あうとわ~ど・ばうんど

THE DKV THING TRIO - Collider

つつつついに届いた。

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THE DKV THING TRIO - Collider
Not Two Records, 2016)
Ken Vandermark(ts, bs, cl) Hamid Drake(ds) Kent Kessler(b) Mats Gustafsson(ts, bs) Ingebrigt Håker Flaten(b) Paal Nilssen-Love(ds)


しばらく前から Not Two Records のリリース予定に載っていながら「Pending」となっていた、DKV Trio と The Thing の合体グループ作品である。音源は2014年11月、ポーランドクラクフでのライブ。アルバムタイトルが「衝突型加速器」なのだから、同じエネルギーに加速された2つの粒子線同士が正面衝突し、どんな莫大なエネルギー反応が生まれるのか、期待はいやがうえにも高まっていた。聴いてみると確かに物凄い熱流がCDから飛び出してくるものの、単なる衝突だけには収まらない。2つのグループが互いを立て合う「デュオ」の側面もあり、融合して新たな物理現象を見出そうとしているようでもある。だが1枚3曲(54分)では全然物足りない、もっともっと聴きたいぞ。

Switchback - Live in Ukraine

マーズ・ウィリアムスの新譜を聴く。


Switchback - Live in Ukraine
Multikulti Project, 2016)
Mars Williams(saxes, toys) Wacław Zimpel(clarinets, tarogato, shrutibox) Hilliard Greene(b) Klaus Kugel(ds)


昨年ベストの一枚にも選んだ Switchback の新作は、昨年4月のウクライナにおけるライブ(ちなみに、前作もタイトルには明記されてないがドイツでのライブであった)。さぞや怒涛狂乱のライブが・・と期待しまくりで聴いてみたら、意外やそういった成分は思っていたほど多くはなかった(むろん少なくはない)ものの、いやいやご心配召されるな、マーズもジンペルも根本的な吹奏技術はフリージャズという括りを取っ払ってジャズ界全体でみてもトップクラスなのであって、徹頭徹尾吹きまくるというのもそれはそれでけっこうだが、緩急硬軟に何をやっても圧倒的(グリーンやクーゲルも同様)であり、次から次へとさまざまな要素に満ちた場面が現れては快楽が押し寄せる展開が続いていく。なお、ライブの場、というのが影響しているのか、全体に東欧的趣きが通底しているようにも感じられる(最後にウクライナのトラディショナルが披露されてもいる)。次作も待ち遠しいぞ。


アルバム収録時のライブ映像
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Mars Williams の過去記事一覧(旧ブログ)

Kris Davis - Duopoly

これも twitter で気になったアルバム。CD+DVD を注文(10/12到着)しつつ、ボーナスデジタルトラックを聴く。


Kris Davis - Duopoly
(Pyroclastic Records, 2016)
Kris Davis(p) Bill Frisell(g) Julian Lage(g) Craig Taborn(p) Angelica Sanchez(p) Billy Drummond(ds) Marcus Gilmore(ds) Tim Berne(as) Don Byron(cl)


クリス・デイヴィスがさまざまなゲストを迎えたデュオ集だが、同じ楽器を2人ずつそろえた(ティムとドンは木管リード楽器としては同じ)ところが面白い。それでタイトルが「デュオ・ポリ」なのだろう。各デュオはジャケの順番通り、左→右で上から下に行き、さらに逆順で戻っていく。どの演奏も美しくスリリング、と感じた。私が最も印象に残ったのはティム・バーンとのデュオで、そういえば昔、林栄一さんが山下洋輔さんから聞いた話として、山下さんが「ウェイズ・オブ・タイム」(ちなみにこのアルバムは山下トリオ結成25周年記念盤と銘打たれているが、気づけばあと3年で50周年ですね)でティムと共演した時、ティムのことを『ニューヨークの林栄一』と感じたらしいのだが、本作におけるデュオを聴きながら突然そんなことを思いだしたりした。


参考(DVDの全映像と思われる)
https://vimeo.com/184521947

Sextet 2003 - Complete Sessions / parallactic 54

先日 twitter で見かけて気になった音源を聴いてみる。


Sextet 2003 - Complete Sessions / parallactic 54
Anthony Braxton(ss, as, sopranino, cl) Sonny Simmons(as, english horn) Brandon Evans(ss, ts, bcl) André Vida(bs) Shanir Ezra Blumenkranz(b, oud) Mike Pride(ds, per, glockenspiel)


70年代生まれのブランドン・エヴァンス、アンドレ・ヴィーダ、シャニール・エズラ・ブルーメンクランツ、マイク・プライドという録音当時20~30代の4人と、45年生まれのアンソニー・ブラクストン、33年生まれのソニー・シモンズによるセクステット。2003年に録音された2枚組アルバムを、ちょうど10年後の13年に「完全版」としてデジタルリリースしたもの、ということらしいが、私にとっては初聴である。

一聴して感じ取ったのは、エリック・ドルフィーの影響。ドルフィーの仲間でもあったシモンズによる表面上はドルフィー似のサウンドはもちろんのこと(シモンズのオリジナル曲「Echoes Of Dolphy」も演奏されている)、ブラクストンの偏執狂的フレージング、ブランドン・エヴァンスやアンドレ・ヴィーダのサックスにも、ドルフィーリスペクタブルな精神性が感じ取れる気がするのは僻目だろうか。もしドルフィーが生きていたら、こういう方向性もあったかもしれない、と思わせる。

Buell Neidlinger - Gayle Force

ロジャー・ターナーのライブから昂揚して帰宅したら、これが届いていたのでさらに昂揚した。

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Buell Neidlinger - Gayle Force
k2b2 Records
Buell Neidlinger(b) Charles Gayle(ts) John Bergamo(ds)


これは瞠目すべき音源。なんと1965年、チャールズ・ゲイル26歳の初レコーディングである。ゲイルが「ホームレスミュージシャン」として表舞台に現れたのは80年代後半、50歳に手が届こうかという年齢であったのだから、それより20年以上も前の録音。1939年生まれの彼が、若いころから音楽一筋に生きてきたことはよく知られているから、80年代以前の音源があってもけっして不思議ではないのだが、それでもやはりこれは驚愕の発掘音源である。

もともとはビュエル・ネイドリンガー(セシル・テイラースティーヴ・レイシーとの共演が有名)の私蔵音源だそうで、ジョン・ベルガモフランク・ザッパの「Zappa in New York」に参加)らとのある日のジャムセッションに、テナーを持ってふらりと現れた黒人青年が驚愕のプレイを展開したので、プライベート録音を敢行したのだという。いやあよくぞ録っていてくれました、よくぞ出してくれました、の貴重な一枚である。

アルバムは全5曲、34分ほど。音質も悪くない。オーネット・コールマンの「ロンリー・ウーマン」も演奏されていて、後年のような何となくそんな感じ、ではなくデフォルメしつつメロディーが聴き取れるなど、その後完成される「血を吐くようなブロウ」スタイルからみれば未熟な所もある。が、怒涛の吹きっぷりで圧倒する曲もあり、芯の部分は全く変わっていないといえる。ゲイルは最初からゲイルであった。

65年といえばフリージャズが隆盛を迎えようとしていた時代。アルバート・アイラーが絶頂期に入り、若きゲイルのプレイに彼の影響が感じられるような気がするけれど、そういえばゲイルはアイラーの3歳下のほぼ同世代なのであった。もしかすると影響ではなく、独自に到達したのかもしれない。しかしこれだけ吹ける逸材が、どうしてその後20年以上もシーンから姿を消さなければならなかったのか。同時代のESPレーベルのアヤシイ作品群のことを考えると、本当に不思議でならない。

とにかく、ゲイルのファンならば聴いて損はない。


試聴
www.youtube.com


残念ながら国内では取り扱っているショップが見当たらず、私はやむなく米 Amazon でCD版を入手したが、DL版ならば iTunes で購入できる。

Gayle Force

Gayle Force

  • Buell Neidlinger, Charles Gayle & John Bergamo
  • ジャズ
  • ¥750



チャールズ・ゲイルの過去記事一覧(旧ブログ)

John Tchicai / Tony Marsh / John Edwards - 27 September 2010

OTOROKU のDLアルバムに戻る。(ところで OTOROKU 音源が続いているのは、以前デジタル会員になったことをすっかり忘れていて、無料DL権がたまっていたので、最近大量DLしたせいである)

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John Tchicai / Tony Marsh / John Edwards - 27 September 2010
OTOROKU
John Tchicai(saxophones, fl) John Edwards(b) Tony Marsh(ds)


実はあまり期待していなかったのだが、なかなか良かった。ジョン・チカイというと、デンマークから60年代にニューヨークへ渡り、アルバート・アイラーの「New York Eye And Ear Control」やジョン・コルトレーンの「Ascension」、New York Art QuartetNew York Contemporary Five に参加していて、当然それらに耳は通しているものの、正直言って何だか気の抜けたアルトだなあ、という程度の印象でしかなかった。だから彼がつい最近(2012年)まで存命で演奏活動をしていたことも、後年はテナーを主奏楽器にしていたことも知らなかったのだけれど、これを聴くと、いっけん気の抜けたようにも聴こえるリラクゼーションに満ちた演奏こそが彼の個性だったのかと、ようやく気づいたのだった。ちなみに、これはテナーに持ち替えたからこそ気づけたのだろうとも思ったのだが、ブログを書くために70年代以降の音源を YouTube で聴いてみたら、アルトでもまったく悪くはなくて、もっとも若いころは切迫感とか凄みのある演奏に惹かれるもので致し方ないのだと言い訳しつつ、つくづく馬鹿耳であるよなあと再認識した次第なのである。


試聴

坂田明 × 岡野太 / duo improvisation

OTOROKU を再び小休止して、坂田明さんの新譜を聴く。

duo improvisation

duo improvisation

坂田明(as) 岡野太(ds)


「JAZZ非常階段」の新宿ピットインでのライブから、今年3月19、20日と一昨年4月22日における坂田×岡野デュオを抜き出し、音盤化したものとのこと。JAZZ非常階段のライブでは必ずこのデュオが披露されているようで、そういえば昨年3月28日の「JAZZ非常階段+JAZZめるモ!階段」をなぜか現地で観ていたのだが(登場した「アイドル」たちに関しては、からきし理解の範囲外だったのだけれど、考えてみれば、その夜の出演者で私にとってアイドルは坂田さんなのだった笑)、そこでもこのデュオが行われて、とびきり鮮烈な印象を残してくれたのだった(その時の録音が収録されていないのは、当夜の模様がDVD化されているからだろうか。「私をノイズに連れてってLIVE! [DVD]」)。


収録3曲合わせて30分弱の短いアルバムながら、どれも凄絶で密度が濃い。とくに2曲目のインプロで坂田さんが引用する「早春賦」は、まるで「モントルー・アフター・グロウ」の「ゴースト」における「赤とんぼ」のように響き、激しく胸をかきむしられる。