass recorder, fl, shaker, chimes, loops & electronics) – The Casuist
Kim Macari Stone-Lonergan(tp) – The Barbarian
Corey Mwamba(vib) – The River Follower
Anton Hunter(g, electronics) – The Rain Maker
Peter Fairclough(ds, per) – The Wayfarer’s Bastard


Sunshine! Quartet とは趣を全く異にした、2枚組の長大なコンセプトアルバム。5ないし6章からなる6つの「Book」で構成された物語集というイメージだろうか。セクステットの6人にはそれぞれキャラクターが割り振られ(パーソネル末尾参照。どれも碌でもない役柄のようにも見えるが)、6ブックのいずれかで「主役」を務めることになる。どのブックも冒頭は「ストーリー・テラーズのテーマ」で始まり、それぞれの物語(どれも20分以上)が展開される。Martin Archer としてはどうやら、ワダダ・レオ・スミスの「Ten Freedom Summers」のような作品にインスパイアされたようで、本作自体、スミスとムハル・リチャード・エイブラムス、ロスコー・ミッチェルの3人に捧げられている。ただし聴いた感想としては、AACM というより、エレクトリックマイルスのようなのだけれど、表面的には。

Barre Phillips - No Man's Zone

No Man's Zone

No Man's Zone

Barre Phillips(b) Emilie Lesbros(chant)


厳密な意味ではバール・フィリップスの即興作品ではない。ある映画のサウンドトラックである。どんな映画かはさしあたって問題でない(とはいえ、ジャケットを見ればひと目で分かる)。柔らかで豊かで深いフィリップスのベースがどこか民謡の旋律を思わせ、エミリー・レスブロスの「声」もまた、唱詠のようでもあり笛奏のようでもある。音楽はひたすら、たんたんと進行していくのだが、何とも言えぬ感銘にとらわれる。

Berlin Soundpainting Orchestra - Holothuria

先日の VOB Trio のアルバムと同時に購入した、Rieko Okuda さん参加の一枚。


Berlin Soundpainting Orchestra - Holothuria
AUT Records, 2016)
Charlotte Barnett(voice) Bianca G.(voice) Makiho Yoshida(violin) Penelope Gkika(violin) Davide Lorenzon(as, bcl) Federico Eterno(as, cl) Jonathan Lindhorst(ts) Dominic Sell(elg) Bob Meanza(electronics) Kriton B.(harmonium, objects) Rieko Okuda(p) Adam Goodwin(b) Antti Virtaranta(b) Adrian David Krok(ds) Hada Benedito(artistic direction, composition, soundpainting)


当ブログでは PBB や Edoardo Marraffa の参加作リリースでお馴染み AUT Records からの作品(イタリアのミュージシャンが多いから、てっきりイタリアのレーベルかと思ってたのだけど、ドイツのレーベルだったのね)。本作はグループ名が体を表していて、チェンバージャズやらコレクティブインプロやらミニマリズムやらクラシック風やらサイケ風やらアンサンブルやらを次々と空間に塗りたくっていく。ちなみにタイトルの「Holothuria」は海鼠の学名だそうで、アルバム前半を占める「海鼠組曲」は、言われてみればなるほど海のイメージかもしれない。VOB Trio からはドラムを除く2人が参加し、Okuda さんはここではピアノを弾いている。メンバーの中では3曲目「Encounter with a Mollusk」におけるアルトサックス(2人いるが、Davide Lorenzon なのではないか)にすごく惹きつけられた。


ティザー
www.youtube.com

参考動画
www.youtube.com