あうとわ~ど・ばうんど

林栄一 小埜涼子 / Beyond the Dual 3

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林栄一 小埜涼子 / Beyond the Dual 3
R-Records, 2016)
林栄一(as 右) 小埜涼子(as 左) + 吉田達也(ds)


またしてもライブ会場限定盤かと思っていたら、なんと小埜さんのホームページから購入できるようになっていたので、ありがたく注文させてもらった。多重録音を駆使して作り込んだプレス盤の2枚目から一転、ファーストと同じライブ選集のCD-R盤となっており、デュオに加えて、吉田達也さんがゲスト参加したトリオの演奏が最終曲に追加されている。1枚目と2枚目に収録されていた「ナーダム」は今回は収録されておらず、その代わりなのかどうか「ペンタゴン」が演奏されている。それにしてもやはり、アルト2本のみで奏でられる世界の、何と芳醇であることよ。この組み合わせはいずれまた体験してみたいし、それより何より、小埜さんにはせっかく出身地なのだからもっと頻繁に北海道に来てもらいたいものだ(注文時のメールのやり取りで「来年いこうかと思っている」と書いてはくれたが)。

Arthur Rhames Trio - Live from Soundscape

中古盤にて入手。ようやく適正(と思える)価格で購入できたのだ。やれやれ。

ライヴ・フロム・サウンドスケイプ

ライヴ・フロム・サウンドスケイプ

Arthur Rhames(ts) Jeff Esposito(p) Jeff Siegel(ds)


89年に32歳で夭折したテナーサックス奏者アーサー・レイムスは、今世紀に入ってから Ayler Records によって「Dynamic Duo: Remember Trane & Bird」「Two In NYC」の2作品が発掘されたことで、ようやく全貌が明らかになったと言えるが、もっとも私自身は本盤をリリース時には聴いておらず今回初めて耳にしたわけであって、先にアイラー・レコーズ諸作を聴いてしまったがために衝撃度という点では一歩譲ってしまうけれど、本作をリリース時に初めて聴いた人の度肝を抜いたことは想像に難くない。

レイムスにとっての不幸は夭折したことではなく、その真価を極限まで発揮させてくれるメンバーに巡り合えなかったことであって、それはラシード・アリとのデュオにおいてさえも、物凄い演奏ではあるが彼自身はまだまだ余力十分とすら言えることからも明らかだ。本作もまた発表を前提とした正規録音でなく、音質は今一つ、メンバーの実力も彼に見合っているとは言えないが、レイムスのひたむきなプレイは胸を打つ。

ところで前掲のホームページには、CD化されていない(と思われる)レジー・ワークマン・グループにおける音源なども紹介されているので、興味のある人には全力で推奨したい。


参考動画
www.youtube.com
www.youtube.com
www.youtube.com
www.youtube.com

I AM THREE - Mingus Mingus Mingus

エリック・ドルフィー曲集を演奏するグループ「Potsa Lotsa」(4月14日18日参照)の中心人物、ドイツ在住の女性リード奏者 Silke Eberhard が、今度はチャールズ・ミンガス曲集を演奏するグループ「I AM THREE」の新譜を出している。

MINGUS MINGUS MINGUS

MINGUS MINGUS MINGUS

Silke Eberhard(as) Nikolaus Neuser(tp) Christian Marien(ds)


Potsa Lotsa にも参加していたトランペットの Nikolaus Neuser に、ドラムを加えたトリオ。ミンガスのオリジナル(12曲)を演奏するのにベースレス編成というのは、野心的といえばよいのか、あるいはミンガスのベースを想像の耳で補ってほしいということなのかもしれない。Potsa Lotsa と同様に各曲は短めで、オリジナル曲の持つメロディー強度が前面に押し出されている印象だ。


試聴


Mary Halvorson & Noël Akchoté - Live in Strasbourg

メアリー・ハルヴァーソンとノエル・アクショテのギターデュオ、早くも2作目が出ている。

Live in Strasbourg

Live in Strasbourg

Mary Halvorson(elg) Noël Akchoté(elg)


なんと、フランスのストラスブールで5日に行われたばかりのライブの「録って出し」である。ステージのどこで録ったのか、観客の咳払いや話し声がよく聴こえるので、まるでプライベート盤のような雰囲気が満載だ。演奏されているのは11曲、うち9曲は前作(8月26日参照)と共通で、初披露はW. C. ハンディの「Ouverture / Careless Love」とスタンダードの「Just Friends」の2曲。全般的にくつろぎに満ちた「ジャズ」が演奏されている感じだが、やっぱり滋味深いことに変わりはない。


01. May 20th (Akchoté)
02. Can I V? (Akchoté)
03. Ouverture / Careless Love (W. C. Handy)
04. Flowers (For Mary) (Akchoté)
05. L'Herbe Tendre (Halvorson / Akchoté)
06. Icare Easter (Akchoté)
07. Just Friends (Klemmer / Lewis)
08. Dunja (Akchoté)
09. Gerfrais (Akchoté)
10. Strange Meeting (Bill Frisell)
11. Him & Her (Ornette Coleman)



Mary Halvorson の過去記事アーカイブ(旧ブログ)

吉田野乃子 アルバム発売記念ライブ & デモCD-R

昨夜は札幌くうへ。f:id:joefree:20161112014906j:plain:right:w200

吉田野乃子 solo ~アルバム『Lotus』発売記念、そして誕生日~
吉田野乃子(as)


野乃子ちゃんのソロアルバム「Lotus」(昨年10月23日参照)の1年遅れの発売記念ライブ。彼女のソロライブを観るのは昨年7月3日以来これが3度目であるが、内容は現在の彼女のソロプロジェクトのメーンであるループを使ったソロ演奏(アルバム収録曲+新曲)、無伴奏ソロ(「を一曲でもやらないと、ジョーさんに怒られる」と言われたのだけれど、そんなに意固地じゃございませんよ苦笑)、そして謎のフリップ?芸。


前回ライブから今回ライブの間にはアルバム発売があったわけだが、前回ライブ、アルバム、今回ライブと、いずれも受けた印象は異なっている。前回ライブがループソロの試行錯誤から作曲や方法論が明確になっていった時期、アルバムがその時点における達成だと解釈できるけれど、今回ライブはそのさらに変化形といったところか。ループソロの方は、ああこの曲の情感が増したなとかテンポが速くなったなとか、その深化を実感した(ほかにも、彼女が大好きだという師ネッド・ローゼンバーグのオリジナル曲が披露された)。なので、次にソロライブを観るときにはまたどんな変貌を遂げているか、楽しみが広がるというものである。



で、物販にてデモCD-Rを購入。

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Nonoko Yoshida Demo CD-R
吉田野乃子(sax, udu, g)


ループソロの新曲2曲(ライブでも演奏)とギターソロ、全3曲で約13分半。注目のギターは初めて弾いたらしいが、どこかマサダギターみたいに感じる部分もあって、いやあやっぱりさすがセンスや感性が出るよね、という演奏であろう。こちらの道も、できれば極めてもらいたい。

(なおここから先は音楽を楽しむ妨げになるかもしれないので、それでもいいと思う人だけ読んでください)

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Nate Wooley - Argonautica

ネイト・ウーリーとピーター・エヴァンスのデュオ新譜(5日参照)はやや不満な内容だった(むろん私の好みの問題である)が、それを吹き飛ばす作品がエヴァンスは「Genesis」(同日参照)だったのに対し、ウーリーの場合は本盤である。

Argonautica

Argonautica

Nate Wooley(tp) Ron Miles(cor) Cory Smythe(p) Jozef Dumoulin(rhodes, electronics) Devin Gray(ds) Rudy Royston(ds)


トランペット(コルネット)2本、アコースティックとエレクトリックの鍵盤楽器2台、ドラム2組、のダブルトリオ編成だが、サウンドは一体となっていてトリオが対置されている感は全くなく、変則セクステットというべきだろう。全1曲43分のアルバムで、ウーリーの無伴奏トランペットソロで始まり、序盤はオーソドックスなジャズスタイルも聴かれるが、やがてヨゼフ・デュムランの妖しいフェンダーローズに導かれるようにサウンドが過激化・先鋭化していき、幾度となく興奮が訪れる。いやーそれにしてもやっぱりデュムランのキーボードプレイは素晴らしい。ここでもリーダーを差し置いて主役級の大活躍である。


試聴

Peter Evans Quintet - Genesis

id:kanazawajazzdays さんの記事で、ピーター・エヴァンスの新作が既に出ていたことに気づいた。

Genesis

Genesis

Peter Evans(tp, piccolo tp, compositions) Sam Pluta(live electronics) Ron Stabinsky(p, syn) Tom Blancarte(b) Jim Black(ds, per, electronics)


ピーター・エヴァンスクインテット3枚目、ピアノがスタビンスキーとなった現体制では「Destination: Void」(14年12月31日参照)に続く2枚目で、初のライブアルバムとのこと。先月、今年ナンバーワン級の大傑作トランペットソロ作品「Lifeblood」(10月13日参照)を聴いたばかりだが、エヴァンスはとにかく物凄いレベルの作品をとにかく物凄いペースで(ゲスト作品含め)量産するので、追いかけるのは大変だとぼやきつつ、嬉しい悲鳴が止まらない。100分近いアルバムはとにかく物凄い熱量で、ジャズの歴史を矢継ぎ早に参照しながら、とにかく物凄い勢いで突進(ハンニバル・マーヴィン・ピーターソンの影を其処彼処に感じてしまうのだけれど)しつつ、しかしとにかく物凄くクールで、こうしたところも彼の魅力である。ところでエヴァンスに対して、技術偏重、という批判があるかもしれないが、ジャズ史において時代を画する表現とは、新しい技術の開発によって生み出されるのであり、逆ではない(これは産業史などでも同じだろう)。だから彼のとにかく物凄い技術が今後、どんな新しい表現に行き着くのかも非常に期待している。


試聴



Peter Evans の過去記事アーカイヴ(旧ブログ)