あうとわ~ど・ばうんど

Momentum 1 : Stone (前半)

ようやくヴァンダーマークの新作6枚組に取り掛かる。が、2回に分けて、まずは前半(Disc 1~3)だけ聴く。


Momentum 1 : Stone
Audiographic Records, 2016)
Disc 1:Sylvie Courvoisier(p) Chris Corsano(ds) Ingrid Laubrock(saxophones) Ken Vandermark(reeds)
Disc 2:Mat Maneri(viola) Joe McPhee(ts) Ken Vandermark(reeds)
Disc 3:Tom Rainey(ds) Ned Rothenberg(saxophones) Ken Vandermark(reeds) Håvard Wiik(p)


ケン・ヴァンダーマークが昨年1月、ニューヨークはダウンタウンミュージックシーンの根城「The STONE」に乗り込み(まあこれが初ではないが)、6日間計12セットにわたって繰り広げたレジデンシーから、スペシャルセッション6セットを収録した選集(残る6セットは彼のレギュラーグループないし Eric Revis とのカルテット)。Disc 1 は初日の 1st セット、Disc 2~3が2日目の両セット(各日のセットリストはこちら参照。残念ながらジョン・ゾーンとの共演は実現しなかったようである)。各セッションの企画意図については、筆まめで記憶力抜群のヴァンダーマーク自身が例によってライナーノーツで丁寧に説明しているのだが、各地のフェスティバルで何度も演奏姿を観つつも共演は初めて、というイングリッド・ラブロックやトム・レイニーとのセッションが、気合入りまくりでとにかく熱い。特に開幕を飾ったラブロックとの共演は、先日の Relative Pitch の新作でも存在感抜群だったクリス・コルサノとシルヴィー・クルヴォアジェの活躍もあって物凄いことになっている。ラブロックとヴァンダーマークの相性も素晴らしくて、このカルテットはレギュラー化してもよろしいんじゃないでしょうか(いずれはヴァンダーマークとメアリーも…と淡い期待を抱きつつ)。なお Disc 2はヴァンダーマークとジョー・マクフィーの気心知れた共演ながらマット・マネリの存在感もあって室内楽的響きが新鮮(このトリオで今年ヨーロッパツアーをするらしい)、Disc 3でのネッドとの共演は互いに歩み寄っているような交わり合いが好印象である。

Corsano Courvoisier Wooley - Salt Task

Relative Pitch Records の新作をもう一枚続けて聴く。

f:id:joefree:20170115191410j:plain
Corsano Courvoisier Wooley - Salt Task
Relative Pitch Records, 2017)
Chris Corsano(ds) Sylvie Courvoisier(p) Nate Wooley(tp)


全4曲は「Salt Task」「Last Stats」「Tall Stalks」「Stalled Talks」と言葉遊びのようなタイトルが並んでいるが、演奏されているのも繊細でエッジの利いた音遊び、という印象。先日のメアリーとのデュオが良かったクルヴォアジェが、ここでも理知的なプレイで存在感を発揮している。


参考動画
www.youtube.com

Sylvie Courvoisier Mary Halvorson - Crop Circles

メアリー・ハルヴァーソン、新年一発目の新譜が届いている。

f:id:joefree:20170115051516j:plain
Sylvie Courvoisier Mary Halvorson - Crop Circles
Relative Pitch Records, 2017)
Sylvie Courvoisier(p) Mary Halvorson(g)


こりゃ良いや。全10曲はシルヴィー作曲が4曲、メアリー作曲が6曲だが、アルバム全体で統一性が取れている感じ。2人のコラボレーションはとても息が合っていて、スリリングだったり、心がふわふわ遊んだり、抒情味にじっくり浸ったり。そういえばシルヴィーは夫マーク・フェルドマンとのデュオが長く、弦楽器とのコラボレーションはお手のもの、とはいえ、重力が揺らぐようなメアリーのギターとの相性がこれほど良いとは思わなかった。大傑作とか凄みとは違うけれど、折に触れて愛聴していきそうな予感。

Ornette Coleman / Sound Museum : Hidden Man

ヴァンダーマークの6枚組を寝かせたまま、再び中古盤に戻る。

Sound Museum (Hidden Man)

Sound Museum (Hidden Man)

Ornette Coleman(as, tp, vln) Geri Allen(p) Charnett Moffett(b) Denardo Coleman(ds)


Sound Museum (Three Women)」は持っている(昨年5月20日参照)が、こちらは未聴のままになっていた。「Three Woman」と、全14曲中13曲まで同じ曲が演奏されるが、アレンジは違う。ので、同じような作品を聴いている感じはしない。そういえばオーネットは「フリー・ジャズ」におけるダブルカルテットをはじめ、「ダンシング・イン・ユア・ヘッド」ではA面もB面も同じ曲を演奏し、「In All Languages」でもプライムタイムとオリジナルカルテットに同じ曲を演奏させ、そもそもプライムタイム自体がツインベース・ツインドラム、といった具合に対置手法が好きなミュージシャンなのであった。「Three Woman」と「Hidden Man」はそれぞれのアレンジに一長一短あり甲乙つけがたいが、本作の方には異質なヴォーカル曲が収録されていない(代わりに入っているのが「What A Friend We Have In Jesus(星の世界)」なので驚く)し、オーネットの吹きまくり度が高い気がするので、こちらに軍配を上げたい。


試聴
www.youtube.com
www.youtube.com
www.youtube.com



ところで、オーネットの生前最後のパフォーマンスをとらえた「CELEBRATE ORNETTE」が発売されたが、オーネットの公式HPから直接注文できるようになっている。本体100ドルに送料が30ドルかかるけれど、日本国内の某店(既に売り切れたらしいけれど)で買うより1万円近く安い。あー楽しみだー。

DEK Trio - Burning Bellow Zero

中古盤を一服して、ヴァンダーマークの新作を聴く。

Burning Below Zero

Burning Below Zero

Elisabeth Harnik(p) Didi Kern(ds) Ken Vandermark(reeds)


ヴァンダーマークと、オーストリアの若手による新トリオ(だと思う。詳細はよく分からない)、2014年録音。ヴァンダーマークには数多のグループがあって、その大半にコンセプチュアルなネーミングが施されているが、メンバーの頭文字だけというシンプルなものは、DKV Trio(と既に活動を停止した DK3)ぐらいしかなく、まあパーマネントグループでもデュオでもないから適当に付けたという可能性もないではないが、それなりに期待感を込めたネーミングなのであろう。ヴァンダーマークはいつも通りと言えばいつも通り、若手がヴァンダーマークを煽りきっているとは言えず、胸を貸しているような印象で、もし次作があるのならそのあたりの進化を期待したいところ。


参考動画(レコーディング翌日のライブ)
www.youtube.com

Misha Mengelberg Quartet - Four In One

Four in One (Hybr)

Four in One (Hybr)

Misha Mengelberg(p) Dave Douglas(tp) Brad Jones(b) Han Bennink(per)


ミッシャ・メンゲルベルクの2001年作品。エリック・ドルフィーの「ラスト・デイト」で有名な名オリジナル「Hypochristmutreefuzz」から始まり、彼の自作曲が8曲、合間にタイトル曲を含むセロニアス・モンクの3曲、の計11曲。表面上はかなりオーソドックスなジャズ演奏だが、ミッシャのフリーな精神と諧謔味に富んだ天衣無縫なピアノはさすがの名人芸。ミッシャ自身のスタイルもそうであるし、冒頭曲の曲想から、モンクに私淑していたドルフィーが彼のことをとても気に入った理由も分かろうというものだ。正直言ってダグラスはいてもいなくてもいいと思うけれど、まあミッシャの引き立て役として主旋律を奏でる人も必要だろう(笑)。


試聴
www.youtube.com

Anthony Braxton Quartet - 8 Standards (Wesleyan) 2001

昨夜に続き、ブラクストンのスタンダード演奏を聴く。

f:id:joefree:20170110023614j:plain
Anthony Braxton Quartet - 8 Standards (Wesleyan) 2001
Barking Hoop Recordings, 2002)
Anthony Braxton(sopranino, ss, as) Kevin O'Neil(g) Andy Eulau(b) Kevin Norton(ds, glockenspiel, per)


タイトル通り8曲のスタンダードは、「エアジン」や「いつか王子様が」を除けば有名とは言い難い曲ばかり(個人の感想です)。演奏はと言えば、先日のチャーリー・パーカー・プロジェクトに比べると、ややかったるく感じてしまうのだけれど、それはブラクストンが曲のムードに沿ったソロを取ることが多いほか、ブラクストンが抜けた後の3人があまりにも無防備にジャズを演奏してしまうから、だろう。(なお余談だが、ギターとドラムの両ケヴィンはそのままで、ベースをジョン・エイベアに差し替えると、当時のスティーヴ・リーマン・グループのリズムセクションになる)